Ifeel dizz




16

 鼻血ジェット噴射で月まで飛ぶかと思った。
 こんにちは見知らぬ天使!と超級のスマイルを満面に浮かべて扉を開いたその向こう、見えた目に優しい色に沈没する。知らない人だと思ったのに。何で今こ のタイミングでアンタが出没してくれやがるんだ。
 クソピッコロッ!

 「死ね」
 ガスン、と脳天に痛烈なチョップを食らい視界が明滅した。ただでさえ凶悪なツラが更に殺人鬼の如く歪み切っている所から察するに、どうやら発音明瞭に口 に出していたらしい。
 思った以上に動揺している精神を、痛みを軸に整える。ふー、と深く深く息を吐き出して。
 「・・・ブルマさんにでも何か御用で?クソピッコロさん」
 「頼むから今すぐ死んでくれ」
 再び同じ場所に、今度は拳骨を食らい流石に悶えた。後方に倒れかける身体を必死に前へと戻す努力は辛うじて報われる。代わりに壁へと凭れ掛かることで、 どうやっても攻撃を避けられない体勢となったことだけが心配。

 「あうぅ。で、誰に何の用事ですか。意表を突いてトラくんとか?」
 「お前だ」
 「・・・私?」
 昨日の今日で。
 口を開こうとして、そういえば約束も何もしていなかったのだと思い出す。なら今日来るのは不思議でも何でもなく当然の事だ。ただし、彼が暇人なのだとし たらという前提で。
 暇なんだろうな、十中八九。視線を豪奢な玄関のオブジェへと逸らして、緩む口元を押さえ思う。基本的に私は反省の人なので、笑ったら問答無用に殴られる のだという位が学習出来ない程に阿呆じゃない。

 「さ、早速修行ですか?」
 逃げ腰になるのは仕方がないと思って欲しかった。つい先刻までしていた会話が会話だ。
 「それ以外にオレがお前に一体どんな用があると言うんだ」
 「ほら、顔が見たかったとか、無事環境に適応出来てるかなとか、ええと・・・ラピュタが見付かる以上にあり得ませんけど、そういった感じのほのぼのする ような用事」
 「馬鹿か死ね」
 会って3分、三回目の死希望ってどういう。いや、悪いのは多分私の言動なんだけども、それにしても気が短くはないか。
 屁理屈を捏ねて更に御機嫌を低下させるのも私に不利に働くだろう。断るつもりも、ブチブチ言ったが実の所殆どないし───全くとは死んでも言えないけど ───ならばいつ修行に入っても同じことに違いない。諦めて溜息を吐いた。肩を竦めて正面に向き直る。
 「すっごい暴れたりするような修行ですかねえ?」
 「まずは気の使い方を教える。今日中には出来んだろうからな・・・外見的には立っているだけのようなものだ。まずはな」
 「まずは、ですか。・・・まあいいや・・・じゃあ───」
 行きましょうか、という言葉はピッコロの変化に飲み込まれた。

 変化。敢えて例えるならそう、最愛の彼女に出会った男が嬉しさを頑張って押し殺して仏頂面になりつつも、しかし雰囲気で喜び丸わかりで見ているこっちが 恥ずかしいバカップルの・・・片鱗。

 「ピッコロさん!」
 「悟飯」

 背後から響いた酷く嬉しそうな少年の声に訳もわからず恐慌する。もう一つ、本来恐れるべきであろう気配があったが、そちらは今は全く恐怖とは思えない。 寧ろ、この空間で「一人きり」にされないことに感謝すら覚え。
 私が思うことはただ一つだけだった。
 痛い。
 何か私にとって良からぬ事実が突き付けられる予感に、今は鼻血ジェット噴射で太陽までも飛行出来そうだった。



17

 「ピッコロさん、お久しぶりです!ブルマさんに御用ですか?」
 「いや、の修行をな・・・久しぶりだな、悟飯」
 えへへうふふと男同士の間を薔薇の花が飛び交っているような悪夢、まさか人生80年の予定の中で目にすることになるとは思いたくもなかったのだが、あ あ、目の前に繰り広げられる甘々しい光景は一体何だ。

 呆然と、精一杯に顔を引き攣らせて途方に暮れる私の肩に、あまりに不憫だと同情されたらしいベジータの片手が乗った。
 「・・・ナニコレ」
 「普段の、不愉快極まりない光景だ。クソ、何でここで邂逅してやがる・・・」
 無理矢理に目をベジータに向ける。見ているだけで糖尿病になりそうだった。会話は普通の筈なのに、何がそんなに甘味を分泌しているのだろう。
 「一応言うと、確か三日前にもあいつらは会ってる筈だぜ」
 「どこのバカップルだよ高だか三日で久しぶりって。年月外れの趣向を違えた恐怖の大王かあいつら・・・!」
 告げられた事実に戦慄した。今時、付き合って三日目の出来立てホヤホヤカップルの類でもそんな背筋がむず痒くなることは言うまい。つうか言うな。相手が 人間なら愛と正義の名の下に即刻殴りに参上するから。

 無言でベジータと顔を合わせる。厳正で公正で何にも代えがたいアイコンタクト論議の結果、薄ら寒い光景は見なかったことにして玄関を潜り、ガッチリと戸 を閉めた。





 「そういや何でベジータさんまでこっち来たんですか?」
 何事もなかったかのように扉に凭れて伺う。違う。ように、ではなく何事もなかった。私は何も見ていない。昨日からピッコロとかいう不可解な生物らしき物 体には遭遇していよう筈もない。
 そう思っとこ。

 問うて一分。緑色生物に勝るとも劣らない凶悪な眼つきで悠々とこちらを見詰めるベジータに、再度口を開く。聞こえていない訳はないだろうが、内容を聞き 流してくれた可能性は大いにあった。
 「ベジータさん。何でリビングからここまで、出てきたの?」
 「・・・あれに弟子入りしたとか行ってやがったな」
 セリフの後半と前半がぶつかり不協和音を奏でる。沈黙。つい「質問には質問で返しちゃいけません」とか言いたくなった。言ったら殺されそうなのでギリギ リで留める。
 「空を飛べるように、だったか」
 一瞬の間の後、はあ、と意図が掴めず頷くと、彼は性質の宜しくない笑みを浮かべた。先程の寒気とはまた格段に種類の違う怖気が背筋を侵食し、征服する。

 
 「受け入れる気があるのなら」


 YESと答える以外に、何を言えというのだろう。それは絶対の命令を暗に示して問われた。薄笑いが心臓を凍り付かせる。
 冗談じゃない、勘弁してくれ。
 震える口唇をそう動かそうとして・・・迷う。冗談ではなかったが、本気で勘弁して欲しい申し出だったが。
 (魅力的な言葉には違いない)
 唾液を飲み下す音が耳にやけに大きく届き、私は半ば無意識に首を振った。
 縦に。
 願って止まない事実に手が届くかもしれない。例え命令でなくとも、それだけで恐らく、私はそれを承諾していた。

 「出来れば、死なない程度に」
 「それは保障せんな」
 フン、と鼻を鳴らす彼の手を取ったことで、その先誰も彼もから“教え”を請うことになろうとは思いもしない。複雑な気持ちのままに“普通”を削剥する。


 ─────オレが、キサマを、強くしてやろう。



ちょっ と、2つで区切っときます。この後に修行編くっつけるのもアレなので・・・
こっからは日記連載せずに、ノーマル方式で短い修行編を更新していく予定です
つうかコレ何で一つに纏まらなかったんだ・・・そしたら前回のに組み込めたのに・・・


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