I feel dizz




17.5
(*DBキャラは一人も出ません)



 気紛れで文字通り飛んで来た見知らぬ土地は、黄土の乾いた土がのさばり植物がまるで見当たらない。耳元で唸る風も乾ききっていた。喉がいがらっぽいの は、恐らく空気が砂を含んでいるせいだろう。
 この世界を探索してみようと意気込んで出てきたのは良いが、さすがに2時間ぶっ続けで舞空術を使いっぱなし、それなりの速度で進んでいれば疲れてくる。 おまけにここ30分ほどは景色に変わりもなくていい加減飽きてもきた。小さな村でもあるか、と期待していたのだけれど。
 「こんだけ広いと、あってもわかんないかなー」
 もう諦めるのも、一つの手だろう。しかし折角チビ供を撒いてきたのに収穫何もなしで帰るのは惜しかった。
 空気と同じく乾いた唇を舐めて湿らせると、ざらざらと不快な感触が纏わり付く。何とはなしに服を叩いた。舞い落ちる結構な黄塵。飛行機雲のように航程を 彩るそれに今更ながらうんざりとして、あと10分だけ進もう、と決意した。







 「んお?」
 あと1分。もう仕方ねえかーとか思い始めた私の目に映ったのは、荒土の終わりと小さな村。少しの緑に寄り添うようにテントに似た建物が十数個密集してい る。村の隣には、村の規模と比較すればかなり大きな湖があった。
 口角が無意識に上がった。やっぱり日頃の行いが良いんだろう───とか言うとどこからともなく突っ込みが入りそうなので心中に留めるが、運が良いのは確 かだ。この広すぎるほど広い場所でこんな小さな村に出会えるとは。
 ラッキー。呟いて急降下する。村から湖を挟んだ反対岸の植物の陰に。いきなり空から降って行って驚かせるのも楽しそうだけれど、警戒されるのは詰まらな い。地面に降り立って、久々の大地に少しふらつく足を軽く解した。
 と─────

 「・・・あれ。枯れかけてんじゃんこの木」
 大樹とも呼べない中途半端な木の、生命力の弱さにふと気付く。見れば、日差しを遮る葉の三割は茶色に染まっていた。まだ夏の終わり。枯れるには気が早く はないか?
 眉を寄せて見渡せば、他の植物も同じようなものだった。
 花はひとつもない。傍らの中途半端なサイズの木より大きいものもない。それの半分にも満たない大きさの木はほぼ枯れて、地面を彩る筈の雑草はカメレオン よろしく土と同色に染まっている。
 「何で・・・」
 散々な有り様に呆然と立ち竦んだ。水がないとか、そういう理由ではない。ここは湖の間近なのだから。いや、そもそもだからこそ、ここに緑が生えてるわけ で。
 視界を阻む黄砂の絡んだ髪を掻き揚げる。

 訝しむ私を思考の淵から引き摺り上げたのは、突然の訛り声だった。
 「誰だいあんた」
 「へ?」
 考えに浸りすぎて、接近にさっぱり気付かなかった。慌てて振り返る。
 おっさんがいた。他に特に言いようのない、朴訥っぽい、何の変哲も特徴もない、40歳前後の、中肉中背で、何か普通すぎて最近縁のなかった種類の、一害 も一利もなさそうな、ようするに一言で纏めると、おっさんだった。このタイミングであんまり普通だったので動揺する。
 「え、ええと、誰って、通りすがりの、あなたに比べるとちょっと普通じゃないのかも知れない者ですけど」
 「何だか物凄い失礼なこと考えられた気がすっけども、こんなところにどうやって通りすがったってんだい」
 「人知の及ばぬ方法で」
 対応が対応なのでアレだけれどやはり思い切り訝しまれた。動揺を頑張って消して、急遽諸手を振って前言を補足する。
 「あ、いや。私、ここの常識ってあんま知らなかったからそう思うだけなんですけどね。えっと、ジェットフライヤー?とかそういうようなものみたいに、飛 んできました」
 嘘は言ってない。正確に言うと誤解されるようには言ったけれど、『ここ』の常識を『知らなかった』のは本当で、ジェットフライヤー『みたいに飛んでき た』のも本当だし。
 微妙な間の後、一応は納得してくれたようだった。ふうん、と気のない声を漏らし、おっさんが黙る。後退しかかった髪がワサワサと揺れる。何とはなしにお 互いが黙りこくり。

 いや、お見合いしてても仕方ないや、と気付いたのは1分後。
 「・・・一つ、聞いてもいいですか」
 気まずい沈黙を破ったのは言うまでもなく私だった。あっちも困っていたらしく、おっさんはすぐさま頷く。
 「ここの植物の枯れ方、普通じゃないと思うんですけど、何かあったんですか?」
 「・・・これなあ」
 彼はどこか怒りを含んだ声を漏らした。どうしようもない怒りを抑えるように一度言葉を切り、深呼吸。吐き出された溜息は、苦りきって耳に届いた。
 ざらり、と。乾いた土をひび割れ、節くれ立った手で掬う。さして抵抗もなくおっさんの手に収まった黄土は、やはり抵抗なく指の隙間から零れ落ち、風に浚 われていく。
 「土が、かわっちまったんだよ。あれから」
 憎々しげにそれを見守った男はぽつりと呟いた。
 「あれ?」
 「セルのせいだ!」
 疑問に答えはすぐに返った。多大な激情をもって。そして返された答えに、私は戦慄する。

 セル───数年前に地球を襲った巨悪のおおまかな話はベジータから聞いていた。完全になりたいがゆえに未来から襲来し、地球に恐怖をもたらした。破壊は それまでの戦いより少なかったらしいが、それでも大きな被害が出たことに変わりはない。何よりも人々に残されたのは物的被害よりも心の傷。
 それは自分の師匠も、悟飯も、トランクスも、これを教えてくれた本人も、私がこの世界で関わった全ての人が未だ抱えている痛みで。

 胸に降りた錘をよそに言葉は続く。
 「あれがこの土地を壊して、家もなんもなくなって、住む場所のなくなったオラたちは移動したんだ。幸い村の比較的近くにあった湖は無事で、植物は破壊さ れてたけどどうにかそこに村を再建して、もう大丈夫だと思ってた。一年後、いきなり空が暗くなった後、破壊された筈の植物が元のように生えたのは神様の思 し召しだと思ったよ。けども」
 神龍だ、と直感した。戦いが終わってから人だけ生き返らせたと聞いていたから、他の被害はどうしたんだと思っていたのだけれど、やることはやっていたら しい。1年もたったら「全部もとのように」とは願えなかったのだろう。地道に叶えていくしかないわけだ。だが。
 「吹っ飛ばされた土は栄養もなんも失っちまってたんだ。喜んだのも束の間、すぐに植物は枯れだしちまった!枯れきる前に慌てて建物の再建や補強に使った のはいいけどな、残ったもんもどんどん枯れてく。このままじゃ、あと3年もすりゃ全部なくなっちまうだろ」

 「あの人たち」は───順番を間違った。
 先を急ぎすぎて、土台を忘れた。或いは破壊から栄養云々の問題に繋がるとはもともと考えもつかなかったのか。何にせよ痛い失敗に違いはなかっただろう。
 「あの時一緒に死んだ筈のオラたちがどうして生きてるのかはわからんけど、生き返って、村も作り直して、植物も戻って、さあ希望が見えてきた!と思った 途端にこれじゃ・・・正直、また絶望まっしぐら。嫌がらせか、としか思えんね・・・」

 俯いた彼の顔を、見ていることは出来なかった。
 その希望を、「奇跡の貴重な一回分」を、遮ったのは何なのかなどいくら何でも察せずにはいられない。
 葬式のようなムードからさっさと離脱するべくおっさんに別れを告げ、私は帰路を辿る。
 心からの悩みを増強させて───。







 「戦いの傷痕・・・か・・・」
 いつになっても消えないだろうそれも考慮に入れないと。
 来るんじゃなかったと片隅で思いつつ、黄塵を切り裂いて滑空した。



18っ て言うのも違うんで、17.5話です
一回分の大きさに収めようと思ってたのになあ・・・
まあ、構成考えずに書くせいに他ならないんですけどね
DBキャラ名前しか出ないドリーム本編って・・・いや、それこそ今更です

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