もともと他人の誕生日なんて、覚える人間じゃないんですけども。
dizzy番外編
To kill two birds with...
歩いているだけで汗ばむことも増えてきた初夏。意識虚ろに過ごす午後の草原に寝転ぶ至福のとき。
彼の言葉が突然でなかったことはないが故に、今日もそれは突然だった。
「ピッコロさんの誕生日プレゼント、決まりました?」
毎度毎度の幕開け人───孫悟飯の向けた疑問に、はゆるゆると眉を寄せた。しっくりこない言葉が脳を通過する。よく聞く単語とよく聞く単語。二つが 合成されると何故こんなにもおかしな言葉が成立するのか。驚くを通り越した事実だ。
半ば広い青空に魂を飛ばしながら黙考する。飛行機雲を見送って、空景色が分割される頃。ふと横に座る少年が反応を求めていることに気付いて声を上げた。
「・・・・・・・・・は?」
「いや、は?じゃなくて。ていうかながーい沈黙の末がその一言ってどうなんですか」
「どうって」
ぐったりと肩を落とす悟飯に困る。どう、と言われても、自分の決定事項を根本から覆す事柄を説明するのはあまりに困難で。
上体を起こし困惑に顔を歪めたまま、少年と目を合わせた。
「だって、ピッコロさんの誕生日って」
「5月9日ですよ」
あっさり返されて更に狼狽。5月9日。せめて4月4日の不吉な数字日、6月6日の悪魔の日。百歩譲って何月かの13日で、生まれた日には金曜日、とか、 そんな逐一縁起の悪い日ではないのか。
ちなみにその日が誕生日な人、心からごめんなさい。
誰にともなく謝って数秒閉口。恐ると口を開く。
「あの人、ビッグバンで混沌から世界が誕生したときに一緒にいつのまにか生まれてきてた、とかで、つまり誕生日判明してないんじゃないの?」
「何をどう考えてそういうカオスに至ったのか、純粋に知りたいです」
「へえー、誕生日、普通にあったんだー。ふしぎふしぎ」
「さんがワンダーですから。らしからぬ素直さで現実を受け入れてナチュラルに無視しないで下さい」
大自然の驚異に折角人が感嘆しているというのに野暮な突っ込みを。大きく聞こえるように舌を打ち、やれやれと首を振る。
「で、誕生日とかいう奇怪なものがどうしたって?」
「いやだから、舌打ちまでしてるのに更に正面きってシカトしないで欲し・・・いえ、もういいです・・・」
込み上げる苦いものをひとつ耐え忍んだ少年は両手を上げた。それでいい。満足してうむと頷き、疑問の答えを促す。恨めしげな視線など今更さっぱり気にな らない。
「その上更に人の話聞いてなかったんですか。だから、誕生日のプレゼント───も、知らなかったんなら決めてる筈ありませんよね」
「まあ、決まってたらエスパーも真っ青だよね」
さらりと返して目を閉じる。そっけない反応に口を尖らせる悟飯は放置。
問題は、デッドオアアライブ、どちらを取るか、ということで。
「なー、ピッコロさんの誕生日プレゼント決まった?」
お前もかブルータス。
まだ夜は少し肌寒い。ベッドに寝転んで、寝るなら窓を閉めないととぼんやり考えていたところに、こちらもいつも通りの敵襲。やはり唐突に転がり込んでき たトランクスは慌てたように己の身体を揺らした。
「・・・まだ」
目だけをやって胡乱に答える。そっけなさにもめげず、少年は翻るカーテンが気になったのか窓を閉め、遠慮のカケラもない勢いでベッドにダイブしてきた。 柔らかなマットが大きく沈む。衝撃に軽く目が覚めた。
「オレもまだー。何あげたら良いんだろ」
「浄化炭でも包んでやっときなよ。あるいは山中奥深くから汲んできた美味しい湧水とか」
「それでもこの際良いかも」
「マジでか」
しかし意外に喜ぶこともあるかもしれない。冗談で口にした言葉を思い直して模索する。近辺の山、湧水の在処を脳裏に浮かべ───止めた。それではあまり にも芸がない、つまらない。そんなしょうもないことをするなら、いっそコンビニで「どこそこの美味しい水」とかいう捻りのない名称の水分を買ってくる。
そもそもどこの水が美味しいかとか、判断できるような上等な舌は持ってないし。
「ていうか、初対面時の恩を中和して余りある犯罪者に、プレゼントとか必要かな?」
「父親が父親だから、オレはノーコメント」
唐突に閃くふとした疑問。逸らされるトランクスの顔面は放置するとして、我ながらもっともな問いだと思う。犯罪名は多々のぼる。例を挙げればきりがな く、比較的軽度な犯罪でも器物破損、脅迫、傷害。重度で殺人未遂。・・・しかし恐らく、希望の滲む「未遂」の二文字は削除しても・・・。
───や、考えないでおこう。真剣に背筋がゾクゾクしてくるから。あと自分の将来のために。
引き攣った薄笑いを口元に残して鳥肌が治まるのをしばし待つ。おとなしくなったに向けられる疑問を含む視線。なんでもねえよと手を振ると、再び思考 の浅瀬に浮かんだようだった。
「でもなんかはさ、良いモノ渡しておくと修行がちょっと楽になったりするかもだから、重要イベントだよなー」
寝返りを打って言う少年に苦笑する。
「一体なんの恋愛ゲームだ。いや、そうなんだけどね」
「だろ?こっちは何でもいいとして、からは何がいいのかなあ・・・」
上半身を起こして腕を組むトランクスの顔は真剣そのもので。こいつ何だかんだで良い子だよなあ。苦笑を生温い笑みに切り替えて起き上がり、ポンポンと彼 の頭を軽く叩く。
「考えても出ないときは出ないし、また明日にでも街出て色々見てくるよ。ありがと」
さて寝るかー、と伸びをするを数秒キョトンと見詰める弟分。くるりと瞳を回して再び口を。
「土曜日・・・。あ、じゃあ、オレも明日一緒に───」
半ば開いた、その途端。
騒々しく響いた足音と、けたたましい悲鳴を上げる扉に視線を奪われた。呆気にとられる二人の前に息を切らして立つのは、頭の出来がちょっとだけ人間外の 美人さん。
肩で息をするたびに優雅に揺れる竜胆色の髪をしばし見守って。
「どうしました、ブルマさん?」
「よ、よかった・・・まだ・・・寝てなかったのね・・・」
声をかけると、荒い呼吸の元、か細い返答が届く。ゼエヒュウと聞こえる呼吸音は喘息を疑うほど酷い。
反射的に背を摩った。喉を裂いて飛び出す咳。このまま死なないでくれるといいなあ。願いをかけつつベッド脇のペットボトルを寄越させ、差し出す。引っ手 繰るような勢いでそれを手にしたブルマは、半ば以上の凝っていたポカリス○ットを一息に流し込んで呼吸を整えた。
(余計に苦しくならないか?)
さて置き。
ふー、と大きく息を吐いて一件落着。重たい足取りで椅子に腰掛けた彼女につられて、若輩二名もベッドに腰掛けなおす。説教を待つ子供のように、二人して 顔を見合わせた。
「・・・で、用件なんだけど」
先程の失態はどこへやら。毅然と格好をつけて切り出したブルマをは尊敬する。これぞ会社重役のあるべき姿だ。めげない、照れない、動揺しない。
胸の前に掲げた白い手、細い指に、一枚の封筒が挟まれていた。厚地の白く長細い封筒は、まるでどこぞの招待券入れ。
「これ、今日届いてたんだけど、渡すの忘れちゃってね」
「別に明日でも・・・」
「だって、嬉しいじゃない!共有したかったのよ!」
満面の笑顔で手渡されて首を傾げる。こんなものを貰う覚えは特にない。と、思う。多分。
一周見回して差出人を確認した。黒く無骨な文字で『温泉組合』と書かれている。ついでに、その下に『地獄温泉3泊4日ペア無料招待』とも。地獄温泉って 言うとアレか、熊本県?捻った頭に答えは返らなかった。
「・・・なんでこんなもんが」
「この間、デパートでアンケート書いたじゃない。あれが当選したの」
・・・記憶にあるようなないような。喜びに水を差さないように表面上だけ納得を示し、思考は記憶検索を放棄する。
というか、金持ちという言葉すらおこがましいブルジョワジーがこんなモンで喜びまくらないで欲しい。
呆れを前面に押し出しそうになるのを必死に堪えた。堪えに堪えて、堪えきれずに下がる眉尻を誤魔化すために、中身を取り出して2枚の招待券を確認。文字 を読んでいるフリで更に時間を稼ぎ、持ち直したところでヒラリと券を振る。
「これ、どうするんですか?」
ブルマの答えはあっさりとしたものだった。
「あげるわ。私もベジータも用事あって行けそうもないのよ。誰かと行ってきたら?」
「誰か・・・と言われてもなあ」
誰を、と。
困り顔で言いかけて、脳裏に光が過ぎった。名案、というか、しかし安易というか。一言で言えば一石二鳥。
───これでいいじゃん。
「?」
ポムン、と両手を合わせるを訝しげに見るトランクスの声は、華麗にサッパリ無視された。
そっと差し出された紙切れを、師匠ことピッコロは目を見開いて凝視した。
「何だこれは」
「いや、ピッコロさんが理解した通りのモンですよ。はっぴいばーすでいということで、私からの些細なプレゼントです」
長い緑の指が、警戒心も露わにそれを摘み上げる。爆発の危険性や毒物散布の罠を疑っているのなら相当失礼だ。アンタの存在ほど危険なものはねえよと声を 大にして言いたい。
「・・・良心的な旅館と見せかけて、入った途端、従業員が目の色を変えて襲い掛かって」
「来ません」
「・・・温泉と見せかけて実はキサマが用意した硫酸風呂だったり」
「しねえよ」
「入ろうとするとどこからともなく極悪な侵略者が」
「ないって。なんで自ら地球の危機に身を投げないといけないっつうんだ。あと私、どんだけ広いネットワーク所持者?」
相当失礼とかそういうレベルじゃない失礼加減。まだこの生物をわかりきれていなかったなと舌を打った。常に予想の斜め45度を飛行する行動パターンが憎 らしい。
否定せども納得しない彼に溜息を吐いて、ジト目で睨め上げる。
「罠や悪意の類は一切ないんで、悟飯くんでも誘ってゆーっくりしてきて下さいよ。弟子からのほんの僅かな心遣いだと思って、いいから、さっさと納得し て、とっとと行ってきて下さい」
「ム・・・」
面食らったように後退る姿に再度溜息。バイバイ、と手を振ると、躊躇いつつも大きく頷いて身を翻した。マントが風に煽られる。
見送るを、ピッコロは一度だけ振り返った。
「・・・少しだけなら感謝してやる・・・」
呆気にとられる弟子を放って、小さくなる背中がやがて青空に消える。
かなりの速度でかっ飛んでいったので多分もう声は聞こえないのだろうが。
ボソリと呟かれた言葉を聞いても、果たして彼はなお温泉へと旅立っただろうか。
「修行なくなるし一石二鳥だなあ、と思った末のプレゼントですから、別に感謝とかいらないですよ」
4日間、頑張って遊ばせて貰います。
明日に向かってお辞儀する、そんな心温まる5月9日、爽やかな朝。
ピッコロさん、誕生日おめでとう。
誕生日プレゼント選びはとっても苦手です
ギャグに走ろうか、喜ばれるものを普通にプレゼントしようかと迷いまくりますよね
・・・そういえば、本気で喜ぶだろうと信じて肉襦袢くれた友人がいたっけなあ・・・
ちょっとおかしいよねその思考は。
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