Ifeel dizz




 4

 街だ!
 上空であげた声は、実際地上に降り立ってみると、すぐさま別の感想にとって変わられた。

 思ってもみなかったほど科学に彩られた都は確かに驚きだったのだが、その中でも一際私の目を惹く魅力的 な物体。空気に悪そうな灰色の煙を吐く、デザインが異様に丸っこい、結構なスピードで道を浮遊する───。
 「空飛ぶ車だ・・・!」
 「・・・珍しいのか?」
 「つうか、初めて見た」
 当たり前だがもとの世界にあんなものはない。あるのは地上に這い蹲って走るだけの文明の利器(それでも凄いは凄いのだが)だ。幼稚園の時描かされた「未 来の世界」を思い出せ。同じ組に描くやつが5、6人は確実にいた、縦横無尽に張り巡らされた高速道路を走り回る、空飛ぶ車!
 色んな意味で憧れっちゃあ憧れじゃあないか。

 「なんか感動だ〜」
 「お手軽な奴だ」
 キョロキョロと光り輝く双眸で辺りをサーチする私を恥ずかしいとでも思ったのだろうか。ピッコロに襟首を掴まれ、恐らくは目的地であろう方向へと引き摺 られる。コンパスの違いから後ろ向きに引き摺られては体勢を整えて歩くなど出来よう筈もなく、幾度かこけそうになっては襟を引っ張られ、首を絞めることと なった。

 諦めて、足すら動かさなくなるのに要した時間は凡そ3分。踵を地に付けて引き摺られるのは、慣れれば思っていたよりずっと楽だ。
 ・・・ちょっと痛いけど。

 「・・・あれ」
 視界を広く向ける余裕が出来た私がまず思ったのは、そういえば普通の「人間」がいるのだということ。初めに出会ったのが緑色の目つきが悪い宇宙人だった せいか、ついついこの世界の人間級生物は皆緑色で眉毛が生えていない生き物なんだろうな、と勝手に想像を蔓延らせていたのに。
 行き交う生物は基本的に皆、私で言う肌色で、眉毛もある。

 (てこたあピッコロさんが特殊なのかな?)
 もしくはこの街が特殊なのか。
 よく見れば犬が喋っていたりネズミが馬鹿でっかかったりと奇妙なものもあるのだけれど、それだって皆、元の世界に(一応)存在する生物を模している。

 妙な親近感。
 (色んな生物が「人間語」を共通語として街に住んでるんだとすると、「英語」→「人間語」で、アメリカ人の代わりに人間全般、日本人の代わりに喋る犬、 その他どっかの国人の代わりにネズミやらトカゲやら、ってか?)
 私は人間。アメリカ人だ。
 嫌な例えに当て嵌まり、唇を噛む。アメリカは嫌いだ、変に正直者が多いし、笑いのツボが日本人と180度違うし。

 止めた、と頭を振って、再び人波を見回した。緑色の、ピッコロみたいなのはいない。レア種族だったりするのだろうか。
 「ピッコロさん、この街普通に歩いてて何も言われないの?」
 問いにピッコロの訝しげな視線が返る。大げさなほど眉間(やっぱり眉毛ないけど)に皺を寄せて、複雑そうに手を放した。芯の抜けていた身体があっさりと 大地に向かう。
 「いてっ」
 「裏道を歩かなければいけないような経歴を持った覚えはない」
 「や、そういうんじゃなくて・・・ああ、まあいいや」
 仰向けに倒れた私を拾いもしないで先に進むなんて、何て非道な冷酷生物だろう。畜生、と呟いて身を起こし、服の砂を払い落とす。既に10mは前方の広い 背中を睨み付けた。

 「・・・いつか見てろ」
 ボヤキが満足を得ることは恐らくこの先ないだろうと予感する。
 悠然と歩くピッコロの向こう遠くでドームのような丸い建物が異彩を放っているのを見て、阪神優勝したかだけでも見たかったなあ、と思った。



 5

 「ちょっとアンタ、この子どっから攫って来たのよッ!?」
 顔を合わせた瞬間に発せられたその言葉。笑ってしまったのは別に、私の罪じゃない筈だ。 どっかりと目前に鎮座する巨大なドーム。それが───喩え持ち主が超大富豪だろうと───個人の住まいだとは、間違ってもすんなり受け入れられる事実では ない。
 知り合いの家だと説明を受け、馬鹿でっかい門を潜り、やっとこ着いた玄関で。
 「・・・マジですか?」
 「疑うのなら本人に聞いてみろ」
 
 ピンポ〜ン、と間抜けなインターホンの音が小さく響く。こんな大豪邸でもこの音なのかと思うと、何だか緊張感が消え、微妙に親しみすら湧いてきた。
 (もしかしたら土地が余りまくってる世界なのかも。したら結構安くついたりして)
 そう考えると別に動揺することもないような気がする。ああ、どっちかって言うと、目の前でインターホンに再度手を伸ばす、ターバン巻いてマントばさばさ してる緑色の目つき悪けりゃ態度も悪い破顔一笑なんて言葉知らないんであろう宇宙人の方が動揺を誘うべき対象なのかもしれない。ピンポ〜ン。
 
 小さな音が、再び鼓膜を揺らす。中には十分響き渡っているだろう音に、だがしかし返事も物音もない。ただ、通話装置付随のカメラが僅かな時間ブンと電子 音を響かせて、消えた。
 ピッコロが小首を傾げた・・・半瞬でも(ちょっと可愛い)とか思ってしまった自分を消去したいと思う。
 
 「誰も・・・いないとか」
 「いや─────」

無愛想な返答は、最後まで綴られないままに途切れて。如何しました?尋ねようと長身を見上げ、口を開きかけた───途端。
 ズバタンッ、と、あり得ない轟音で重厚なドアが開かれた。

 ・・・冒頭に戻る。



 リビングに通された私達は、双方正反対の表情でソファに座り込んだ。必死に笑いをかみ殺している面としかめっ面。もともとの顔のつくりを考慮すると、余 りにも何から何まで逆の関係と見えることだろう。
 
 私の大爆笑の原因を叫んだのはブルマという女性だった。
 名前だけ聞くと今はもう使われている所少ない、マニア心をそこはかとなく擽りまくる、妙にいかがわしい着衣を連想してしまうが、その実一言でコメントす るのなら、文句なしの「美人さん」である。優しく笑う顔にも気の強さが表れていて堪らない。
 ・・・変態さんじゃありませんよ?
 
 「・・・・・・で、こことは違う世界から来ちゃった、って訳ね?」
 「はあ・・・まあ、多分」
 特に疑うでもなしに納得を示すブルマに、私は小さく眉を寄せる。ピッコロ経由の事情説明とはいえ、疑いの欠片も持とうとしないのは問題ではなかろうか、 こんな大富豪のお嬢様が。
 反応を気にするでもなくソファに腰掛けなおしたブルマがピッコロを見る。続きは、と促しているのだろう。口元の笑みは好奇心の表れに違いない。
 
 「少なくともこの世界の人間ではないだろう。気の質が根本的に違う」
 「スカウターとか反応するかしら」
 「わからんが・・・どうにも感知しにくい気ではあるな」
 
 それから暫く交わされた言葉は私にはよくわからないものだった。気、根本的に違う、感知しにくい。そんな言葉の端々は「異物」を理解させるのには十分で あったが、それ以外はさっぱりである。
 
 ああそういえば。
 (何のためにここに来たんだろう)
 都に行く、と言葉通り飛んで来て、ブルマの家にお邪魔して。
 
 会話に混ざれない暇な時間が、天性の気楽な余裕をじわりと侵食していく。暖かな家の中、肉体的な余裕が災いした。事態を把握する時間が怖いものなのだ と、生まれて初めて思い知った気がした。



 6

 「・・・居候・・・ですか」
 「あら、イヤ?」
 
 いえ、と呟く私は、実の所会話について行けていない。そもそも先程までの話を聞き流していた状態で行き成りのこの申し出に素早く頷けたら、それはまさに 人間の状況判断能力ではないだろう。
 開いた口を閉じるのも忘れて、困ったように天井を仰ぐ。豪奢なシャンデリアが目に痛い。仕方がないので目を閉じて、腕を組んで考えた。
 
 何をどう答えろと言うのか。やったあ有難うゴザイマス。他人様にそれはどうよ。いえ、遠慮させて───貰ったらこの先生きて行ける自信もない。考えるま でもなく居候させて貰うしか選択肢などないのだけれど・・・。
 (それもやっぱり抵抗がなあ・・・)
 性格からか誤解されがちだが、私は意外と(好意的な相手には)遠慮深い。悪意満々な相手なら、遠慮の欠片もなく身包みはがすくらい良心の呵責を感じるこ となくやってのけられるのに。
 
 「・・・遠慮してどうなるような女じゃないぞこいつは」
 唸る私に何を思ったのか、ピッコロがブルマを顎で指して言う。彼女が優しく笑った。
 「なんか言い方引っ掛かるけど・・・そうよ?見ての通り広いし、部屋も一杯余ってるしね」
 それでも気がひけるなら、仕事の一部でも手伝って。
 
 いやに乗り気のブルマに押され、大きく瞬いて息を吐く。この様子なら本当に迷惑とは思われていないのだろう。
 
 「・・・えっと、じゃあ・・・」
 よろしくお願いします。
 控えめに、申し訳なく思いつつ微笑して申し出たその瞬間からだったろうか。
 
 ─────私の凶悪な人生が芽吹きはじめたのは。
 
 「ピッコロさん、家どこなんですか?」
 「遠くだ」
 「いや、正確な場所を・・・聞いてもわかんないか。やっぱいいです」
 
 用は済んだと帰宅(これ程「家」という言葉が似合わない生物も珍しい)を告げたピッコロを送り出す。ブルマは意気揚々と部屋を用意しに行ってくれた。 戻って手伝う気はあるが、兎にも角にも。
 (腐っても命の恩人だしねえ、ピッコロさん)
 
 「・・・そういやあ、どういう原理で空飛んだりしてるんですか?」
 飛んで帰るんだろうなあと唐突に思いついて話をふった。
 「なんだ藪から棒に」
 「ふっ、決まってるじゃないですかッ」
 眉を顰める(本当にしつこいが、ない。その辺)彼に、私は指を振る。某じっちゃんの名を尊ぶ名探偵のようにその指をビシリと突き付けて。
 
 「なんか羨ましくて!」
 叫んだ。
 ・・・あ、何だその心の底から人を哀れむような目は。止めて欲しいな宇宙人のくせに。そのビラビラはためくマントの先っちょ、容赦なく結ぶぞコラ。
 
 ふう、と大きく息を吐くピッコロに憮然とした視線を向ける。別に空を飛ぶことに憧れるくらい、良いと思うのだ。呆れられるようなことじゃない。飛べない 人間100人に聞いたら、きっと質問された以外の人までしゃしゃり出て、120人くらいは飛びたいと言うだろう。
 ・・・もしかしたらリアクションに呆れたのかもしんない。
 
 「
 「・・・へ?」
 
 初めて使われた自分の名前に耳を疑う。きょとんと見返せば、どこか照れたように目を逸らされる。名を呼んだのに対して照れているのだとしたら、これ程爆 笑すべきものはないのだが。
 「・・・なんなら教えてやろう」
 ───違った。緩みかけた頬を取り敢えず引き締める。
 何を、と・・・多少事象の確信を抱きながら小首を傾げて問うと、ピッコロの頬が赤く染まった。僅かに驚いたのは、彼の血は赤いのかということである。頬 赤くするってそういうことだよね。
 
 「飛びたいんだろう、空を」
 「うぃッス・・・・・・え、ホントに、教えてくれんの!?」
 思わず敬語も忘れて(いつもの敬語がアバウトなものだというには置いといて)つい目を輝かせる。ありがとう。満面の笑顔でそう言って。
 
 彼と私の師弟関係が誕生した。



おかしい・・・想像上ではもう野菜王子が出てきていいような長さなのに・・・
漸く名前呼んで貰えました。つうか1〜3でも言えることですが、変換一箇所だけってどういうつもりなんで・・・いや、これから、これからですねきっと


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