敵わないのはわかっているんだから
これくらいの報復は許して欲しいのだ
dizzy番外編
方図を見る者、戦わず
眠りから覚めるパターンは二つある。自分で起きることと、他に起こされること。どちらが自らにとって好ましいことかは言うまでもない。
自然起床ではない目覚めは、尋常でなく眠い。例えそれが二度寝の後であっても不愉快で気持ちの悪いことだ。下手をすれば希望に満ち満ちた一日が台無し。 機嫌は悪いしどんよりとする、最悪の大凶日和ともなるだろう。
「と言う訳で、私は今、物凄く眠いです」
「我慢しろ」
演劇じみた前振りの甲斐もなく切り捨てられては頬を膨らませた。ピッコロが憎い。
現在居場所は、今日はちょっと趣向を変えてみたとでも言うのだろうか、ピクニックに最適な爽やかな森の中。
酸素がたんまりとあるこの空間で、ピーチクパーチクと煩い小鳥を焼き鳥にしてみたいと思う。前途の通り、機嫌が悪いのだ。実行したなら運が悪かったのだ と来世に期待して欲しい。
「我慢とかそういうつれないお言葉は、私を容赦なく眠りの淵へと導きますよ」
「・・・永遠の眠りにつきたいか?」
「そしたら永遠にピッコロさんに憑いていかなきゃという衝動に駆られるので勘弁願いたい」
眠気が口を饒舌にさせる。或いは不機嫌のせいか。どちらとも取れる感覚に口を尖らせた。
本日は晴天なり。こんな日には神殿で暖かい日差しを浴びつつ光合成でもしていろ。
脳内で作られた言葉に、何故だか彼が反応した。
「死なない程度に半分殺してやってもいいんだぞ・・・?」
どうやら無意識に口にしていたらしい。
「ごめん、脳が勝手に喋った」
そっぽを向いて視界をずらす。殺意十分なピッコロの目は眠気を前面に残す頭に痛かった。気休めだとわかっているが頭痛よ止まれと願ってみる。
「あー・・・ピッコロさん。さん、本気で眠そうなんで、このままだと修行にならなさそうですよ」
推量ではなく断定なのだと言って頂きたいものだ。助け船である悟飯の声に、鈍い思考の中微笑を抱いた。隣に立つトランクスも───ベジータの目を掻い 潜って付いてきた・・・らしい。その辺は全く記憶にない───同意する。
「じゃあ、散歩行こう!ちょっとフラフラすれば目も覚めるぜ」
「そのままフラフラどっか行っちゃいそうな気もするけど・・・」
湖があるから落ちないようにして下さいね、という忠告に、はうとうとしながら頷いた。
悟飯をピッコロの(暇潰し)修行相手として置いてきた。思惑通りと言えるだろう。
足元の枯れ木を踏み折り、打って変わって上機嫌・・・とまでは行かないがそれなりに上昇した気分で森を行く。トランクスが呆れた顔で見上げている気がし たので、目を向けないままシバいておいた。
文句は当然シカトである。
「、さっきのわざとだろ」
「何が?」
言いたいことはわかっていたが、敢えて答えをはぐらかす。ニヤニヤと上がる口の端までは隠す気も起きなかった。
「『眠くて修行にならない』」
「眠かったのは本当だし」
「すっげえ機嫌悪かったのとか」
「それも本当」
賢くなったものだと心中感心する。まあここまで態度を変えれば、悟天でも気付く奇跡があるかもしれない。
の言葉に苛立ちを募らせ、トランクスが足を止め声を荒げた。
「けど、あそこまでじゃなかったのもホントだろ!?」
ついつい笑いが深まる。
「何で」
「だって、二人が見えなくなった途端にニヤつくし、歩き方も普通になるし、良く見りゃガッツポーズ取ってたし!」
満足そうなの視線に落ち着いたのか肺から空気を押し出すトランクス。歩き出すのを待って、手持ち無沙汰に進行方向の枝を折った。小振りのそれを弄 ぶ。
理由はわかるかと頭を叩くと、わからいでか、と顔を歪めた。
「眠いのがホントなら、時間稼ぎとか」
ちちち、と指を振る動作を胡乱に見る視線に瞳を光らせる。
流石にガキにゃそこまでは読めんか。思ってから訂正した。恐らくは悟飯やピッコロでもわからない。なぜなら彼らは皆一様に、危険箇所こそ突っ切る生物だ から。
「私としてはさ、万全のピコさんと戦り合うとかは冗談じゃないワケよ」
クエスチョンマークがピョコリと飛び出す。今のデンデとかならここで納得出来るんだろうなあ。
「だから事前に少しでも体力とか削っておきたいのね。そうすると一番効率が良いのは『誰かとの修行』でしょ?私が動かない状態で時間が空けば、今日の場 合、自然と悟飯くんと修行しだすのは流れじゃない」
あー、と合点がいった、ような気がする程度の声を漏らす。
「そんで眠い眠いって強調してたのか」
「そう」
じゃり、と靴が小石と擦れて声を上げた。湖畔に出たのだ。
トランクスがあの時散歩に行こうと言わなければ、はここに顔を洗いに行ってくる、と告げるつもりだった。歩いて来るのには丁度良い時間を稼げる距 離。理想的な場所だと思っていた。
(散歩のが時間は稼げるし・・・そこは感謝だよなあ)
さてここからどうしよう。
あまり欲張って時間をとれば、きっと修行に怒りが反映される。いつも以上に厳しいものとなるだろうことは簡単に予想が出来た。かと言って、全く何の戦略 も練らずに帰るのは惜しい。
(何か一矢報いてやりたいんだけど)
ぼんやりと湖面を眺めて。
「、それ、どこまで持ってくんだ」
「ん?」
思索に耽り始めたに不満を抱いたらしい。軽く顔を顰めて成長途中の小さな指を下ろした手に向ける。
小枝はまだの手中にあった。存在すらすっかり忘れていたそれに意識を向け、水面を凝視して───ふと思い付いた考えに、にやぁ、と唇を歪ませる。
「トラくん、コレ持ってそこに集中して、ちょおっと超化してみ?」
気が移る。その事実を知ったのは最近だった。
強い気は主を失ってなお存在を主張し、気配を色濃く残すものだ。強い力が爆発した跡に獣は近付かない。「セルゲーム」という戦いの跡地に獣の気配は一切 なく、その大地を覆う未だ残る強大な気に、草すら生えることを躊躇っていた。
集中を受けた枝にも同じようにとはいかないが、暫くは気配が残ることだろう。
「いいけど・・・なんで」
訝しげに枝を受け取ったトランクスに、は満面の笑みを浮かべて、言った。
「目印」
気持ち疲労を訴える貫手に、してやったりと笑む。僅かな違いではあるがこれは大きい。身を捻って最低ラインを守ると、逃れ遅れた黒髪が宙に散った。
勢い良く踵を返して森を進むのは、覚悟以上に怖かった。視線を前ばかりに向けている余裕はないのだし、それでなくとも木が密集する中での全力疾走は恐ろ しいのだ。いつぶち当たってもおかしくない。その状況に戦々恐々としつつ更にスピードを上げる。
上空から視線を感じた。現状を見下ろすそれは悟飯とトランクスのもの。
自分も本当ならばああして舞空術を使いたい。けれどそうもいかないのが戦いというものである。師が自分より速いのは違えようのない現実で、あっさりとや られてお仕舞い、そんなのは「元・ストリートファイター」としてのプライドが許さなかった。
予感に急ブレーキをかける。目の前を閃光が打ち抜いた。冷や汗を自覚して再び加速する。
(きっつい!)
上がる呼吸を根性で抑えて意識を二手に分散させる。一つはピッコロ、そしてもう一つは───
「いつもに増して逃げるばかりか!ッ!」
「余計なお世話だ、目に優しく環境に厳しい宇宙人!!」
ひくりと引き攣った顔を最後に、ピッコロがいきなり浮遊した。
一瞬ぎくりとして、すぐさま気をとりなおす。あれはあれで好都合かもしれない。
考えを出来るだけポジティブに。思考は戦況に影響を及ぼす。
「閻魔大王に会いたいとほざいていたな、送ってやる!」
膨れ上がる気配を確認。数発は来る筈だと当たりをつけた。ならば後は勘だ。読んで避けれるまでには戦いを制せない。
ダイブするように身を低くする。視界の端に輝きが映り、次の瞬間大地が爆発した!
「・・・ッ!」
攻撃そのものが見えなかったのに舌打って、それでも当たらなかったことに感謝する。誰にかは自分でもわからなかったが、少なくとも「命中率の悪い」ピッ コロにでだけはないだろう。
打ち付けた身体に鞭打って走り出す。もう少しで気配に届く。上方に全ての意識を集中したい衝動を抑え、必死に「それ」を捕らえ続けた。確かにこちらで方 向は間違っていない。
祈りすら覚えだしたときになって、漸くに森を抜ける。ここまでの目印───未だトランクスの気を残す小枝に感謝した。攻防の中で正確に方角を捉えるのは 至難の業だったのだ。
煌く澄んだ水を足蹴にした。舞空術を僅かに使って湖面を蹴り中央まで走る。
ざっと止まって空を仰げば、ピッコロが静かにそこに佇んでを見下ろしていた。
「ここが理想の死に場所か」
「やだなあ、修行でしょ?ムキになんないで下さいよ」
えへへと可愛子ぶった態度に反応は期待していない。ただ今は、彼がここまで降りてきてくれることを願っていた。
「ていうか、気弾は真面目に死ねるんですが」
下手な挑発は上空からの狙い撃ちに繋がる気がする。殺すことが本意なほどに極悪非道ではないだろうから、その辺に訴えてみるのも手だ。
「殴っても死ぬだろう」
「まだ避け甲斐もあるってモンですよう」
ふん、と鼻で笑う師に、ミスったか、と冷や汗を垂らした。
しかし。
(やった!)
無言のままに急降下した姿に瞬間喝采しかけた。
「ならば避けてみろ!」
喜んでばかりもいられない。距離はそんなに離れていない、つまり、時間はギリギリ。はピッコロを強く睨み付けたままに両手を握り締めた。
(身体の中心から押し広げるように、余分な力を入れ過ぎない、集めた気の存在を逃がさないよう更に覆って!)
ぐんと身体にプレッシャーがかかる。教えられた事項を反芻すれば、慣れてはいないものの一度知った感覚を呼び戻すことは容易い。両手に十分なだけの気を 集めると、水面が波打ち衣服が煽られた。
ほう、と感心したような声。にいと笑って、迫った存在から意識を外し、手を足元の液体に叩きつける!
「何!?」
破裂した気の塊と共に水面が爆発し、そして─────
「あ・・・」
地上に降り立った悟飯とトランクスの呆然とした表情を目にし、は満足した。ここまで粘ったのは間違ってなかった。よし、と拳を天に掲げ、心理的勝利 を喜ぶ。
現在位置は空中である。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・おい、なんのつもりだ、これは」
濛々と立ち込めた霧の中から険悪な声が響いた。僅かに見えたシルエットが、徐々にくっきりしてくる。水音が聞こえた。ポタリポタリ。
「やあ、水も滴る良い男っぷりですねえ」
「なんの、つもりだ」
びしょ濡れだった。いや、でなく、ピッコロが。
肩パットやらマントやら触角やらから水滴を落とし詰め寄る彼に、は上機嫌に笑いかける。ここまで上手くいくなんて思ってなかった。
気弾の一撃で盛大に舞った水飛沫を頭から被ったピッコロは、きっとそれでも普通に攻撃をしようとしていたことだろう。それを被らないようさっさと空中に 避難したにも気付かんと。
「最初から戦う気はなかったということか!」
「あったりまえですよ!自分の限界くらい知ってますも〜ん」
ホホホ、と高笑いを上げる。何ていい気味だ。ピッコロが無言でターバンを剥ぎ取った。力を込めると滝のように水が落ちる。
更に笑いを増徴させた。
「狙うならコレ一本!そう、世間一般様で言う、い・や・が・ら───ぎゃー、冷たッ!?」
ガバッと唐突に抱き付いたピッコロの身体を慌てて引き剥がしにかかる。今は冬だ、冷たい、心臓が凍る!
瞬く間に服に染み込んだ冷たい水に、後日風邪を引く破目に陥ったのは、果たして自業自得なのだろうか。
心から呆れて溜息を吐いた観客に、訊いてみたところ、応と言われて凹んだ。
修行を積んで限界を知った。
だからこそ最近は彼とは戦わないのだから、許して頂きたいものだ。
修行シーン書きすぎだなあと自覚しつつ修行話
本編のかなり後半設定です。トラくん何歳?(爆)
冬に話書くと、冬の話しか書いたらいけないような気になるので不思議です
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