たまには相談事も受けるのです。







dizzy番外編
弟 子弟子







 琥珀色の瞳を閉じ、光を遮る。随分と涼しくなってはきていたが、まだまだ日差しは痛いままのようだ。
 「どうしたらいいんでしょう・・・」
 「知らねェよう」

  下着家のよく手入れされた庭の一角。は 隠居して縁側で和む老人のように、悟飯はご主人に目一杯叱られた後のように。それぞれぼんやりと座り込んでい た。
 「ちょっとは真剣に考えて下さいよ」
 「別に私に関係あることでもないしねえ」
 薄い布に包まれた細っこい───ただし一般女性に比べたらずっと逞しい───腕を持ち上げ、そう柔らかくもない髪を───サイヤ人に比べたら以下略 ───手荒にかき乱す。熱を孕んだ黒い髪。最近ひたすらに太陽光を浴びているくせに、色が抜けるような兆しはまるでない。

  「・・・さ ん」
 (うわ、怒った)
 今回被害を被る立場にいないのだから、パーセプションギャップは当然だと思って頂きたいものだ。
  ザワリ、と巻き上がる嫌な風が、仄かに金色を帯びている。ちらりと横に目をやれば、悟飯が真剣な顔でを 睨み付けていた。硬そうな(というか実際硬 い)(ちょっとしたコツで待ち針とかにも使えるくらいの)髪は薄らと黄金に。つり上がった目が、何とも言えず恐い。

 僅かに腰を浮かせて、曖昧に笑う。
 「だってさあ、そんなの相談されたってさ、ねえ」
  「さ んにしかこんな相談出来ませんよ」
 「しないでよ、ホント、頼むから」
 深く肺から息を吐き出した。人はこれを溜息と呼ぶ。

 ・・・だって、本当に。
 心から困るのだ、そんなこと言われても。

 「・・・怒ったピッコロさん宥めすかす方法なんてさあ、私が訊きたいくらい」

 降り注ぐ強い日差し。
 は もう一度目蓋を下ろし、大きくクシャミを連発した。








 「大体、海に漬けるとかしちゃ駄目だよ。ナメクジ星人なんだから、溶けちゃうよ?」
  「・・・ホントに・・・さ ん、そんなにピッコロさん嫌いですか?」
 「恨みは底知れないったら」

  場所を街中に移し、は タコスを頬張った。心地よい歯応えが伝わりつい頬が緩む。新鮮な野菜を使っているのだろう。
 賑わうメインストリートは、何を買うにも店に不自由しない。通りすがりにグレープサイダーを購入。咽頭でパチパチと弾ける二酸化炭素が、前食の味をかき 消した。

 「あ、おっちゃん、そのピザパイおくれ」
 「よく食べますね」
 「君に言われたくないよ。ホレ半分」
 「どうも」
 悟飯の(それに限らずサイヤ人という人種の)食事ペースは速く、量は多い。彼でもベジータでもいいから、どこに入ってるのかいっぺん解剖してみたい。そ う本気で思うくらいには尋常ではないのだ。

 ぐ、とピザを咽喉に詰まらせたらしい悟飯に(多分チーズだ)ジュースを差し出す。強盗のような勢いで奪い取り口に含む彼の背を撫でると、苦しそうに顔を 上げた。
 「食道は普通なのかな」
 「・・・少しは心配とかしてくださいよ」
 最後の一欠片を口に放り込み、ペロリと指に付着したケチャップを舐め取る。
 快活に笑って止まった足を起動させ。
 「サイヤ人が咽喉にチーズ詰まらせて死ぬって?幼き悟天に語り継いでも良さそうな、面白い冗談だね」
 憮然とした悟飯から、半分に減ったジュースを取り戻した。ずずっと行儀悪く音を立てて啜る。
 ふと思い出して、ああそうだ、と呟いた。

 「ピッコロさんさ、前、水にちょこっと砂糖混ぜて飲ませたら、酔っ払っちゃったんだよね」
 こっちのみ〜ずはあ〜まいぞ、って、悪戯で。
 は どうということもないふうに容器を揺らし、蓋を開けて残りを一気に流し込む。

 キョトンと頭3つ分は高い位置から見下ろしてくる悟飯の───この差は階段を上っているからであって、普段は少ししか変わらない───次のリアクション は大体予測が付いた。
  「な、何やってるんですか、さ んッ!?」
 「や、だって、ちょっとムカついててさあ。大丈夫。フラフラして寝こけちゃっただけよ」
 「・・・泣き上戸とかじゃないんですか」
 「あの人、涙腺とかあんの?」
 心なし残念そうな顔で息を吐く若手サイヤ人。少々呆けていた彼は、数秒後、完全に足を止めて壁に身を預けた。

 「で、それがどうかしました?」
 「いやね」
  しばらくは動く気がなさそうだったので、は 悟飯の足元に座り込む。5メートル程横手に設置してあるゴミ箱に、包み紙やら紙コップを纏めて投げ捨て た。放物線を描き、慎ましやかな音を立てて見事その他大勢のゴミと同化する。
 それをなんとなく目で追って、人差し指をチョチョイと動かした。



 「すっげぇ酔っ払わせたら、取り敢えずお怒り忘れたりしないかな、って」
 「・・・・・・・・・」



 視界の端でスラックスに包まれた長い足が揺れる。つまり少なからず提案に心動いたと見て良いだろう。
 視線を上げると、悟飯は何か言いたそうにこちらを見下ろしていた。

 「私が仕掛けたオイタのことは、忘却してくれたよ」
 ターバンの裏地にちっちゃいサイズの悟飯の写真忍ばせておいた事とか(見つかって怒られた)(酔って寝てる間にひとしきりデンデと爆笑して焼却したけれ ど)。
 マントに「悟飯命」って目一杯豪華に刺繍したこととか(見つかって以下同文)。

 反論を押さえ込むように満面の笑みで「やってしまえよ」と勧める。戦いのときでもしないような真剣な顔で悩む悟飯には呆れを通り越して感心すら覚えた。
 お前本当ピッコロさん好きなんだな。
 「謝っても怒ったままなんでしょ?そんくらいの手段、罰なんか当たんないって」
 「でも・・・変に体調崩させたり、もし気付かれたりなんかしたら・・・」
 「じょぶじょぶ、結構鈍いよピコさ───どっちが本音だちょっと」
 顔を顰めて突っ込んでも、最早思考に没した彼には届かない。
  ううん、と唸る悟飯を尻目に、は その辺りをまわってくることにした。








  「───あ、さ ん、どこ行ってたんですか」
 「君の視界の端にチョコチョコといたよ」

  ようやく決断をしたのかどことなくスッキリした顔。階段を飛び降りるようにして駆け寄ってくる、怒らせなければ基本的に犬属性の男に、は 苦笑を漏ら した。
 こんなときは無害なのになあ。出来ればずっとこのままの反応でいて欲しいとは、心中切実な願いである。
 「んんで、どうすんの」
 「飲ませてきます」
 グッジョブと親指を立てると、同じように返してきた。その足先はすでに空中に浮いている。

 「あ、ちょっと待って」
 ジーパンのポケットを漁り白い粉の入った小さな袋を取り出すと、悟飯にやんわりと放った。1グラムにも満たない少量のそれは心ばかりの餞別だ。
 しばし悟飯は首を傾げて手の中のものを見ていたが、やがて得心がいったように仕舞い込む。
 「砂糖ですね、買ってきてくれたんですか」
 「兄弟子の成功を祈って格安のものを」
  こんなときだけ律儀に礼を言って飛んで行く───ここに来る前は単なる慣用句としてしか利用できなかった言葉だ───悟飯に手を振って、は 踵を返し た。








 怒ったピッコロさん宥めすかす方法。
 間違ったことは提案していない筈だ。とにかく、怒っていた事実を一旦は帳消しに出来るのだから。
 そう、例え─────





 ───後から酔っ払わせたこと自体で怒られたとしても───








 後日。
  当たり前といえば当たり前だが、兄弟子と師匠、両方に追い掛け回されるが 其処此処で目撃される日が続いたのだとか。



 悟飯ちゃんとさ ん、考えてみれば兄弟弟子なんです よねえ。・・・兄妹弟子?
 「仲良き〜」で嫉妬対象とか書いてても、ちゃんと基本は仲良しです
 たぶん

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