「本当スイマセン」
 頭突きをかましただけだったのに。






dizzy番外編







 いつものような修行中、私が偶々見付けたピッコロの隙は頭だった。
 「隙を見付けたら即攻撃」が当たり前の私達なので勿論狙う。両手を塞がれ使えなかった。自然、攻撃武器は頭部である。
 教えを忠実に守った弟子の、一体何が悪かったと言うのだろうか。
 石頭だという自覚はあるが決してピッコロ程ではなく、無謀。
 そもそもルール制の修行戦闘なのだから「有効打」を与えなければいけない。前の理由から有効打に届かないのは明白、つまりその攻撃は全く意味のない一撃 である。
 ガツンという痛い音と、星が飛び散る視界の中で、一瞬意識が確かに遠退いて途切れ───



 何てベタな、と言ったらそれまでだけれど



 土下座。それは私が元々住んでいた世界の日本という国で、最大級の謝罪を表す。
 相手に向かい足を折り畳んで座り込み、地に手を着いて身体をコンパクトに。大地のパワーを吸収後その力を一気に解放、しなやかかつ豪快に頭を振り切っ た。地面に向けて。
 ぶつかる一瞬前に首に力を込めてピタリと止める。風圧で砂埃が舞った。

 「・・・止めろ」
 「あ、いいんですか」
 声に顔を上げ立ち上がると、普段より不気味な程に視点が高い。いいなあこの高さ。目下に見える「師匠」に気付かれないように、どこかうっとりと息を吐 く。
 「・・・・・・・・・・・・気持ちが悪い」
 師匠───もとい「ピッコロ」の声は只管に苦々しく、多少震えさえ混じっている。気持ちはわからんでもないのだけれど、キモイとかでなくフルに気持ちが 悪いとか言われると、微妙にへこむ。

 「あ、マント汚れちゃった」
 「その喋り方を止めろ、・・・!」
 「素なんですけど」
 「・・・変えろ。『コレ』が治るまでは止めろ」
 うっとおしい「マント」を「長い」手で背後へ押し遣った。肩とか色々な箇所が重い。
 憮然と眉を寄せた顔を見る。混乱は只今(私にとっての)佳境を迎えているらしく、「アルトの声」が無駄に性能の良い耳に届く。こちらはそう大して混乱し てはいない。どうしようもないことはそのまま受け止める。それはこの世界に来てレベルアップしまくったスキルだ。
 それよりも。

 まじまじと眼下にある生物を観察すると、普段見慣れない顔が見れて結構楽しかった。
 こうしていると意外に華奢に見える四肢。黒を基調としたコーディネートはまあ似合っているが、今日のは何だか通夜にでも行って来たようにも見えたり。長 さの不揃いの黒髪は本当に真っ黒で、明るい色彩など欠片も覗かない。そして。
 「ジロジロ見るな、言いたいことでもあるのかッ!」
 思っていたより低い声と、苛立ちに満ちた琥珀の瞳。自分はここまで切羽詰った様子をしたことがあっただろうか。

 「いやあ、何か、新鮮で」
 ヘラ、と笑うと眉が寄って、続いて拳が飛んできた。反射的に手を受け止めて、今度は私が驚く。
 「うわ、力ねえ!私ってこんなんでアンタと殴り合ってたのか」
 「口調を直せと・・・!」
 遠慮なく蹴られて「緑の手」が外れた。ほとんど痛くないのはやはり、防御力の違いなのだろう。
 羨ましくて仕方ない!
 当て付けに、「私」は頬をのばし、べえ、と舌を出した。

 「自分の身体、蹴るな!」
 「人の身体で妙なことをするなッ!」



 まるで小説のお手本のように、私達の中身は入れ替わっていた。








 私は気弾が使えて、ピッコロは気弾が使えなくなって。
 「・・・他にも何か、変化はあるんですか?」
 そう深刻でもないような口調で悟飯が言った。僅かに楽しんでいる気が見えるのは、恐らく間違っていない筈だ。

 ピッコロの混乱が形を潜めてから、私達は取り敢えずの現在状況確認を開始した。
 体温、呼吸数、動作の異常、身体機能の変化、ピッコロの有する特殊能力の作動。その他を着々と調べ、わかったのは次のことだ。
 第一に、筋肉所有量の違いからの物理的なパワーの違い。私はピッコロ並のパワーに上がり、ピッコロは私程度のパワーに落ちた。力の有効的な使用法がわか らない為、二人共各々出せる最大力より幾分か弱い。
 第二にピッコロの身体だからと言って特殊能力───食料をどこからともなく出現させたり───が使える訳ではないということ。そして現在のピッコロの方 も使用できない。あの能力は、身体と精神両方が揃って初めて発現するらしい、という今わかっても塵紙程も役に立たないことが判明した。
 そして、私は気弾が使えて、ピッコロは気弾が使えなくなったこと。

 「何でです?」
 「知らんがな。私が気弾使えないのが、コントロールの問題じゃない・・・ってのはわかったけどね」
 専門知識があってもお手上げだろうことを、私が知る筈がない。ひらり、とおざなりに手を振ると、右手に立つ私の身体が殺気を放つ。その性質がいつもと違 うのは、私のでもピッコロのでもない、慣れない気に苦戦している証拠か。
 「舞空術は」
 デンデが見上げる───そう、ここは地上から遥かに離れた上空、可愛らしい神の住まう神殿。入れ替わった誰かさんが「必要最低限の人間以 外には見せた くない」とか我侭を言ったせいで、時間をかけてここへ来る羽目になったのだ。
 悟飯は果たして必要最低限かな?
 「多少ふらつくが飛べんことはない」
 「速度は遅いしさ、私、落ちかけたけど」
 再びギロリと睨んでくる彼(容姿は「彼女」)は気付いているのだろうか。普通の人間の容姿で、そんなに強くない気で睨み付けようと、怖いなどという感情 が引き起こせるわけがない、と。

 「喋るな、
 「この状況の説明、アンタに任せてたら日が暮れそう」
 台本でもあるかのテンポの速さで返す。詰まった。
 意外に自分をわかってる。
 「・・・無駄なことを、喋るな」
 「無理だね。私ですもん」
 今度は足が飛んできた。私が足技を得意とするだけあって、先の拳より速い。硬いブーツの底を脛でガードする。軽い痛みしか感じないのは、良いことなのだ ろうけれど、心から悔しい。腹なんかにヒットすればもう少しでも効くのだろうか。

 自分って弱いなあ、と思う瞬間は頂けないものだ。








 通された部屋に、溜息を吐く。価値観がわからない。
 この世界の常識と思ってはいけない筈。ここは神の住まいで、私の住居は世界一の金持ち宅だ。

 「身体が戻るまで、ここで我慢して下さいね?何か欲しいものがあったら言って下さい」
 デンデの物言いはこの状況だと執事のようだった。
 石造りの、一瞬簡素とも取れる部屋。だがその実そこは講義室の如く広く、調度品もブルマ宅に見劣りしない。見よ、あの椅子を。足のカーブは国宝級の美し さではないか。
 「わあ、凄いですねさん!僕も暫くいたいくらい」
 「・・・いたら?他の部屋でも用意して貰えるよ、悟飯くんなら」
 ひょいと肩越しに部屋を覗き込んだ悟飯の歓声が耳に響く。良すぎる機能も困り物だ。ピッコロの耳元で騒ぐと殴られる理由がわかった気がした。
 これからは気を付けます。覚えてたら、なるべく。
 「ああ、ベッドもふかふか。いかにも腰に悪そうですね、気を付けて下さい」
 「悪くねえよ」
 子供のようにダイブする姿を呆れながら見る。しょうがないなと苦笑を漏らすと微かなデンデの笑い声が聞こえ、見下ろした。

 「いえ、さんだなあと思って」
 「・・・?まあいいや、ありがとね」
 首を傾げつつ礼を言うと嬉しそうに笑う。これが一世界の神だとは。
 「はい」
 そのままチョコチョコした微笑ましい足取りで去って行く背中を見送って、部屋に入る。扉が手抜きな感じの木製なのは、昔誰かに破壊されて慌てて直したの だとしか思えない。

 無造作に歩み寄ってベッドに腰掛けた。長い足が視界に入る。今更自分の身体ではないのだと実感が湧いてきた。
 「ピッコロさんとこ行かないの?」
 「部屋でぶすくれてて、今は触らない方がいいかなあ、と・・・変な感じですね」
 「私もそう思う」
 肩パットと共にマントを脱ぎ、ターバンを毟り取る。床に放り投げるとガン、だのゴトン、だのとあり得ない音がした。
 触角を触られる。くすぐったいというか何と言うか・・・兎に角あまり愉快ではない感じがしたのでその手を邪険に振り払った。感覚器ではないと思っていた のだが、一応そういう役割も所持しているらしい。

 しばし兄弟子と共に他愛のない疑問を───それこそ解決の糸口にもならないようなくだらない疑問をぶつけ合った。「抵抗しないで大人しく座るピッコロ」 が余程珍しいのか、何やらゴソゴソと色々弄くられたのだけれど。
 これがもし私の身体だったとしたら、言い逃れ一切効かない立派なセクシャルハラスメントなのに。

 「・・・悟飯くん、買い物行こうか」
 「はい?」
 ふと閉じていた目を開け、立ち上がる。つられて立ち上がる悟飯に、ニッコリと笑いかけた。爆笑の気配が目の前の顔に広がったのは、あまりに似合わない表 情だったからだろう。狙ったのだからそこは遠慮しないで欲しかった。
 「怒られちゃいますよ」
 「怖かねぇよ、私の身体で怒ったって」
 窓を開け、周囲を見渡す。神殿の裏側に当たるこの部屋なので、誰もいないだろうことは大体わかっていた。
 「何がしたいんですかさん。1時間もじっとしてられない病気とかですか?」
 「だから・・・なんでそう人を病気持ちにしたがるのさ」
 枠を跨ぐ動作が簡単なのは、足が長いからだ。軽やかに着地する。体重は重くなっているのに身体が軽いと感じるのは、つくりからして違うせいだろうか。

 「今、私、ピッコロさんの身体なんだよ」
 彼の目の前で手を開閉すると、不思議そうに目を瞬かせた。その手を引っ込めて自分を指差す。続いてポンと服を叩き、伸びた爪で摘んで、引っ張る。
 一連の動作をゆっくりと目で追って、悟飯は僅かな時間思考した。敷地の端に立った私から視線は逸らされない。

 やがて、キョトンとしていた表情が
 「・・・ああ、なるほど」
 ニヤリ、と、邪悪に歪んだ。

 同志よ。にわかに結束した二人をもう誰も止められない。
 迷いもなく虚空へと身を差し出した私に続き、悟飯も足を地から離す。重力を受けた急降下。慎重に気を調整する自分が懐かしかった。いつもならもう、意識 をちょいと傾けるだけで空を自由に飛べるのに。

 耳を揺らす風と轟音に唇の端を上げて、私達は方向を転換する。
 目的地は都。目指すはショッピング街のファッションショップ!



 立ち直ったピッコロは確実に追いかけてくるのだろう。

 もぬけの殻の部屋を見ての怒声が聞いてみたいような気がした。


ベ タベタ過ぎるネタが書きたかったので・・・続く・・・かな?(終わったら鬼)
最近はっちゃけたギャグが書けません
そういうの期待してて下さる方には本当申し訳ないんですが。何でだろう・・・




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