私は思う
逆境こそ楽しむべきだ
dizzy番外編
A⇔B 〜お遊び編〜
私、21歳。よろず服屋の半年目バイトです。
今日の従業員は私一人。他は帰ってしまったが、後1時間ちょっとで店は終了なので問題はないだろう。
開いた自動ドアに営業用笑顔を向けて、私は瞬時に硬直した。マニュアルの「いらっしゃいませ」。その一言が咽喉に引っ掛かって出てこない。数え切れない 程 の回数を重ねた常套文句だというのに。
冷たい外気に、色を抜かれた髪が乱される。
「ここ、結構知人が来る所ですよ。ホントに良いんですか、さん」
「良い。知り合いに見られる可能性があればあるだけ嬉しい」
バリトンを低く響かせた彼は、御満悦の体で口元を歪ませていた。眉はない、目蓋が重い。それなのにその笑みは、強面のつくりを悪戯めいた子供のように見 せ ている。緑色の肌を安い照明に晒す、その背は見上げて余る程に高い。
という名が、明らかに人間ではない触覚付の男にはとことんに似合っていなかった。
「オイシイ所だと、ベジータさんやらトランクスくんなんだけどね」
更に口調も外見と一致しない。
大人としか言いようのない「」の見目で、若盛りの青年口調。ヤクザとか言われても文句も言えない容姿なのに、言葉に込められたウキウキ加減はあの腕 白 坊主の笑みと合わせてまるで。
(あれで男子校生とか、ない、わよ、ね)
呆然と入店してきた二人組みを見ていた。幸いにしてというか不幸にもというか他に客はいない。
目が合って全身がビクリと跳ねる。イチャモン付けられるんだろうか。
浮かんでは消える逃亡方法に必死に意識の手を伸ばす。探す傍から矛盾が発見され、己の無謀さを鮮々と思い知らされる結果に終わった。
「あの、すいません」
「あはははははいッ!」
突如かけられた声に過剰に反応してしまう。近年稀に出す大声。しまった、大失態だ。
終わった、私の人生が、今ここで。アーメンと───何の宗教だっただろう───胸元で十字を切って力一杯組み、握る。
返されたのは低い怒声・・・ではなく、優しい声と苦笑だった。
「大丈夫ですよ。あの人顔は凶暴ですけど、性格・・・も、凶暴ですけど・・・ええと、噛み付いたりしませんから」
「・・・凶暴性なら悟飯くんのが絶対上だよ、きっと」
軽い口調に恐る恐る目を上げた。「」と共に入店した少年が笑っている。黒髪黒目、かなり高ランクの美少年だ。もう片方のインパクトが強すぎて目に 入っ ていなかった。
彼の後ろで「」が「物食べないのに何で歯があるんだろう」などと首を傾げていたが、じゃあどうやって生きているのか、という突っ込みはしない方向に 決 めた。
「・・・失礼しました。何をお探しでしたか?」
気を取り直して。
バイトにもバイトのプライドというものがある。多少なんて言葉は生温いくらいに引き攣っていただろうが、それでも私は営業スマイルを満面に浮かべた。
「」は悟飯、と呼んだのだったか。美形の少年が柔和に口を開く。
「LLサイズの服って、あります?」
言葉に一瞬ぐっと詰まって、引き攣りを深くさせて頷いた。
まさか「」が着るのか。いやまさかじゃなくともそうだろう。合わねえ合わねえ似合わねェー。
絶対に今の胸中を知られてはならないと思った。
「はい、こちらになります」
悠然を装って歩く、その足は微妙に震える。多分、きっと、それはばれているのだろう。
笑いを抑える気にもなれなかった。爆笑の渦を巻き起こしてしまった店には悪いけれど、これは仕方がないとも言える現象だろう。
試着スペースに縋って震える悟飯も同意する筈だ。こちらをこれ以上見ないようにしっかりと目を瞑り、顔ごと思い切り逸らしている。
かく言う私も声も出ない程に腹筋を痙攣させて蹲っているのだけれど。
「・・・・・・・・・・、・・・・・・・・・・・ッ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・!・・・・・・・・・・・・・・・・・・ッ!!」
呆然と立ち尽くす可愛らしい店員に、今自分はどんな風に映っているのか。緑色で強面で目蓋が重くていかにも性格の悪そうな男の───実際ピッコロの性格 は 悪いし、私も明らかに悪い領域であるということは置いといて───気が触れたとしか思えないに違いない。
あまりにも似合わない・・・否、ある意味「似合いすぎる」服は、自身の身体だったなら確実に遠慮したいもので。
「・・・・・・ッ、アロハ似合う・・・・・・・・・ッ!!」
痛む腹を押さえようと腕を動かす。羽織った瞬間に笑いを噴出してスペースから出てきてしまったものだからそこは素肌だ。暖房効いてても肌寒い。
ぱさりと音を立てる原色バリバリの上着をつい見て、はもう駄目だ、とスペースに舞い戻った。
目を瞑って唇を噛み締める。わたわたと急いてそれを脱ぎ捨て───先程チョイスしてきていた服、ふと目に入ったもう一着を、芸人根性で再び着込んだ。
見ないように見ないように。見たらまた暫く動けなくなるから。
細心の注意を払い頭を通す。尖った耳が引っ掛かって痛かった。しかしそれすら自分の姿を連想させる鍵となり、笑いのツボを刺激する。ついでに一つ、置い て あったオプション(店に飾ってあったものをパクッてきた)を頭部に装着。
「悟飯くーん、復帰したー?」
「は、はい、何とか!」
問いかけに、まだ笑い混じりの声が返された。咳き込む音も聞こえる。笑いすぎで咽る悟飯なんて初めてだ。
「では、第二弾!」
え、という驚愕には耳も貸さない。は問答無用に仕切りのカーテンを勢いよく開けた!
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ッ!」
一拍の時を置いて、悟飯の肺が一気に酷使され始める。
仁王立ちする私・・・というかピッコロの「姿」は、恐らく今世紀最大に直接目を合わせられない輝きを放っていることだろう。店員はどこかへ行っていた。 少し残念だった。なんせ自分の身体ではないのだから、自身は恥ずかしくもなんともない。
真正面に置かれた鏡に映る恥のない姿。私は時間の隙間なく爆笑した。しゃがみ込んだ拍子、頭の上でビンヨヨヨとばねが揺れる。
サイケデリックな色彩のTシャツ。大きく書かれた「電波受信中」という赤い古印体文字。
極め付けに、頭部を飾るスプリングの効いた胡散臭い電波受信塔。
笑いの台風は、この後30分に及んだ。
笑いが引いたのを見計らって様子を見る。
元の格好に着替えたらしい「」と悟飯という少年は、何やら二人して一点を凝視していた。
先程は思わず笑いそうになって命の危険から身を遠ざける為に消えていたのだけれど、あの笑いようから察するに、それは正解だったと思う。あのままいたら 絶 対笑っていた。あんな顔であんな服を着るなんて反則だ。
(ていうか、何見てんのかしら)
服の影に隠れつつ目を凝らす。見ている辺りは、確かやたらとファンシーな服の溜まり場だったような。
「・・・いややばいでしょこれは流石に」
「死んじゃいますかね僕達」
「閻魔大王に会ってもさ、笑ったまま止まらないかも」
「腹筋酷使地獄ってどうでしょう」
「つうか私はこの姿のまま地獄行きか?」
「じゃあピッコロさんはさんの姿で生きるんですねえ」
ピッコロ。それは何だかとっても緑色の姿に似合いそうな名前だ。意味の不明な会話を聞いて何となく思った。
あの辺りの服の何かを着るつもりなのだろうか。必死に記憶の糸を手繰り寄せる。ファンシー服周辺は、客を案内することも特にないので記憶が薄い。
じっと見る。目が悪くならないかという程じっと見て、ちらりと覗いた色に肩を揺らす。黄色。
(虎のヌイグルミ寝巻きだ!)
気付いてブウ、と空気を噴出してしまった。真剣に見ている二人の目が余計に辛い。
と、その視線が何かを見付けたように上がる。野生動物のような素早さだった。
「あ、やばい」
一言呟いて、さっさと店の出口に歩いていく背をぼんやりと見詰める。何だろう。視線が合うと、すいませんでした、と軽く謝られた。
結局その服は試着しないまま、二人はあっさりと外へ出て行ってしまった。何を買うでもなく。
私はその二人のことを、生涯忘れはしないだろう。
それから1分後。
自動ドアを無理矢理抉じ開けるかの勢いで入店した少女がいた。黒髪に、綺麗な瞳。琥珀のそれは恐ろしい怒気を湛えて輝いて、黄金にも見える。胸を見なけ れ ば少年だと勘違いしただろう容姿は、中性的と言うには男寄りだった。
怒りの琥珀がじろりと私を睨みつける。「」よりずっと怖くない容姿なのに、底冷えするような迫力を感じた。
「ここに『』という『女』が来ただろう」
「お、あ、え?お、男の方ならご来店なさいましたが」
答えると、ちっと舌を打たれる。正直に言ったのに何でだ、と考えて、対象が違うことに気付いた。苛立っているのは「ご来店なさった」。過去形にだ。
「どこへ行った」
少女の身長は私より幾許か高い。むすっとした表情が違和感を与える。
これで「」のような表情なら。これが「の身体」でする表情なら、どちらもしっくり来ると思うのに。
「街中へ行かれたと、思うのですが・・・」
「そうか」
一つ頷いて踵を返す。足取りさえも怒りに満ちていて、一瞬、この人に「」が見付かったら何をされるのか、と心配になった。
透明な自動ドアを潜った途端にしなやかに駆け出した少女を目で追い、肩を落とす。
訂正。
私はこの日のことを、生涯忘れはしないだろう。
数分後、街中に言い表せないような轟音が響き渡った。
ぶ つ切りでスイマセン・・・いつか書き直したいなあと思うほど酷いような・・・
1の方の内容忘れつつ書いたものだから更に酷い
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