18号、という女性がいる。
はぶっきらぼうな彼女がお気に入りだった。
dizzy番外編
ばか言うな
「あ」
道端だった。何の前触れもなしに現れた悟飯は小さく声を漏らして顔を赤く染めた。余りにも不可解な反応に、は眉を顰める。
「おはよう」
「あ、こ、こんにちは」
ずれた挨拶を交わした今は午前9時。こんにちはというには少々気が早くないか?
彼は益々不審を前面に出したに気付くこともなく、そわそわと辺りを見回していた。もう何て言うか、不審って言葉を使うと不審者が可哀相なくらいの速 度で首を巡らせている。誰かを探しているようだった。
「・・・もしかしてピッコロさんもいたりすんの?」
上の空で、それでも一応はいと応答したのに、眉間の皺が一本増える。
(また面倒が起きるのか)
最近妙な悟りが開けるようになり始めていることに気付き愕然とした。一般人でありたい。そんな可哀相な願いを持つ日が来ると、人畜大まかに言えば無害な 友人達と笑いあっていた日々には考えもしなかったのに。
・・・いや、そんなん考える人間がいても嫌だけど。
「あ、ピッコロさん!」
声変わりが終了したとは露ほども思えない男にしては高い声に、ぶんぶんと頭を振って自分は一般人一般人と呟いていたの思考が現実に戻る。
手を振る少年の視線を辿ると、長身の緑色人間型生物が目立って見えた。葉緑素は断固としていらないが、あの長身はカブトムシの卵程には羨ましい。
悠然と歩いてくるピッコロとふいに目があって。
「うっ」
「ちょっと。アンタまで何だその態度」
「い、いやそのだな」
厚い顔面を大きく引き攣らせて彼は一歩後退した。
おそる、と男二人が顔を見合わせる。まるで見てはいけない物を見たようであり、化け物に運悪く遭遇して対処に困ったような、かつ、どこか照れて気まずい ような。そんな複雑な表情だった。
─────気持ち悪ィ。
素直に率直な感想を抱いて溜息を吐く。僅かに目を逸らした、その途端。
「あ、じゃあ僕等これで!」
「うん?」
ドン、と空気の破裂する音が耳に届いた時には、もう既に二人の姿は遥か彼方に飛び立っていた。
「・・・何だってんだ?」
18号を見付けたのは昨日の夕方だった。
さらりと流れる細い金髪が、夕日の赤みを帯びて何とも言えず美しい。美白の見本のような肌も茜に染まり、写真に撮って何かのコンテストに応募したなら、 金賞は確実だったろう。惜しい事したなあと今更思う。
「18号さーん」
どうやらこちらには気付いていなかったようだ。手を上げて呼びかけるに弾けるように振り向いて、ふと軽い笑みを溢す。ブリザードを振り撒く空気が仄 かに暖かく色付いた。
「。奇遇だね」
「買い物ですか?」
「クリリンと待ち合わせさ。買い物はその後」
「ラブラブですねえ」
からかい混じりに投げる言葉に、だがしかし彼女は頬を染めるような性格はしていない。ある点ではよりもなお漢らしい18号は、ただ無言で唇の端を上 げただけだった。
軽やかに着地。浮力を完全に消すと、身体の重みを実感できて安心する。やっぱり人間、地に足を着いて生活する生き物だよな。取りとめもなくそう考える自 分に苦笑して、重厚な玄関扉に手をかけた。
「ただい」
「!」
10センチ程の隙間を空けたには、帰宅挨拶すらも許されなかった。
扉をぶち破る勢いで飛び掛ってきた小さな影に吹っ飛ばされる己を知覚する。扉をぶち破る勢いなだけあって、3メートル近くは空中に身体が浮いた。
落下は嫌いじゃない。その後ゆっくり着地出来なかったら痛かったり死んだりするだけで。
「、!アレ、嘘だよな!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ッ!」
悶絶するの肩を引っ掴んでガクガクと揺さぶる、小さな影ことトランクスに、返される言葉はない。というか喋れない。
頭蓋骨が陥没してそう。おまけに頭部から着地したせいで、首も何か曲がってない?
「なあ、ってば!」
「・・・・・・・・・・・・、・・・・ッ・・・・・・・・・っ!」
「そんなコンクリ地面ゴロゴロ転がってないでさ!」
「・・・・・・・・・ッ、・・・・・・・・・!・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ッ!!」
「なー!、何蹲って痛そうに頭押さえたりし」
「違うことなく痛いんじゃこのボケ───ッ!!」
涙目で見舞われた激烈なコークスクリューアッパーは見事に少年の顎を撃破した。
流石のサイヤハーフもこれには頭をぐらつかせ、上体が後方に傾ぐ。倒れはしなかったが脳震盪起こしかける位には小気味良く入った筈だ。
後頭部が痛くて、ざあぁみろと思う余裕はなかったが。
「ひ、ひっでえ、・・・」
「うるせえちっさい悪魔、ひでえはお前だ!見ろこのギネスを書き換えるようなタンコブを」
ふら付きつつも何とか体勢を直したトランクスが膨れる。それだけ効いたのだろう。多少疼きの収まった患部を柔らかく押さえ、今度こそザマアミロと舌を出 した。
その行動に対して少年は。
何故だかボンと湯気を立てて赤く染まった。顔と言わず、耳やら首やら、手足まで。
「・・・あ?」
唐突な状態に面食らって反射的に一歩後退。素早く周囲を見渡すが別に何もない。となれば原因は・・・自身だ。
「どうしたよ、トランクス君」
「あ、いや、別に」
どこかで見たような反応だった。ていうか今日見た。寧ろついさっきと言うか。
少年の身体はガチガチに固まって、目は大きく見開かれたままに硬直。あちらも一歩後退したようだったが、まるでギシリと、錆びた鉄人形が動く幻聴が聞こ え幻覚が見えた。
「お前何緊張してんの?」
「いや別に」
再び同じセリフを繰り返してぎこちなく笑う。仕方ねえなあと頭を掻いて指を振った。
「ほら深呼吸。吸って〜」
脳が働いていないのか、彼は素直に息を吸う。
「はい吸ってー」
もう一度。突っ込みもなく二度空気を味わう小さな身体が僅かに反った。
「ほうら吸ってー」
馬鹿正直に三度、大きく身体を弓形に、腹から胸に空気を満たす。
「更に肺が破裂する程馬鹿みたいに吸っ」
「もうそろそろ突っ込んで良い?」
違う理由で赤くなった顔を引き攣らせ、トランクスは呼吸を止めた。溜めまくった二酸化炭素を合成させた空気を力一杯に吐き出す。はニコリと笑った。
「吐いちゃダメだってば。ほら吸え」
「えっと、まだタンコブ怒ってんの?」
「怒ってないと思う?」
笑みをわざとらしく深めてやると、視線を盛大に泳がせて口を濁らせる、誤魔化しスキルが発達していない純朴な少年。多分。
指の関節をバキボキベキと景気良く鳴らすの行動に、彼はやはり視線うを逃がしたままに一筋の汗を流した。
「来ないねえ、クリリンさん」
二人して壁に背を預け、空を見上げて呟く。別に舞空術で来るだろう、とか思った訳ではない。街中でビュンビュン飛ぶ程に常識のないどっかの生物とは彼は 違うのだから。
「そうだね」
苛立つでもなく、18号は軽く頷いた。
「アイツが遅いって事は、何かあったんだろうね」
お婆さんが道に迷って困ってたとか、子供が転んで膝擦りむいたのを手当てしてるとか。瞬時に脳裏に描かれたのはそんなほのぼのとした映像だった。例えば 誰とは言わないが、これが某宇宙人だったなら。
そこまで考えて慌てて首を振り、思考を四散させる。シャレにならないフラッシュバック。過去、確か似たような事例があったようななかったようなっていう かないであって欲しい。
想像ですらほのぼのと悲惨に分離してしまうのは。
「・・・常日頃の行いの差かな」
「ん?」
「いや、ちょっと独り言」
うーん、と一人頭を捻り、は再び暇つぶしの戯言を口にし始めた。
何だろう、と考える。ベジータに急襲された後頭部を両手で覆い、冷たい玄関で一人倒れて目を瞑った。師匠と兄弟子の妙な反応、加えてトランクスの反応。 総合して、思考を幾度も往復させる。
暫し黙考。やがてピッ、と右手の人差し指を立てた。
(その壱、いつも通り何かやらかして後ろめたい)
否。
(だとしても普通、顔は赤くしない)
転がったまま真剣に唸り、中指も立てる。左の親指と人差し指で顎を軽く挟んだ。
(その弐、実は単なる嫌がらせで、私を悩ませようという演技)
思って、いや、と首を傾げた。あいつらにを騙せるような高ランクの演技スキルはない。特に緑色暴力レア宇宙人。
更に薬指も立てて、ひらりとその手を振る。
(その参)
─────ばからしい。
案を立てる前にさっさと打ち消した。あいつらに限ってそんな筈はないだろう。
(私がいつか“帰る”ということでも、深く考えた)
考える訳がない。考えても驚かないが、例えば考えたとして、そこであの最初の二人が「避ける」という行為に走るとは絶対的に思わない。
(別れるなら親しくならない方が良い、なんて後ろ向きなアタマの持ち主じゃねえだろ)
無駄なことを考えた。潔く思考を打ち切る。上半身を起こし、もう一度後頭部を優しく撫でた。トランクスにやられ、何だか不機嫌で顔が赤かったベジータに 殴られ。コブはかなり邪魔な大きさにまで膨らんでいる。ここで痛みに耐えるよりも早く冷やした方が得策だ。
(その四、頭おかしくなった集団の、ちょっとした気紛れ・・・)
よっこらしょと爺くさい声を上げて立ち上がり、リビングへと歩き出した。
唐突なのが普通なのだけれど左目が痛くなって、不意打ちかよ、と顔を顰める。反射的に両の視界をシャットアウトして眉を思い切り寄せた。
「・・・ゴミでも入ったかい」
「そうみたい。虫だったらヤだな・・・鏡ある?」
「ないね。見せな」
顎を細い指で掴まれて上を向かされる。この細い指でやたらめったら強いってどういうことだ。
「目ェ開けて」
指示に素直に従った。ゴロゴロする目を何とか開ける。下目蓋を軽く下げられると、その辺りに異物があったのか僅かに痛みが減少した。
シミ一つない綺麗な肌が視界を一杯に塞ぐ。スマルトの瞳と視線が交錯し。
「あー、虫だね。1ミリくらいの羽虫」
「私の水晶体に不埒を働くこの輩を、早く排除して・・・!」
数秒手法を迷ったようで沈黙。目蓋を押さえる手とは反対の手が目に近付いて、目の周りの筋肉に思わず力が入った。
「ちゃーん、お客よ」
「こんな時間に?」
PM9時。を微妙に超えた今、一体誰が何の急用だと言うのだろう。手に持った氷嚢を机に置き、重い腰を上げる。後ろ頭の痛みは時間の経過と冷やしたお蔭 で治まりかけていたが、その代わりに頭全体がじんわりと痛みを訴えていた。
急ぐ気もなく玄関に向かう。
「・・・と、クリリンさん」
上がるでもなく突っ立っていたのは、滅多にこの家には現れない人だった。
「どうしたんですか。いつもと生息地が違うじゃないですか」
「せ、生息地って・・・」
どこか悲壮な面持ちで佇む彼に違和感を覚え、は表情を引き締める。琥珀の瞳で真っ直ぐにクリリンを射抜いた。少しばかり顔が赤い。
「18号さんに家おんだされちゃったんですか?奥さんに放り出されるような人として可哀相なことなら相談に乗りますよ?」
「いやあの、そんなオレ可哀相な人間じゃ」
「いいえ、わかってるんです。ヤムチャさんには敵わなくともクリリンさんは別の意味で可哀相で見てられない人だって。奥さんには実力で勝てないし、敵に やられるためだけに出てくるような役回り、いい加減辛いんでしょう?気にしないで下さいよ。クリリンさんは立派な物語盛り上げ役です。味方の誰かがメッタ メタにやられてその他が怒りにパワーアップなんて王道にいちいち沿ってくれる律儀な人、私クリリンさん以外に思い当たらない!」
「ええっと」
「やっぱりある程度の王道なくして緊迫感は出せませんよね。大丈夫、損な役回りも大事な歯車。じゃなくともちゃんとパーツの一つに違いありませんから、 自分の天命から逃げないで下さいね。っていうかクリリンさんいなくなったら私にその役回ってきそう」
「あああああぁぁぁぁそっちが本音かとか突っ込むより先に殺したい・・・!そうじゃなくてだなあッ!」
え、違うの?
はキョトンと目を開いて呆ける。一応真面目な対応だったのだけれど、何かが気に入らばかったらしい。腕を振って地団駄踏み出したちっちゃいオッサン から、取り敢えず一歩離れた。
「ちょっと訊きたいことがあっただけなのに、何でそこまでクソミソ言われにゃならんのだ!?」
「適当な勘と、従来の性格故、かな」
少々の髪を乗せた頭ががっくりと落ちる。中途半端な髪型がちょっとだけ気持ち悪い、とは、御機嫌斜めなようなので言わないでおこう。
弾ませた息が収まるまで待って、再び口を開いた。
「遠回しに言っても多分答えないと思うから単刀直入に言うけど」
「率直でも答えないもんは答えないけど、どうぞ」
顔が更に赤く染まり上がる。まるで、本日出会った4人のようだ。
酷く言い難そうに口を開閉させる光景を、自動販売機が品物を落とすのを待つような気持ちで見守った。つまり、彼は真剣深刻だがとしては別に深刻では ない。そういう用事だと想像は付く。
「ちゃんさ」
1分、2分と経過する時に、もうそろそろ自販機蹴っても怒られないよねと気持ちを固め始めた。吐くなら早くして欲しい。
と。
「じ、じゅうはちごうとキスとかしたか?」
一瞬の呆け。余程緊張したのか舌足らずに言葉を告げる彼を、は一転して胡散臭いものを見る目で凝視する。ああ、いや、その、と急に慌て出したクリリ ンを観察、ふと思うことがあった。
「・・・それ、誰に吹き込まれたんです?」
静かに問いかけたにつられて落ち着いたらしい。顔を上げて彼は簡潔に答えた。
「え、悟飯だけど」
舌を打つ。当たり前だがガセだ。但し─────
「見間違いにも程ってモンがあんだろあの野郎・・・!」
つまりアレだ。目にゴミが入って取って貰ったのを、まるで少女漫画の王道のような勘違いをしやがったのだ!
「・・・取れたよ。もう痛くないかい?」
「大丈夫。有難う、18号さん」
和やかに礼を述べたその向こうに一瞬、邪魔なほど良く見知った少年が愕然と佇んでいるように見えた。彼が見えたのは本当に一瞬だけだったので、てっきり 単なる幻覚かと・・・
思ってたけど、違うワケだな?
背後で「何なんだよ!」と吼えるハゲを残しは空に身を躍らせた。勿論目指すは孫家、寝静まった山、闇の中の一角。
今度こそは一回、この世に生まれてきたことを後悔させてやる。
確固たる決意を胸に、拳を握り締めた。
場 面転換が多くて、何となく長そうに見えて(私に)お得な初18号出夢
クリリンさんも初めてだったような気もします
「DBキャラがドリ主を見て赤くなるけど絶対恋愛感情はありえない」が私的お題でした
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