いつものように起き出していつものようにカーテンを開ける。
 灰色掛かった空と冷気に身を震わせて、は黙々と着替えを進めた。







dizzy番外編
まっ するぷろてくしょん







 「おはよう、ベジータさん」
 「・・・見ないと思ったら、今まで寝ていやがったのか」
 眉を顰めた言葉に、時計を見れば10時半。日曜日は修行も休みという規約を設けているのだから何のこともない時間である。むしろ起きたことを褒めていた だ きたいくらいの早起きだ。

 リビングからキッチン側に手を伸ばしてパンを引っ掴むと、何故だか溜息が聞こえてきた。
 「なんでふか?」
 千切って食べるなどという高尚なことは刷り込まれていないので、そのまま丸ごと齧り付く。仄かに香る香草の爽やかさが残っていた眠気を効率よく取っ払っ た。おいしい。
 「口にものを入れて喋るな───怠惰にも程がある」
 「もとの世界のお隣に住んでた兄ちゃんに比べたらどってことないですよ」
 作るのも面倒なんだから、いいじゃないですか。
 
 あっさりと食べきって、物足りなさに目を走らせる。今度はちゃんとキッチンに侵入し、冷蔵庫(いやにでかいのは家族を考察すればすぐに納得が行くだろ う) を開けて牛乳を取り出す。ついでにチーズの切れ端をいただいておいた。もうひとつパンを掴んでリビングに戻り、テーブルに着く。
 はむ、とパンを口にして、ふとベジータの鍛えられた二の腕が目に入った。








 「・・・ベジータさん、寒くないですか?」
 腕を覆うのはいかにも実用性を重視した硬い筋肉のみ。視線を移動して胴部を見れば、着ているのは通気性のよさそうな紺色薄地のランニングシャツオンリー だ。下半身を覆うゆったりとしたズボンも、決して温かそうには見えない。
 家の中はそれなりに暖かい。金持ちなだけあって暖房も当たり前に完備されている。しかし冬にはもう少し届かない季節柄その効き目はひどく柔らかなものに なっていて、だからこそも暖かなモコモコのスリッパを履いているのだ。パンツも風が入りやすいブーツカット型でありつつ、腹が冷えるのでちゃんと股上 は深い。そこそこ防寒はしているのに。

 「貧弱なお前と一緒にするな」
 「ああ・・・宇宙に出て戦ってた民族だから、寒さには強いのかな。宇宙人って時々羨ましいですね」
 宇宙って寒いんでしょう、とニッコリ言うと、いきなりこちらに向かって手がかざされた。慌ててテーブルを引っ繰り返す。轟音と共に光が弾けて、強い振動 が 手に伝わった。全部食べ終わっててよかった。

 「あーああ、コップ割れちゃった、テーブルぶっ壊れちゃったッ!」
 避難させた小皿を床に置く。支えていたテーブル台から手を放すと、真ん中から真っ二つに割れた。手加減はきちんとしてくれているみたいだ。これが「家を 壊 さないように」ではなく「を殺さないように」の手加減であったなら非常に嬉しい。
 明らかにそんなことはダウトであるが。
 「キサマが避けるからだ!」
 続いて放たれた拳を危なく回避する。おざなりに残っていた木片がご臨終したのを見届けて、ヒョヒョイとリビングの出口に走った。振り返る。

 「死にたくないですし。やたらと運動能力鍛えてるのは師匠たちですよ〜」
 「うるさい!」
 投げ付けられた木片を扉でガードすると、同タイミングでインターホンの音が鳴った。
 そういえばトランクスが孫家に泊まりに行っていた覚えがある。帰ってきたにしては早い気がするが、悟天とゲームでもしに来たのかもしれない。

 「後で片しますんで、それ以上壊さないようにそのまま放っといて下さい」
 言い残し玄関に向かう背中に、ただならぬ罵声が届いたような気だけはした。








 仄かに白い息が視界に覗く。
 「たっだいま〜」
 「おじゃましますっ」
 「はい、おかえりいらっしゃい。・・・と、悟飯くん、どしたの」
 「悟天たちがこっち来るって言ってたので、一緒に来ちゃいました」
 元気なおチビを勝手に上がらせて、は悟飯を迎え入れた。近しい知り合いだし、まああの惨状のリビングに通しても問題ないだろう。多分。

 歩きながらちらりと彼を見る。白のスウェットのパーカで重ね着はなし。一見そんなに寒そうな防具ではないのだが、よく見るとその生地は結構薄い。
 確かパーカとは「極寒地で着用する毛皮製の上着」に由来していた筈なのに、この防寒性の無さはなんだろう。
 外は何だか寒かった。

 「・・・悟飯くん、寒くない?」
 「いえ別に。さんこそ暑くないですか」
 「コレが普通だと・・・思うよ。チチさんとか厚着してるでしょう」
 問うと、首を傾げて思いを馳せた。恐らくは本日の母親を頭に浮かべているのだろう。
 「そういえば着込んでました」
 手を打ってポツリと言う悟飯に苦笑を漏らす。悟天も薄着だったことを考えると、彼らの母親は風邪を引いて帰ってこないかとヤキモキして送り出したのでは な いだろうか。

 足を止める。ここにいた筈の人の気配はない。リビングの扉に手をかけて、は振り向かずに言った。
 「荒れてるけど、いつものことだから気にしないでね」
 ガチャリと音を立てて取っ手を回すと、廊下よりも少しだけ温暖な空気が流れ出す。その隙間から取り敢えず中を覗き込んでみて。
 「・・・あちゃあ・・・ベジータさん、やっぱりやらかしたか・・・」
 扉に突き立ったフォークを抜き取り中へ入る。倒れたソファを立て直して、更に細かく粉砕された故・テーブルを縁に寄せた。割れたガラスは気にしない。

 「わ、凄いですね、何やったんです」
 後に続いた悟飯が、当たり前だが驚く。割れずに生還したらしい例の小皿を拾い上げて渡してくれた。
 「ちょっとねー・・・悟飯くん、これ戻せる?」
 「戻せますよ」
 自分では到底動かせない冷蔵庫を軽々と持ち上げる悟飯。何と羨ましい力だろう。感心して目で追っているとマニア垂涎の筋肉の動く様子が見えて、ああそう か、と呟いた。

 「さん・・・いつものことですけど、一人でいきなり納得するの止めて貰えません?ウザイですから」
 「ウザイとか言うな性格紫色。悩み事が解決したの」
 「庭土のバクテリアの数が気になってたとかですか?」
 「そこまで無駄な知識はいらないし考えない」
 君が私のことどう思ってるのかとっても的確にわかった。
 力なく吐き捨てて片付けに専念する。足元だけ危険のないようにしておけば、ブルマも納得してくれる筈。



 手伝う気の欠片も見せずにどっかりとソファに腰掛けた悟飯に向けたティー・カウ・コーン(2連続顔面膝蹴り/ムエタイ技)は、正当なものであったと信じ て いる。








 あらかた片付けたらちょっと暖かくなった。
 冷たい麦茶を口にして、は小さく息を吐いた。ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てるガキ共の声と怒鳴りつけるベジータの声をバックミュージックに心温まる自分が 結 構好きだ。

 「で、さっきのなんだったんですか」
 強制的に片付けを手伝わせた───と言っても勿論力尽くではなく、平和的にピッコロの寝顔写真で釣った───悟飯が、茶を飲み干して問う。左手に茶菓子 を 確保しているところが食欲魔人サイヤ族である証か。
 「最近寒くなってきたよね、っていう悩み」
 「・・・冷え性なんですか?」
 「末端冷え性ではあるけど・・・そういう話ではなくて」
 わあああ、と廊下を走り抜けるチビの声が響く。続いて、「おとなげ」という言葉などついぞ聞いたことのないのだろう怒号。
 気配だけを十字を切りつつ見送った。助けてなんてあげない。心温まりまくるから。

 「君もベジさんもさ、チビとか。何で寒くないのかな、って」
 煎餅を半分に割って、欠片がこぼれ落ちないように注意して噛み砕いた。その音と、どこかで轟いた爆発音が重なる。「食べた煎餅にダイナマイトが隠されて い ました」とかいう想像を浮かべてしまい、思い切り顔を顰めた。
 「それって果たして悩むべきポイントでしょうか」
 「見てるほうが寒いの。雪の中にひたすら埋まってる人とか見たら、うわあとか寒くなるでしょ」
 「別の意味でうわあと思って、薄ら寒くはなりますけどねえ」
 まあ確かにそうかもしれないけれど。
 呟いて、煎餅の残りを無造作に頬張る。

 「で、どんな感じに解決したんです」
 最後の一枚に手を伸ばすと、数瞬ばかし早く掠め取られた。他人の家で何て卑しいやつだ。自分も居候の身だから何とも言えないけど。
 美味そうに動く口を恨みがましく見据え、はソファに凭れ込む。
 柔らかに目を閉じた。



 「基礎代謝量とは内臓を動かす、息をする、体温を保つなど生きていく上で必要になるエネルギーの量で、通常1日の総消費エネルギーの約70%を占めま す。 基礎代謝は筋肉を中心に消費されますから、同じ体重でも体脂肪率が低く筋肉量の多い人の方が基礎代謝は高くなります。
 知ってるよね?」
 「はい」
 「ポイントなのは、基礎代謝が高いと体温を維持する能力も増すってところで、筋肉量の異常に多い君たち何かはその傾向も顕著だろうね。つまりまあアレ だ」
 「・・・マッチョほど冬場は暖かい、とか言いたいんですか」
 「そう。生理学的にも正しいでしょ」

 どことなく悟飯が複雑そうな顔をしているのは気のせいだろうか。がっくりと肩を落として、視線も床を這っている。変なことを言った覚えはない。
 だって、当たり前なほど当然のことなのだから。
 「マッチョメンがむさ苦しい、とかって、こういうののせいなんだろうなあ」
 ほくほくと手を打ち合わせて茶を飲み干す。後でベジータにも言ってみよう。貴方たちが異常なんだから、他の人に「暑くないか」とか言ったら駄目だよと忠 告 してみよう。

 「さん」
 「ん?」
 視線を未だ床に置いたままで呟かれた名を耳が掬う。ちらりと見えたその顔は、鬼のサイヤ人とは思えないほど情けなかった。



 「マッチョマッチョって、あんまり嬉しくないんで・・・ああ寒くないんだな、っていう見解に留めといて下さい」



 そっとこぼれた意見を頭に入れて、は初めて気付いた。
 マッチョって、誇らしいことじゃないのだな、と。








 一応ベジータの耳にも入れてみたりしたのだが、やはり再びしつこいほど非情な狙撃をされたことだけは、怨念を込めて明記しておく。



タイトル文字化けしてたら申し訳ない。比例記号です
最後の方、面倒になったんだなってバレバレでスイマセン。もっとうまく誤魔化さなきゃ(誤魔化すな)
ティー・カウ・コーン辺りまでは一気に書けてノリノリだったんですが
私はどうも、ブルマ宅の構造をを宇宙戦艦か何かと勘違いしているようです
廊下長い

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