dizzy番外編
仲良き事は美しき事かな?







 人間って難しい。







:多事多難







 「ぎゃーッ!?」
 燦々と照りつける凶悪な太陽光の下。
 今日も今日とて女らしさの欠片もない声が、響く。音を遮る物は、精神的に優しくない威圧感を誇る岩壁のみで、ひどく遠くまで響き渡ったことだろう。
 更に、轟と爆音が空気を揺す振った。
 
 「ピッコロさ、すと、ストップだって死にますっていい加減!」
 「何、死んだら生き返らせてやる。安心しろ」
 「イヤですって!人生一回きりで充分ですから、お願いヤメテーッ!?」
 
  間一髪、放たれた光球を髪の一筋を焦がすだけで避けられたの 声に、ピッコロは悪びれることもなく笑って返す。続いて作られる拳程の光球。緑色の肌を 皓と照らすいっそ清々しく凶暴な光に、は 顔を引き攣らせた。
 背後で煙を上げる岩壁をちらりと見る。半ば抉られた形の硬い岩は、先刻放たれた同一の光球の功績によるものだ。

 ───ホントに死ぬ。

 今まで生きていて、この時ほどに瞬間移動を恋しく思ったことはなかった(と思う)。









  修行とは名ばかりの虐待、近付いてくる大きな気に2人が気付いたのは、の 生がもう少しで終わるかという時だった。









 大気が通常では有り得ないほど乱れ、徐々に岩盤が捲れ上がる。小石が頬を掠って地面から飛びたち、少量の血液が舞い散った。空を駆ける自分に傷をつくる のだから、結構な勢いである。
 「・・・あれ、悟飯くんの気ですよねェ?」
 「・・・そうだな・・・」
 大地に降り立つ師を訝しげに見遣ると、そちらも眉(ないけど、その辺り)を顰めて彼方を睨み付けている。

 温厚な彼がこんなにも気を荒げるとは、一体どういった事態なのだろう。些か不安を覚えつつも適当に当たりを付けてみようと、他人より少し良く出来ている らしい思考を巡らせる。もし宇宙から侵略者が来たのならピッコロが気付く筈だし、大体こちらに向けて意識的に放たれているらしいこの不穏な気は緊張でなく 怒りだし。
 (・・・まてよ?)
こ ちらに放たれているということは、明らかにか ピッコロか、或いは両者に対しての怒りだ。ならば何をしたか。 に は心当たりがない。ではピッコロか と思っても、彼は些細なことでは悟飯の怒りの対象には成り得ない。

 (─────・・・や、まさかね)
 何の間違いか、ふと辿り着いてしまった一つの可能性に苦笑を漏らし、首を振って打ち消す。それこそ有り得ない。そんな事で悟飯が怒るのもしっくり来ない し、いくら何かと変にそそっかしい師であっても、そこまでアホでは。

 「・・・・・・・・・まさかね」
 もう一度、今度は声に出して否定する。一抹残ったイヤな予感は消えず、頭を掻いた。
  は 声に「何がだ」という疑問が来ないことを不思議に思わなかった。










  信じられないスピードで近付く光を視界に受けて、は 見間違いかと己の目を擦る。気はここまで強いものだったか。それとも悩んでいる間に変わったの か。
 身体は豆粒ほどにしか見えない遠くからでも目を眇めてしまう、黄金の光。
 無意識に顔が引き締まり警戒信号を作動させる高圧なオーラ。
 「・・・超化しているな」
 「スーパー・・・サイヤ人ですね」
 ピッコロの声が不自然に硬化しているのも気にかかったが、取り敢えず意識は襲い来る強大な力に向けていた。気を抜けば飲み込まれる。危険から目を離すの は、流石に相手が悟飯であっても出来ない。


 緊張に唇を結んでから、10秒もしないで彼は上空に辿り着いた。淀みなくスゥと真っ直ぐに地に足を着ける僅かな間も、悟飯はじっとピッコロを睨み続け、 更に殺気をぶつけている。
 そのピッコロはと言えば、珍しくも悟飯から大げさに目を逸らし(というか顔ごと背けて)ジットリと全身から汗を噴出していた。いわゆる冷汗だ。
 それだけでは何を仕出かしたのかはわからなかったが、少なくとも何か仕出かした心当たりはあるのだと理解した。自分に向けられた怒りではないと安堵す る。師には悪いが、十中八九自業自得の所業であろうし、何より自分は死にたくない。

 ほんの僅かに余裕が出来て悟飯に視線を戻すと、しかしそのミリ単位の余裕すら掻き消えそうに儚くなった。

  青年と少年の丁度間に位置する悟飯。温厚な彼しか基本的に目にしないせいもあるだろう。限界まで吊り上った目はそれだけでMr.サタンの心臓病を併発さ せそうに壮絶で、重力に逆らって昇る金色の髪は「怒髪天」を見事に表している。あまつさえ、殺気は微妙ではあったがに も流れてきていて。
 「ピッコロさん」
 地を這う声を何より怖いと思った。背筋に鳥肌が立つ。
 やめてくれお願いだから自分が消えてからコトを進めてくれと願わずにはいられない。

 「・・・・・・ピッコロさん」
 返事がないのに気は増して、吹き飛ばされそうに風が荒れる。うわ、と思わず声を上げると、悟飯の冷たい冷たい、摂氏マイナス273.15度の視線が寄越 され、原子レベルから硬直した。

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・悪かった、悟飯」
 「三回目です」
  絶対零度は視線だけではないようで、吹き荒れる熱かった空気さえ今は死ぬほど寒い。真に遺憾ながら意識までは凍らせて貰えなかったは 必死で身体を動 かせるようにと焦る。これ以上こんな寒気に晒されていたら本気で人生を終わらされてしまう。

 三回目、三回目。考えるなど今はしたくもない。どうせこんな恐怖に凝り固まった頭で考える答えに正解など在りはしないだろう。
 助けてベジータさん!と泣きつく術があるなら教えて欲しかった。悟飯の怒気の欠片を食らうくらいならば、ピッコロよりも酷い、ベジータの超スパルタ修行 を受けていた方が、何百倍か───。

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・すまん」
 「この間もそう言いましたよね」
 まるで妻に浮気を咎められる夫のようだと現実逃避に思う。三回目の浮気くらい大目に見ろよ。言ったらその場で殺されそうだから、ピッコロの為の茶々なん て入れてやらない。
 長身のピッコロが頭1.5個分は小さい悟飯に圧倒されている図にざまあみろと思う程度に固まった心臓を起動させる。人を殺そうとした罰だ。

 指先の石化が解ける。爪先、足首、ふくらはぎと順々に硬直を解して。腫れ上がった肺から空気を押し出してやっと、生き返った気分になった。
 動ける。なんて素晴らしいことだ。
 それでも晴れ晴れとした気分になれる筈もない。勝手に逃げるか原因を知るかを選択肢にして、一瞬考え、嫌々ながら口を開く。耳は塞がないことにした。


 「・・・ねえ、ピッコロさん何したの?」
 動けば殺られるとばかりに無理矢理引き攣った笑顔をつくり、尋ねる。そもそも肉食獣相手に引くなんていうことが間違いなのだ。心持で壁をつくっておけ ば、ギリギリ致命傷に届かない。
 これは助け舟とでもとられたのか、ピッコロが息を吐いて答えた。

 「修行に付き合う約束を破った」
 「・・・・・・もしかして、今日、今?」
 「・・・ああ」
 「・・・・・・・・・・・うっわあ・・・・・・ピッコロさん、マジかよ」

 信じられないことをしてくれる。
  今日チョンボしたとは、つまり、に も責任が多少なりとも存在すると取られてしまっているだろう。殺気は向けられて然るべきものだったのだ。これでも 悟飯はきっと抑えている。彼の理性に感謝した。そうでなければまだ固まっている、心臓までも完璧に。


 三回目。
 急にその言葉が浮上する。いやな感じだ、三回目。三回目。
 もし。
  もしその時にもが。


 ─────約束を潰す一端になっていたとしたら。


 「ピッコロさん、まさか、さんかいめ、って」
 信じたくなくて、酷くたどたどしく、ゆっくりと。最後の言葉を濁して、どうか答えをくれるなと緩慢に目を合わす。頬からこめかみまで引き攣らせた問いの 真意は伝わったようで、ピッコロは申し訳なさそうに空を仰ぐ。
 なんてことを。
思 わず激昂したに、 きっと罪はないだろう。





 「あんた、何てことしてくれたんだ!よりにもよって私を巻き込むなんて!」
 「し、仕方がないだろう!時計なんてモノは持っていない!」
 「約束取り付けてんなら持てよ妙な無精者ッ!つうか反省しろ!三回だぞ三回、三歩歩きゃあ忘れるニワトリと一緒だろうがそれじゃあ!」
 「に、ニワトリだと?貴様言うに事欠いて鳥類と俺様を同一に見るなど、本気で死にたいのか!?」
 「うっせえテメェが死ね!ああ悪かったね毛なんかないんだから鶏冠なんて生えないかッ!」
 「ナメック星人をなめるなよ!?」
 「貶してんのはアンタだけだハゲ!光合成でもして仕事量の足りない脳味噌に栄養行き渡らせてやりな───ゴメンネ脳味噌なんてなかったんだっけッ!!」





 普段の中途半端に無礼であろうとも一応の敬語は何処へやら。
  一切の遠慮を取り除いたの 口はおそらくこの世界の誰よりも悪い。仮にも僅かに反省状態にあるピッコロ(それでも本当に僅か)に対しての配慮も持つ 気 がないその罵声に、ピッコロは一瞬呆然とした後、だがしかし勢いよく怒鳴り返した。子供のように低俗な言い争い。の 優位は誰が見ても明らかだ。
 ・・・すぐにそんな場合ではないことを思い出すのだが。

 「・・・・・・・・・・ピッコロ、さん?」
 「!?」
  ゾワリとした感覚をより多く感じたのは理不尽にもの 方だった。
 構えをつくりつつバッと振り向けば、怒りを噛み殺し震える悟飯の姿。泣きそうに寄った眉と口元に浮かぶ微笑が感情のアンバランスを気付かせて、怖い。 こっちが泣きたいよ。言えなかったのは彼の両手の光が示す行動を予知した為だ。
 「ピッコロさんの・・・ピッコロさんの・・・ッ」
 両の手は右腰に。足をしっかと踏ん張って、上半身を捻り、気を高める。そんな構えに見覚えがあった。昔、得意げに話していたのを聞いて実践して貰った、 アレだ。



 かめはめ波。



 「うわ馬鹿、ちょ」
 「ピッコロさんのばか─────ッ!!」



 ギュオゥ、と。
 反射的に横に跳んだ、その耳元を掠めた高エネルギー体が空気を巻き込む音に心臓が大きく動揺を示す。握り潰される錯覚。キュウと締め付けられた命が、瞬 間、裂けた服の生涯を弔った。
 思い出を走馬灯ビジョンで見た気がする。それ程までに恐怖は鮮烈だ。

 へたり込んだ隣の大地に深い濠が出来ていた。勿論水は湛えていないのだが。それを見て、なるほど確かに子供の癇癪とは恐ろしい、そう思った。思考が纏ま らず、頭が動いていないのは言うまでもない。
 「こ、こええ・・・」
  全力かめはめ波の反動で超化が解けた悟飯の目に、涙が溜まっているのをようやっと感知してもう一度思う。こっちが泣きたいよ。実際、流れはしないがの 目は潤んでいたことだろう。
 腰が抜けて、もう暫くは立てない。歯はカチカチと不快な音を奏でている。上体を支える両腕も、震え、崩れそうだ。

 
 (ピッコロさんは・・・)
  無意識に目が探していた。そういえばかめはめ波はの 一直線上にいたピッコロにも当たる位置を通ったような気がする。・・・否、ピッコロの直線状に神 楽がいた、のが正解だろうか。
 つまりは。
 (とばっちりだ、クソッタレ!)
 我ながら今は外に出していないが口の悪いものだと思う。思うだけだ。どうせ直りはしないし直す気も起きない。そんなことはどうでもいい。


 「僕とのことは遊びだったんですね───ッ!?」
 聞きようによってはおぞましい言葉を捨て台詞に、悟飯はワッと飛び立った。 超化はしないままなのに来るときよりも早い帰還。そんなにショックな事か? 呆然とした口中で音を紡いでも、見えなくなった背中に届くはずもない。







 「・・・・・・」
  息も絶え絶えなピッコロの姿を遥か後方の岩壁に発見し、それでも動く気は皆無のままは 熱い地面に四肢を預けた。あれじゃ死なんだろうと考えた・・・ わけではない。死ぬなら死ねはこっちのセリフだ。
 面倒なことに巻き込んでくれた、嬉しくない結果を考えて息を止め、苦しくなってから全てを吐き出す。フォローはどうせ自分がしに行くのだ。決まってる。 ピッコロは何だかんだ理由をつけて行かないだろう。大体、あれだけの力をまともに食らっているあの身では、恐らく暫しは動けまい。





 「・・・いっそ私を気絶させてくれ・・・」
 燦々と照りつける凶悪な太陽光の下。
  遠い目で呟かれたの 切実な言葉は、青い空にゆったりと溶け消えた。




 初・悟飯ちゃん。思った以上に長くなって何だか微妙です
 ギャグの書き方なんて忘れちゃったよう
 書きたかったのは、岩壁に埋まるピッコロさん(悪魔か)



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