今のこれが
 平和といえる日々で





dizzy番外編
ACCOMMODATING AND






 雨が降っている。

 気付いたのは掛け布団からはみ出した足が、予想以上に冷たく凍えていたせいだ。
 「う〜ぅ・・・」
 僅かに乱れた布団としっかと引き寄せる。頭まで被ると、少しだけ聞こえていた煩い水音も掻き消えた。雨は嫌いでもないが、今はそれより眠っていたい。
 ブルマもベジータも今日はいないのだ。ゆっくりと寝ていられるのだ。昨日夜まで修行と称して痛めつけられた身体を、思う存分休ませられるのだ。
 「・・・むぅ・・・」
 寝返りを打って枕に頭を落ち着けた。段々と意識が遠のいていく。
 心地良い、ゆったりとしたこの瞬間が堪らない。

 ・・・んだけどなあ。
 「―ッ!」
 バターン、と。
 けたたましい音と多少の揺れを伴って進入を果たす、頑張って記憶を辿ると聞いたことがあったかも知れないガキの声。は 視線を向けることすらせずに、 遠ざかった眠気というパラダイスを引き寄せることに専念した。

 「なー、! 起きてるんだろ寝たフリとか無駄な抵抗やめろよ!」
 うるさい。
 再び掴みかけた眠気が、にこやかに手を振って離れていく。被った布団を更にずり上げて暗闇に引き篭もれども、悪魔祓いの聖句のように朗々と響く声は遮れ ない。
 無邪気なのがまた一段とムカつくのだが、確か知人だったような気がするお子様は、物凄い勢いでの 身体を揺すり始めた。
 「―、っ てば起きろよなあもう12時過ぎたぞ布団はがすぞいいのかなあってばーッ!」
 「・・・返事がない、ただの屍のようだ」
 「返事あるじゃん。起きろよー、雨降ってて外行けなくてつまんないんだ遊ぼうぜー」
 「・・・・・・」
 「おーい!」
 そろそろ軽い連続攻撃と共に起床しても良いかな、と思えるくらいには意識が覚醒してくる。布団に引っ掛た手を開き、薄らと目を開けた。オコチャマとは逆 を向いていた身体も、自然な動きで元にかえす。
 そっと体勢を整えて。

 「なー、 起き」
 「何人たりとも我が眠りを妨げる者は許さんパイルドライバーッ!」



 鈍い衝撃音が轟く一級住宅地に、は ようやく一日の行動を開始した。







 指に付いたジャムを舐めて、手を合わす。ご馳走様と口にするその目の前で、下着家長男───もとい、トランクスは瞳を輝かせた。
 「じゃあ、修行しよう修行!」
 「食ってすぐ動くと、腹が痛くなるんだけど」
 「そうか?」
 ああ、鋼鉄の胃袋を所有するサイヤ人には無用の心配だもんな。呟きは聞こえなかったようで、彼は早くと手招いた。
 「片付け、頼むね」
 手伝いロボットに声をかけると、承知した、とでも言うかのように身体を震わせる。炊事、掃除、洗濯。その他諸々の業務を全て(炊事以外に関して多少大雑 把な点は見られるが)こなしてくれるこのロボットを、は いたく気に入っていた。
 もし「もとの世界」に帰るのなら、餞別に頂きたいものだ。
 ポンとその鉄製の頭を叩く。嬉しそうにセンサーを上下させる様は何とも愛らしい。
 「早く!」
 「へいへい」
 子供特有のハイテンションさに苦笑する。彼は嬉しそうで結構なことだが、は 全く嬉しくない。それどころか腹八分とはいえ今から訪れる場所を考える と、食べたものが戻ってきそうだった。







 重力室。
 いかにも重々しい名前がついた───漢字的にね───その部屋は、文字通り重力に関する部屋である。
 勿論、重力加速度の計算方法だとかニュートンの歴史が展示してある訳ではない。
 一般的なサイズの体育館を半分にぶった切った程の大きさの空間は一見和まないレクリエーション室だが、その実この星のものではない高技術を用いた修行の ための空間だ。
 十数個のスイッチと何本ものレバーによって何倍にも重力を引き上げる、に とっては迷惑極まりない拷問部屋。初めてここで稽古を付けられたとき、5分 で土下座して出して貰ったことは記憶に新しい。

 (3ヶ月で慣れるモンなんだなあ・・・)
 前の世界では考えもつかない、この非常識な世界に来て4ヶ月。初めからそれなりに順応していた精神だが、まさか身体までこう変わるとは思わなかった。
 全体に筋肉量はそう変わっていないのに、その性質はケタが違う。今なら故郷の軽自動車くらい一人で持ち上げられるんじゃないだろうか。肺活量も増した し、瞬発力も当初の理想を超えた。もともとずば抜けていた反射神経などは、師匠にも匹敵するほどの発達ぶりを見せている。

 「、 何倍がいい?」
 嬉しさを抑えきれない声音で現実に引き戻された。トランクスが握っているレバーは・・・およそ5倍。彼にしてみればそれでも遠慮している方ではあるのだ ろうが、ただの人間である身には5倍でも辛い。
 「3倍。重ければ重いだけトランクスが有利だしね」
 「ちぇ、わかったよ。今日こそは勝ってやるからなッ!」
 ブォン、という羽虫の鳴らすような音と、心地良くない振動。
 一気に居心地の悪くなった空間で、は 体勢を低くして唇を湿らせた。







 トランクスと悟天には何故だか一度も負けたことがない。
 例えば一度など、ベジータとの修行で子供二人を相手にしたことがある。その時も、ギリギリではあったけれどやはり負けはしなかった。
 「勝つ」定義は、相手の首に括られた赤いリボンを奪うこと。ダウンさせるほどに力のない用 のルールであり、戦闘においての強さとはまた別物なのだけ れど、それでも。

 「ッりゃあ!」
 「あ〜まいよッ」
 経験の足りなさ故かはたまた単なる相性か。繰り出される蹴りも拳も、スピードがあるからか擦りはすれど、決して決定打とはならない。
 床を擦る皮の靴底が、キュッと鳴く。湿気のため今日は一段と滑らない。摩擦力を考えて、バランス配分と力の強さをいつもと変えないと。自然にそんな考え が出る自分がちょっと笑えた。
 舞空術の応用で地を蹴るインパクトを高め、床を蹴って大きく跳んだ。空をきった腕を見送り壁に着地する。重力は下に向かっているので維持は難しい。
 「こ、のぉッ」
 方向を転換してかかってきた少年はいつもがむしゃらに向かってきている訳でなく、ただ戦法というものを知らないだけだった。

 舞空術はよ り数段上手く操るだろう。は まだ時折木に衝突する。
 気功波など足元にも及ばない。なんといってもは 一切、気弾による攻撃を使用できないのだから。

 音を立てて耳元に穴を開けた光の帯はフェイントだ。気を逸らしてリボンを奪おうという彼なりの方法を微笑ましく思い、再び上を目指して跳躍する。天井に 足をつけ、今度は止まらず、三度、思いきり足場を蹴った。
 「いただき!」
 「げ───ッ!」
 落下による付加を得て数倍にはね上がった速度。動体視力を駆使して赤いリボンに手を伸ばし、奪う。あっさりと手に落ちた細い布切れに、は 笑顔で口付 けた。
 通算10勝目の証である。







 「また負けたーッ!」
 「だからさ、相手の動きについていったら駄目だよ」
 打ちひしがれるトランクスを蹴り倒しレバーを引き上げた。音と共に軽くなる空間。額を伝う汗ですら重いと感じた苦難がひいて、ふうと肺の空気を搾り出 す。
 「だって、上行ったら普通追うだろ」
 「追ったらアウトなんだって。そこは遠くから狙撃するくらいで留めなきゃ」
 「・・・接近戦で勝ちたい」
 「バーリデュートゥ。何でも有りスタイルの私に、そういうこと言うんだ」
 ほら立って、と手を差し出すと、キョトンと幼い瞳が丸められた。システムを解除するもう一方のの 手をしばらく追って。
 飛び起きてレバーを引き上げようとするトランクスを、腕拉ぎ十字固めに固定した。

 「もう一回!もう終わりなんてずりィッ!」
 首を絞める足にもめげず騒ぐ根性は立派だが、今は勘弁願いたい。そういう我侭は同類の、もっと持久力のある人達に回して欲しかった。
 「おばあちゃんはもう疲れたので、ご就寝するの。やるなら一人でやって」
 「誰がおばあちゃんだよ、いくつだよ!」
 「うっせえなあ。眠いのー、疲れたの。宇宙人とは違―うのー」
 粗方痛めつけたことを確かめて技を解く。入り口付近の照明スイッチに手をかけて、再度少年を外に誘う。宇宙人じゃない、と文句を言いながらも存外素直に 従ったその頭を手荒に撫でて、バチンと接触の悪いスイッチを押し込んだ。

 「明日もやろうな!」
 「明日はベジータさんのしごきが待ってるよ」
 げえ、と盛大に顔を顰めるトランクスに、は 大きく笑いを漏らした。







 さっさとシャワーを浴びて寝やすい格好に着替えたを トランクスは呼び止めた。部屋に入る寸前の、半分夢の中に沈む思考で振り返る。どこか不機嫌な表 情を見て、濡れた髪をかき乱す。じっとこちらを見るその目は、あちらの世界で隣の家のガキンチョがよく見せていた───。
 「・・・暇なら一緒に寝る?」
 「・・・!」
 喜色満面。鮮やかに笑みが広がった顔面に、爆笑の波を抑え切れなかった。
 腹を抱えて「子供だねえ」と呟いた言葉を聞いて真っ赤になったトランクスが、それでもの ベッドに寝転んで。




 数時間後、仕事から帰還した夫妻にツーショットを撮られまくり、不名誉極まりない甘えの証拠物件を残されたのは、仕方がないといえばそうなのかもしれな い。




 夢の中、雨の音が聞こえなくなったのは、そう遅くない時間だった。




一体いくつ設定のつもりで書かれたのか下着家長男
セルゲーム以降本編再開以前で設定してますので・・・5歳とかだと児童虐待・・・
悟天なんか3歳。そりゃ勝つよって
・・・7歳くらいな感じでお願いします・・・

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