心まで凍りつくような痛い程の寒気
今は、そう、冬である
dizzy番外編
それこそが、また理不尽な
「・・・さっむいです」
「我慢しろ」
零れ出た言葉は心からの思いである。は白い息を煩げに払い、震えながら己の身を抱き締めた。
雪の吹き荒ぶ荒野。薄いながらも白い絨毯を敷き詰められた地面。それを踏み締めるブーツに包まれた足先は、感覚が無いくらいに冷え切っている。伸びた足 にも体温は残っていない。二の腕にかかる指先に力が入るわけもなく、しっとりと濡れた服に添えられるだけで終わっていた。
暖かかったコートも剥ぎ取られた後である。
この、目の前で腕を外気に晒しつつ平然と立つ宇宙人に。
一応戦いにおいての師である、ピッコロに!
「死にます」
「春が来る頃には氷付けのオブジェが出来上がるな」
「・・・・・・我慢します」
厚地のパーカーが風にはためき、雪解け水を程よく吸い込む。心臓が痛くなる恐ろしい寒さに、一体いつまで生きていられるのだろう。暗い思考に陥りなが ら、濡れて張り付いた黒髪をかき上げた。
「今日、日曜日で、修行お休みの筈なんですけど」
憮然と唇を尖らせ、いきなりダイビングニードロップを叩き込まれた、健やかな本日の朝を思い出す。
日曜だから、休日だからと堂々12時までの就寝を目指していたを襲ったプロレス技。思わず食らったと同時にエクトプラズマが飛び出そうになった。そ のまま片エビ固めに入られた。ついつい白目を剥いて失神しかけていた。
さっさと着替えろという理不尽な指令に反抗しつつ従い、連れてこられたのはいつもの修行場・・・よりかなり北である。クソ寒い。いつもの場所なら、まだ 暖かかったものを。
何がしたいのか。それぐらいは聞かせて貰わなければ納得行こう筈もない。
「ふん、休みなど取るような腑抜けたペースでは先が思いやられるのでな」
「・・・本音は」
ピッコロはゆっくりとジェスチャー付きで頭を振った。偏見で例えるならば、アメリカ人が人を小馬鹿にするときの、「ニッホンゴワッカリマセ〜ン」であ る。むかつく。
飛び出しそうになるロケットパンチを堪え、はギッと彼を睨み付けた。
堪えて、堪えて、堪えて。
「あえて言うなら、悟飯に怒られたウサ晴らしだ!」
「星へ帰れ─────ッ!!」
堪えた数秒の甲斐もなく、渾身の力を込めた会心の一撃がピッコロにめり込んだのは言うまでもない。
どんよりと暗雲たちこめる空を見上げる。雪は止みそうにない。
「・・・むしろ私が帰っていいですか」
「バカな。修行に来たのだろうが」
「ウサ晴らしなんぞに付き合ってられっか!」
なんとなくヘっこんだ顔を気にしつつ、踵を返すの肩をわっしと掴むナメック人。引っ張っても痛いだけで外れない。そんなことは承知の上だったが、抵 抗せずにはいられなかった。
「気ィ立ってるとアンタ急所狙いでくるもん」
「避ければ良いだろうが」
あっさりと言ってくれるものだが、それこそ無理なのがわかっていないのだろうか。程度の実力に避けられたりしたらプライドも粉々だろうに。
コメカミを人差し指で押す。頭が痛いのはきっと気のせいではないだろう。
振り返って、ひとつだけ約束させた。
「手加減忘れたら、デンデに言いつけます」
殺すような攻撃は絶対にしません、と血判状まで書かせて。
「善処する」
・・・なんで悪徳政治家の決意みたいに曖昧な返答しか出来ないんだろ。
赤い閃光が降り注ぐ。
光線の大部分に攻撃判定はないが、その芯に伝うエネルギーはいとも簡単に人の身を焼き尽くす。サイヤ人なら判定を見極めて避けられるところでも、一介の 地球人であるには到底避けられやしない。見えた瞬間にはもう当たっているのがオチである。
従来の勘の良さを限界まで生かして、適当にステップを踏む。
身を掠める数条の光に血を飛ばしながら、は上体を屈めて小石を握った。左右両手にひとつずつ。激しい運動にじっとりと汗をかいた手の平、冷たい石が 心地良かった。
「ッうわ!」
目にも留まらぬ速さで───それでも何とか残像らしき影が認識出来たのは、この馬鹿げた修行のおかげか───目の前に出現した彼に、反射的にそのまま拳 を繰り出す。高い音を立てて受け止めた大きな手が、を固定しようと関節を曲げた。慌てて引いて、追撃する手をバックステップで振り切る。
ニヤリと余裕の表情を崩さないその心意気が頭にきた。
マントがたなびき、その足が地を離れる。
(空中戦は得意じゃないんだけど)
雪に滑る大地をしっかりと踏み締めて足に気を集中させた。右へ、左へ、出来るだけ均等に振り分ける。まだ瞬時には行えないが、目を閉じなければ気を動か せなかったときに比べれば、随分と上達したものだと思う。
(・・・うっし)
丹田に力を込める。途端大きく気がうねり、を中心に気が膨れ上がった。
再び降り注ぎだした光に頬を裂かれる。ドンと強く踏み切った後ろ足にも肉が焼かれる感覚を覚えた。肩を擦り、髪を焦がす。凶悪な攻撃を、敢えて無視して 空を駆ける。
痛いことは痛いのだが、別にケガを正確に把握する必要はないと思う。ただ、正常に、思ったとおりに身体が動きさえすれば、全くもって構わない。
小石を手中から指先へ移す。親指と人差し指で挟み、中指をそっと添える。
適用ルールにより、どこかに一撃ヒットを入れられれば、こちらの勝ちだ。
「───ッせぁ!」
ピッコロを迂回する形で更に上昇、高所へと身体を運び、止んだ閃光に応えるように急停止。身を捻り、遠心力をかけ、手首をスナップさせて左手の指の力を 抜く。開放された小石が猛スピードで敵を目指した。
「当たってもどうということもない・・・わかっているのか!」
「ってますよッ」
空間を蹴る。宙で固定された気の足場を、天を向いた硬いブーツの裏に感じた。落下に加速を付け、再び身を捻る。押し出すように投げ出した右手の小石が、 の手から放たれる。
「でも、当たって困る場所もあるでしょう!?」
先程よりも強く押し出された石が、前の御身に追い付いた。明らかな速度差。そう大した強度を持たないが故、ぶつかり、擦れ・・・弾ける!
「なに・・・ぐあ!?」
ばらばらに散った欠片たちが、眼下に一斉に降り注ぐ。勿論、標的はピッコロだ。細かなそれは風に流され、飛び来る予測がつかなかった。
油断から目を直撃した数個の粒子。如何なる生物であれど、目は共通の弱点であり、急所である。攻撃力を持たないが狙うのは当たり前。自分が無駄な攻 撃を命懸けで仕掛けるようなタマに見えるか!
(いただきッ!)
体勢を整えて足を曲げる。舞空術を酷使して、スピードを上げた。
距離が詰まる───そして
「・・・そりゃ、気ィ探れるんだから、舞空術使えば居場所丸わかりだよなあ・・・そうか、解除すんのが正解か」
自分が気なんてよくわかんないから忘れてた。
雪に埋もれて冷えた身体を擦り、鼻を啜り。は憮然と口を尖らせる。
結局当たる寸前で足を掴まれて、投げ落とされたのだ。一応咄嗟に舞空術を展開させられたのだけれど、勢いを殺しきれず叩きつけられた全身が痛い。
「ツメが甘いな・・・だがまあ、よくやった方だ」
「それじゃ普段がよっぽど悪いみたいじゃないですか」
腰を下ろしていたままなので、尻が段々濡れてきていた。不快感に眉を寄せて立ち上がる。見れば、ピッコロのターバン、マント、肩パット。それらも全てが ビショビショだ。
「・・・帰って良いですか」
露出した腕に目を走らせて、心底身震いが来た。視界までもが異常に寒い。寒くて良いことなんて、血の流れる箇所全ての痛覚が麻痺して、痛みを感じないこ とぐらいだ。岩場に掛けられたコートを拾い上げ、羽織った───瞬間すぐに脱ぎ落とす。
「どうした」
「冷たい!」
考えてみればわかることだが、雪の中影にもならない場所に放置していた黒い皮のコートは・・・当然びしょ濡れだった。その上恐ろしく冷たい。
「ちくしょう、踏まれたり蹴られたりだっつの・・・泣きっ面に往復ビンタッ!」
「言葉が違うようだが。お前の世界ではそう言うのか」
「ちげぇよッ!!」
倒れそうなくらい疲れてくる。体力と言うか、精神的に。大体どうして自分がこんな痴話喧嘩に巻き込まれにゃならんのだ。
がっくりと肩を落として、はまだ暖かい息を惜しみなく吐き出した。
しかし、二度ある不幸は三度ある。
「・・・コ・・・さーん・・・」
「・・・む?」
聞き覚えのありまくる声が吹雪を押し退け、耳に届く。ピッコロは顔を上げ、は顔を背けた。
(ヤメテお願いせめて私が帰ってから改めて出直して)
「ピッコロさーん、こんなところにいたんですか!」
満を持して現れたのは、想像に難い人がいたら是非ともお目にかかってその思考回路を伝授していただきたい、兄弟子。悟飯だった。クラリと脳にノイズが走 る。優雅に降り立った悟飯の目に、今、が入っていないことは明白であったが、そこはかとなくありがたい。
狼狽したピッコロの顔も、見てはいないが想像が付く。怒っていたのに何故ここに。どうせそんなことを考えていたりするんだろう。
「ピッコロさん、僕、あんなことで怒ったりして大人気なかったですね、スイマセン」
「い、いや」
「一緒に帰りましょう?手合わせして下さいよ」
お前の家は神殿じゃない、悟飯!
フラフラと二人から離れ、はコートを叩き水分を出来るだけ落としにかかった。わかっている。これが逃避行動だなんてことは。
まるで悲しみに逃亡した恋人を迎える彼氏のような口調にサブイボを禁じえない自分はおかしいのだろうか。この現場で逃避することを責める非人間などどこ にもいない筈だ。
このまま帰ろうと心に決めた。
瞬間、悟飯がタイミング悪く振り向く。ニッコリと笑って手を振る。地に足をついてはいないのは、なんとなくをほっとさせた。
「じゃあ、さん、また今度」
「さっさと帰れ」
ニコリともせず真顔で返す。気力もないのだこちらには。瞬きをする僅かな時の間にそのケッタイなナメクジを連れて退散してくれと頼み込みたいくらい、疲 れていて。
光を残してその姿が見えなくなったとき、ぐったりと雪の中に倒れこんだ。赤い飛沫が視界に入る。そうだ、カリン様に仙豆貰いに行かないと。
おまえらどこのカップルだ。
情けなく流れた一筋の涙は、深々と降る雪の中で凍りついた。
ああ、何て理不尽な───
主に悟飯とピッコロが面倒かけてますよという話
ここまでアレだと可哀相通り越して笑ってやって下さい
戦闘が練習で書きたかっただけなので、内容は無視で(ああぁぁ)
いたってノーマル思考です
SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||