ありえないばしょがみえる
眼鏡作るべきかなあ、なんて呟いた私の目の前で
男は、はははオメェおもしれえ奴だなあ、なんてほざきやがった
dizzy番外編
想 像は所詮創造
愕然と崩れ落ち地面に手をつく、そこはひっそりとした泉の畔。
人間が立ち入ることはないのであろう。動物達の憩いの場である(と思われる)美しい場を見付けたのは昨日の修行の帰りだった。
水自体は完全に透明無色、無味無臭───気を付けて口に含めば仄かに甘い気もする───の、大腸菌ってなあに?という澄んだもの。散々しごかれた後の身 体に染み渡った清涼感は今もあざあざと思い出せる。
なのに今日。
暇だったのでここに来て。
・・・泉一面に広がる光景にその口では言い表せない何というか敗北感と脱力感と。
・・・・・・・・・・崩壊した想像と。
「おおい、大丈夫かあ?」
いや、それは単に私が悪いのだ。勝手に像を作っていたのはこっちだと知っていた筈だし、そもそもその血筋を見ればこういう結果は予測出来た筈。
強い、優しい、太陽みたいな、変、抜けてる、ETC。
前半と後半のギャップを捏ね繰りあわせて作り上げたその人物の想像を、勝手に思い込んでいた、私が。
「おーい」
変というのがネックだったのだろう。悟飯の性格を想定した上でレベルを決めたのに、その更に上を行っているとはまさかまさか。
というかこの世界全体の認識が甘いのだ、きっと。犬が喋って人が飛んで手から何か出して巨石を粉砕して材質なんだよ倒れるだろ普通と疑いを持たないヤツ がおかしいような仙人の佇まいがあって更にその上に神様が腰を落ち着けていて師匠はもと神様と合体したりして目からビーム出して触角あってターバン重いし マントも重いし。
・・・まだ足りないのか、この上、私の認識。
ゴッと青草が豊かに茂る地面に拳を振り下ろす。それなりに(変なふうに)力のついた私の一撃は衝撃で泉にも波紋を残すが、それでも。
「あ、何やってんだオメェ、大丈夫か」
この虚像は消えやしない。
舞空術で文字通り空を舞い泉を上から見下ろすと、今水面を彩るのは空の青、私の姿ではなく、芝を敷き詰められた小さな球体である。
ぐるっと一周線を引くアスファルトの道路と、アングル的に屋根辺りだけ見える、一人が住まうには丁度良いくらいの大きさの家。球体の背景は雲だろうか。 陰影のある白さはどこか作り物めいても見えた。
そんでもって───アップで映る一人の男。
何科に属するナマモノ様ですか、と慇懃無礼なセリフを吐いてしまったこの混乱を、誰かわかって頂きたいものだ。
「そっかあ、ってのか。よろしくな!」
「はあ、どうも」
孫、悟空と名乗った。嘘をつくタイプには見えなかったし、大体その名前を偽名として得られるメリットは思い浮かばなかったので、実際彼は孫悟空なのだろ う。
こちらでは泉をスクリーンとして画像が見えているが、向こうでは悟空が言うに、「丸い平画面が空にぽっかり浮かんでいる」んだそうで、非常に興味をそそ られるものなんだそうだ。
私がここに来たとき、彼はこちらに向かって必死に「かめはめ波」を打ち込んでいらっしゃった。その攻撃的な光は、私の冷や汗を蒸発させた。
呆然と見守る私の前で更に興味は発展したらしく、続いて「元気玉」を煌々と掲げて。その爆発的な気は、私の足を盛大に攣らせてくれた。凄い痛かった。
・・・ああそうか、このとき見ないフリして帰ればよかったんだ。
今更名案に辿り着いても空しいだけである。
「・・・悟空さん、ですか・・・」
「おう。どうしたんだ?」
「・・・・・・・・・・や、かねてからの自分の馬鹿さにほとほと呆れているとでも申しましょうか・・・」
少なからず、彼は私の中で「格好良い」対象として保存されていた。武勇伝を聞き、評判を耳に入れ、容姿もまあ整ってたわよね、なんて言われ。
実のところ、結構嫌いだな、と思った面も大きかったのだけれどそれはまた置いといて。
・・・蓋を開ければ、このアホ面を見よ!って感じだ。
「まあ、こんなもんですよねえ、人生って」
「何言ってんだ、わっかんねえぞ」
「あんまり気にしないでいいです」
とりあえず、自分がピッコロやら悟飯やら、とにかくその辺の生物と知り合いだとは口にしないことに決めて───勿論、深く係わり合いになりたくないから に決まっている───首を傾げてカラカラと笑う悟空をじっと見つめる。
端整というか、むしろ精悍というべきか。どこか幼さの漂う彼に向けて、私は嘆息した。
彼に会ったことが悟飯にでも知れたら、私、どうなるんだろう。
「で、コレ、一体どういう事態なんですか?」
わっかんねえ!と自慢げに笑う虚像に、私は覚えたてのレイガン(某有名少年漫画帰属)を力一杯打ち込んだ。
一時間程、他愛の無い雑談で時間を潰した。
「あ、良かった。すぐ直るんですか」
「・・・、嬉しそうだなあ」
「そりゃあもう。一刻も早く、頑張って修復して下さいね、界王さま」
単なる空間の歪みだと説明を受ける。
それは単なると称されるべきものなのかと思いはしたが、この世界にも通用するお偉いさんが言うのだから、きっとどうということもない出来事なのだろう。 界王というでっぷりした顔色の悪いおっちゃんに笑い返した私の顔は、安堵に満ち満ちている筈だ。
悟空は良いヤツだ。だからイメージぶっ壊しの問題は微々たるもので。しかし悟飯云々の問題もある。が、それだけではないこの清々しさは何だ。
きっと。
雑談の中端々に見える悟りにも似たものに。
彼のことを、心から好きになれないせいだと思う。
一瞬翳った私に彼が声をかける。だいじょうぶか。心配性だなあと返すと笑う、顔は、本当に太陽のようだった。
「オラ、界王様以外と会うの久しぶりだったんだ。楽しかったぞ!」
「・・・ワシといるのはつまらん、と聞こえるんだがな」
「だって、つまんねえ冗談ばっか言うからさあ」
軽快に大口で笑う悟空に、界王が殴りかかっていた。あんなみてくれでも強いらしく、次々にレンガを猛スピードでぶつける界王は楽しそうだ。サングラスの 下ではきっと、瞳が輝いていることだろう。
「じゃあ・・・また、会えたらいいですねとか口にしつつも心の中で何思ってるかわからない笑顔で、サヨウナラ」
「おう、またな!」
ありえないものにあえた
眼鏡作るべきかなあ、なんて呟いた私の目の前で
男は、はははオメェおもしれえ奴だなあ、なんてほざきやがった
想像は所詮創造で
思っていたよりずっと良い人だけれど
想像は、所詮、創造で
「また・・・会いたいかなあ?微妙だなあ・・・」
想像どおりならきっと、また会いたいなんて欠片も思わなかった
迷うなんてありえなかったろう
水の中からだと、あちらはどう見えたのか。
目下の家に帰ってから、潜ってみなかったことへの後悔に身悶える私がいた。
悟空さんお目見え編
ギャグではないでしょうねえ、コレ。最初はギャグ書く気だったのに、なんだかノリが悪くって
うちのコは悟空さん微妙に嫌い。その内、そっちのシリアス書くやもしれません
・・・やっぱ漫画買うべかなあ
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