まだまだ平和に人間で
 一先ず決意はしときましょう





Dizzy修行編
時間目:基本





 一応、ということでベジータの修行用タンクトップをこっそり拝借し、更にズボンも頂戴し、動きやすいよう着替えてみた。身長はそんなに変わらないが(ど れだけどうだとかは言わない。命が惜しいから)、やはり男と女という性質上、ピッタリとは言えない。
 今思うと相当な冒険をした自分に拍手を送りたくなる。いや、借りたら?とか色々手引きしてくれたのは言うまでもなくブルマだけれど、実際取ってきたのは 私なので。
 吹き荒ぶ風に乗せ、ゴメンなさいと一言呟いた。届いたら届いたで怖い。ちなみにもし届いたら、返答は考えるまでもなく天国か地獄のどちらかへランダムに 永 久招待してくれる片道チケットだろう。

 「何をブツブツと呟いている。気がふれたか」
 「何でそうイチャモン付けたがるんだ」
 視界一面に映るのは多分に緑を含んだ広野、そして其処彼処に点在するロッククライミング技術必須の山。滅茶苦茶な地形に呆れた視線を送る私の髪は、風通 りの良さに放題に舞い踊る。
 都から飛ぶこと10分、抱えられてきた腰が痛いことは置いておいて、一体ここは何処いった場所なのだろう。これだけ自然の状態であるにも係わらず生き物 の姿はさっぱり見当たらない。

 「あー、んんで、ここで何するんですか?暴れないとか言ってこんなトコまで出てきて」
 澄んだ空気を深く肺に入れ目を細めた。春の日差しのくせ、やけに光が強い。今日だけでも元々白くない肌が色を増しそうだ、と暢気に思う。
 「まずは扱う『気』で何が出来るのかを見せる」
 はためくマントの白に、一瞬キョトリと瞬いた。
 「何が・・・って。空飛びたいだけなんで、基本とそれだけ教えて貰えれば」
 「それでは詰まらん」
 「つま・・・」
 詰まらんって。
 思わず咽喉を引き攣らせる。フン、と鼻を鳴らすその姿に瞠目し、強い後悔を感じた。

 ─────何かあるのかな、と。思わなかったと言えば嘘になる。
 空を飛びたい。私のそんな希望をあっさり受け入れたピッコロの心理を考えて、何故教える気になったのか、幾らかのパターンくらいは考えた。例えば、奇跡 よりなお奇跡的にふと湧いて出た親切心だとか、いきなり異世界に来てしまった私に対する、混沌から調合されたミクロン単位の同情心とか。否、ない。自ら否 定するのもマッハだった考え達。
 そして最後に残った単純なパターンは。
 (考えたけど、考えたけどさ!)
 揺れた頭を片手で押さえ、頭痛を堪え、放す。

 「やっぱり暇潰しかよ!?」
 半ば涙目に叫んだ私を、理不尽にもピッコロは胡散臭げに見下ろした。胡散臭いのはオマエの容姿だ、とは胸に止めて置く。
 「当たり前だ。何だと思っていたんだお前は」
 「・・・想像の通りだから嫌がってんですよ・・・」
 始まる前から気力を根こそぎ奪い取られた私の未来は・・・多分暗い。
 ぐったりとヤンキー座りにしゃがみ込む、その脳天に送られた視線の疑問には答えたくなかった。 








 「気の扱いは言葉にすれば単純だ。ただ、どうしたいかを強く思い、使い道に対し性質と量をコントロールすればいい。出来ることと出来ないことは明確に分 かれるがな。・・・大まかに言えばこんなものだ。何かわからんことはあるか」

 調度良い具合に出っ張った岩肌に腰掛け、意外にも普通の授業のように進む説明を心に留める。
 気とは、纏めてみれば結局は、身体を動かす為に使用するエネルギー。植物なら太陽光によって、動物なら動植物を摂取して得られる、あのエネルギーの一部 を指すらしかった。
 そんなものを「扱う」という視点は今一つピンと来ない。身体を動かす。見る、聞く、喋る。そんな単純に思える行為へのエネルギーは、全て脳が勝手に分配 してくれる。目の前で手を開閉させる。これも謂わば力、エネルギーの調節だ。
 それを・・・力を籠める時よりももっと高位の段階で自ら調節する術を得る、ということで良いのだろうか。

 眉間に寄った皺を解きほぐし、頬を掻いた。
 「せんせーえ、質問」
 ひらりと右手を顔の横で力なく振ると、視線で先を促される。
 「具体的に、コントロールって?『単純』に『どうしたいかを強く思う』ので空飛べたりするんなら、この世の一割くらいはぶんぶか飛び回っててもおかしく ないですよね。話ぶりから考えるに、飛べる人間って少ないみたいだし。その説明だとまるで」
 魔法みたいだ。
 言いかけて口を噤む。同じようなものかもしれないと思った、呼び名が異なるだけで。
 数秒口籠り、それと、と続ける。
 「出来ることと出来ないこと、ってのは?」
 「・・・前半は答え難い。口で説明出来る感覚ではなく・・・強いて言うならこうなる、というまでだ。そして」

 長い腕がこちらを捕らえる。正確には私の頭上、そしてそれを越えた遠くを指差した。
 引き締まった腕が、刹那脈動し。
 (なに)
 疑問に思う間もなく。
 真正面からの強大なプレッシャー。続く衝撃、髪を広げる波動。耳が痛くなる、音のない音。それらの全てが私を襲い、包む。
 身体中を支配した死への恐怖心が飽和、息を詰め目を見張った、その時にはすでに。

 ─────ォォン。

 強烈な破砕音は遥か後方から聞こえてきた。広がった髪が、後方からの風に顔面を叩く。は、と吐き出した息は滑稽に口中に凝って。
 「攻撃と、限られた行動への補助。それが出来ることだ」
 緩慢に振り返ったそこは、緑の一切が吹き飛ばされ大地が大きく抉られた、無残な光景が広がっていた。認知して漸く冷や汗が滂沱と流れる。
 「こ、れも、覚えさせらる、の?」
 頬が引き攣って、思わず笑いを模っていた。あり得ないからあり得ないから絶対無理だから。
 三度目だ。ベジータに向けられたものと、トランクスが発動したものと、併せて三度。その中では恐らく最小の力で放出された『破壊の塊』にですらこんなに も戦慄する。
 人を軽く100人くらいは虐殺出来るだろう能力を。
 覚えるって。
 「強くもなるよ、違う意味で・・・」
 幼子のような仕種で肯いた宇宙人に絶望を覚え、頭を抱えた。あり得ないから、と再度呟く。
 忍耐、は、異常な程に鍛えられるだろう。人を殺せる、存在を蒸発させられるような強力な能力を持つというのはそういうことだ。

 人を殺さない。それは人生の最低ラインの鉄則だ。最低な話、殺したいと真剣に思っても、常であれば人を殺すということは証拠を残すので歯止めがかかる。 そのストッパーが解除される。それは恐ろしく、また危険極まりないことで。
 いつでも人を、殺せる力。
 ラインを保つ為にかかる心的負担は一体どれだけの───ああ。
 ふと、顔を上げ、じっと破壊者を見詰める。複雑そうな顔をしていただろう、自分は。私の不可思議な行動に顔を顰める、彼は、彼等は。
 (この人達は)
 そのラインを。

 「あー、くそ」
 「どうした」
 「なんでも!」
 諦めよう、その位のリスクは我慢しよう。自分に深く言い聞かせて腰を上げた。生憎と殺したい人間はいないし、きっと大丈夫・・・と思っておかないとやっ てられない。
 「・・・ん、わっかりました。それはまあ追々ということで、まずは基本、教えて下さい」
 「・・・?ああ」
 首を傾げるピッコロに苦笑し、空を見上げる。

 (関係ないし、見境ないとは思えないし)

 「うっし、やるぞー!」
 大きく吼えた気合は、人のいない広野に強く潔く響き渡った。


 強くなりたい第一歩。



ア レ、何で後半シリアスに。おっかしいなあ
いえスイマセン。実は気のコントロールとかって書くことないよなとか気付いちゃったので方向転換した結果です
書いてて思い出したんですけど、DBの登場人物ってかなり人殺してますよね
P氏は言うまでもないんですが、皆あんな街中で戦ってて、被害が出ない筈が・・・
色々と中途半端にぶった切ったのはわざとです(ご想像にお任せ)(駄目)


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