今日も今日とて飛ばされる
 ・・・だからさ、それは元々頼んでないってば。





Dizzy修行編
時間目:応用編/防 御





 「おああああああああああああああああ!?」

 迫る地面に悲鳴を上げる。慌てて気を集中し、何とか扱えるようになってきた舞空術を展開。重力に逆らう意思を強く持てば、身体は不自然な法則で空中にて 急 ブレーキをかけた。
 衝突まで1メートルというところで止まった身体に心底から安堵する。はー、と深い溜息をついて着地し、涙目に上空を睨み付けた。
 正確にはそこに偉そうに佇む師匠の姿を。
 「いきなり何すんだー!」
 魂からの叫びは、何やらやたらとムカつくアメリカンジェスチャー───いわゆる「ワタシニホンゴワッカリマスェーン」ジェスチャー───によってあっさ り 受け流された。おまけに鼻で笑われた。いつかも自分がそんな表現をつかったデジャビュを感じながら思う。殺したい。

 「あまりに上達せんから、荒療治を加えてやっただけだろうが」
 「やっただけ?弟子殺しかけといて、やった“だけ”!?」
 「死んでなければいいだろう」
 憤然とする姿を見下しながらピッコロが地上に降り立つ。着地の軽い衝撃で触角が上下に揺れた。慌てて文句の続きを綴ろうとした口を紡ぐ。だって笑いそう に なったから。
 口を押さえた私にチラリと視線をやって、ピッコロは不自然に黙り込んだ。
 今更気付いたのだが今日は何だかやたら不機嫌。いつも不機嫌そうっちゃあ不機嫌そうなんだけれども、それとはどことなく違うような。

 数秒の間。普段とは違う空気に思わず神妙になる。手を下ろし、恐る恐る呼びかけ・・・ようとした言葉は先を越されてかき消された。
 「・・・いい加減、俺も苛立ってきているんだ」
 低い、溜息交じりの声を受けて身体の芯が冷え切ったような気がした。顔を覗き込もうとしたままの体勢で一瞬確かに硬直し、ブリキ人形のように鈍く身を引 く。
 殺しきれない僅かな苛立ちを湛えた黒い瞳に射抜かれた。
 「気は感じられる。舞空術はほぼ完璧に扱えるようになった。力を一点に集中することも出来る」
 「・・・はあ」
 抑えた怒りが逆に怖い。噴火前の活火山を連想させる師の様子に、第六感が早く逃げろと告げているが、しかし存在しない第七感は逃げたら殺されるぞと明確 に 忠告を発していた。どっちもどっちで当たってると思うので、多分逃げない方が身のためだろう。
 「なのにだな」
 「は、はひ!」
 唐突に両肩をホールドされて身を竦ませた。条件反射でアッパーカットを食らわしそうになるのをすんでのところで耐える。
 目前に迫った葉緑素たっぷりの顔面に、引き攣った口元だけでなく涙目までもが復活しそうだった。

 「なぜキサマはいまだに気功弾の一つも撃てんのだッ!」
 ごめんなさい。
 上っ面だけの謝罪すらも許されない速度で前後に揺さぶられ、脳裏に広がる綺麗な川の向こうに死んだ金魚の幻をただ白目を剥いて追いかけた。 








 気持ちはわからんでもない。
 私がこちらに来て早ええーっと多分4ヶ月くらいの月日が流れているというのに、未だどうしても気を攻撃属性に変換出来ていないこの現状。ベジータからも 散 々罵られているが、ここまで出来ないともう一生出来ないんじゃないかと思う。舞空術が1ヶ月ほどで結構な速度を出せるようになったことを考えると、教える 側からしてみれば私が手を抜いているようにしか見えないだろう。
 ならまあ、いきなり空中に連れてかれて殴りかかられてよくわかんなかったけど色々あって地面に叩き付けられそうになったのも頷け───ない。こればっか り は頷きません。

 無事に某有名な川から金魚の説得により奇跡の生還を果たし息を整える私を尻目に、ピッコロは何かに気付いたようにふと考えるような仕草を見せた。遠くを 見 遣った後、視線を私に。そしてしばしの硬直時間。際限ない嫌な予感に震える。

 「な、なんですか。心からピッコロさん殺したいなと思わせれば出せるかも、とかいう考えなら無駄ですからね。だってもう殺したいなと思ってるし」
 「ほう」
 「あ、いや、勿論ウソですけどね」
 更に半歩退いて虚勢を張る私に、ジリリと近づく恐怖の骨頂。野生動物にあんまり脅えた姿勢を見せると余計に襲われるとかいう話を聞いたことがあるのを思 い 出す。背中を見せてはいけないということは、イコール逃げてはいけない・・・のだと連鎖したのがいけなかった。
 後退るのを止めたその肩に優しく置かれた手にデジャビュ。

 「違う修行に変更する」
 さらりと言われた言葉が右耳から左耳へと流れ出るのを、引き攣り笑いを浮かべながらもどうにか阻止する。
 アタック修行から変更?
 額に滲む汗がいっそコミカルに場を演出し、流れる。脳裏でベタな時間経過効果音がチッチッチと。眼前の生物は無表情のまま動かない。
 やがて結論に辿り着いた脳は、同時に不穏な気配も敏感に察知した。 

 ───右肩一点に、強い気の集中を。

 「─────ッ!?」
 ざわりと靡いた己の黒髪をそのまま振り乱し、握られた肩の肉がいっそ千切れても構わないと我武者羅に離脱。息を呑んで思い切り後ろに跳んだ、その直後。
 殺傷能力に富んだ閃光が目を焼いた。
 腕を顔の前で交差して熱を避ける。チリリと腕の産毛が焦げた気がした。地面を一転がりして体勢を整える。ふら付いた足は、そのまま崩れ落ちそうにガクガ ク と震えていた。

 「お・・・」
 文句を言おうにも歯の根が噛み合わない。いや、むしろ文句を言おうという考えが回らない。自分が何を言いたかったのかよくわからないまま、取り合えず声 を 出そうと口を開閉した。
 「避けたら修行にならんだろうが」
 「あ、う、うえ?」
 ピッコロが憮然と口を尖らせた。その様子に目を瞬かせる。私は何か悪いことをしただろうか。こんがらがった頭を必死に回転させた。いやちょっと待て、私 は なんにも。肩を掴んだまま気弾を炸裂しようとしたアンタがええと。というか肩を掴んだまま気弾?

 ふと脳の一角が冷静を取り戻すと、全てが一気に晴れ渡る。今更ながら顔面からザッと血の気を引かせて慄いた。
 「・・・もしかして、防御修行?」
 責めるより。苦情を申すより。右肩粉砕などの危険待遇改めを申請するより。
 状況把握を求める自分が憎い。
 「そうだ」
 こっくりと、まるで幼子が答えるように頷くその素直さも、限界突破で憎らしい。
 長い耳が揺れる。沈黙の中、風が行き過ぎる。強い風に吹かれて、己の中の何か大事なものがアンバランスに崩れ落ちる音が聞こえた。

 「・・・嫌です」
 「拒否権は認めん」
 答えは音速だった。しかしそんな一言で命の灯を消されては堪らない。
 震える瞼を一旦下ろし、反論する。
 「人権は認めて下さい」
 「人間らしくなってからほざけ」
 更に光の速さ。人間外に人間を説かれる覚えは一寸たりとてない。
 震える拳を胸の前に、叫びたがる心は我慢の子。下ろした瞼を引き上げて、半ば涙目に訴えた。
 どう考えてもあんな殺人光線は防げないし防ぎたくないっつうか人間やめたくない!
 「間違っても私は人間以外になったことはありません。いや、つうか、普通に無理ですか」

 途中、再び走る細い光。
 驚愕に目を見開く余裕もなく、ただ防護本能のままに手を突き出した。無意識に上がる両手をまるで人事のように眺め───。

 「ッつぁ!」
 掌に激痛と熱を感じた。全身を電撃が走る。駆け巡る痺れに、今度こそ足は身体を支えることを放棄した。弾け跳ぶように背中から地面に倒れこみ、数瞬、心 肺 機能が停止した錯覚を覚える。
 末端の痛みに目をやれば、投げ出した手が衝撃に真っ赤に染まっている。かっきり10秒呆然と患部を見詰めて・・・跳ね起きる。
 「あにすっだ馬鹿ー!本気で死んだらどうしてくれる!私は今本当に傷付いた、傷付いたぞ!?見た目の傷だけでなく、繊細な防弾ガラスのこのハートの傷に 対 しても損害賠償を請求する!認められなかったら腹癒せにその触角むしり取って・・・」
 「・・・落ち着け」
 「おおおおち、おち、おちつ・・・!」
 ビス、と軽い脳天チョップを食らえど、信じられない暴挙に煮えた脳はほんの僅にも沈静しなかった。涙目を通り越して乾いた目を忙しなく開閉。あうあうと 言 葉になれなかった空気を無駄にする。わたわたと上下させた掌は、見ろ、こんなにも赤い!

 「こんなにも!・・・って、あれ。赤いけど、血はあんま出てない・・・?」
 ピッコロの眼前、顔面張り手のスレスレでピタリと手を持っていってようやく。私はその赤が大して広範囲のものではないことに気付く。確かに少々出血はし て いるもののその量は擦り傷程度。微かに皮膚を伝い暗い赤を残して、すでに縁は固まっている。
 まじまじとそれを確認して、愕然とした。
 「ついに皮膚まで規格外!?」
 「落ち着けと言うに」
 更にビッスと手刀が入る。先程より力のこもった攻撃に抗議を胸に見上げると、心底呆れを滲ませた目に迎撃された。

 「説明を要求します」
 「自分で防いだだろうが」
 「そんなん記憶にありませんよ!取り敢えず顔面当たったら即死だろうからと身体が勝手に判断して手で緩和しようとしただけなんだから!」
 真剣に自分が何をしたのかわからない。力を込めたわけでもなければ、自らの意思で気を集中させたわけでもなかった。本能で気をやった、という可能性はあ る にはあるが、そんな一瞬でレーザーを散開させられるだけの力を集められるものか?
 熱を持った両の掌に、ふー、と息を吹きかける。ヒリつく皮膚にそんな些細な、応急処置にもならない対処は意味がなかったが、気休めには調度良い感じ。

 口の端を上げてピッコロが笑う。
 「・・・反射で弾けたのなら尚更上等だ。まあ、たかがあの程度の攻撃が直撃したら、ただでは済まさなかったがな」
 褒められてるんだろうけど背筋が寒い。不穏なセリフは聞かなかったことにして、私は抗議を続けることにした。

 「でもだからって、故意に弾く修行とか、冗談じゃないですよう。弾くなら頑張って避けますんで、そういう自ら死地に赴く修行は遠慮したいんですけど」
 「突然放たれた光弾を避けれる自信はあるか?」
 言葉を鼻で笑いつつ高みから見下された。唐突に伸びた腕が、素早く私の顔面に当てられる。気を集中する素振りは見せないけれど───レベルのあまりの違 い。恐らく私が避けるより早く、その手は攻撃に必要なだけの気を集結し、放出できることだろう。
 ぐっと息を呑んで、仕方なしに呟いた。無理です死にます避けれません。
 「生存率を上げたいなら、文句は言わんことだ」 

 ───そもそもあんたらが攻撃してこなければ死なないんだけどね。

 突っ込みは胸に消えた。
 無駄なことだ。何故ならそれが、攻撃こそが彼らの本能の最深部にインプットされた最優先事項なのだから。
 「・・・死なない範囲で頑張らせて頂きます」
 諦めの境地。悟りとはこういうものを指すのだろうか。多分、度々逃亡するだろうけど、と心中内緒で付け足して、酸欠になりそうなほどの大きな溜息を吐い た。


 せめてその修行、ベジータの参加は止めて欲しいなあと星に願いをかけながら。



 追記。
 「やはり生命の危機に瀕した方が上達するか」とかいう奈落の呟きに、うっかり魂だけが逃亡しかけました。
 お願い、気付かないでそういうこと。




ちょっ と違う小説に手出してたら、DBドリの書き方忘れました
途中から文体違うやんけーというツッコミは止めてあげて下さい
直接攻撃にはやたら弱いけど(当然)
とりあえず I フィールド (2000以下のビーム攻撃を無効化する/スパロボネタ)は搭載してるっぽいドリ主
今、亀仙人くらいの強さですかねえ。舞空術使えるから
なかったら防御、攻撃共に「亀仙人>ドリ主」かと思われます


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