それなりに見目の良い男2人が並んで歩けば、人はそれなりに注目すると思う。ましてそれがある意味で元々有名な2人なら尚更のこ と。
 1人は天然パーマの無気力で有名な男。彼が、珍しくも饒舌に抗議を申し立てていて。
 1人は中性寄りの容姿と体格をした、珍しい色の瞳の、存在そのものが好奇を集める転校生。
 「もう一度訊くぞ。なんで、ミナモリなんだ」
 「あー、うー、ええと───そこに山があるからさ」
 「お前それ皆神山とかけてるんだとしても、全くうまいこと言えてないからな?」
 そんな目立つ2名が、まるで旧友のごとく親しげに会話しているのだから、そりゃあ、皆注目もしたくなるだろう。

 男2人の後ろを歩きながら、八千穂はその姿をつぶさに観察する。言っておくと別にハバにされているわけではない。ただ皆守が、自分への呼び名に不満を訴 え 始めたのを切っ掛けに、自分が一歩引いて場を譲っただけだ。
 お陰で初めて2人の表情がしっかりと見られた。それは結構な収穫で。
 「正直に言ってみろ、。わざとだろ」
 「うん。わざとでした」
 「ミナカミだ」
 「もう駄目。口が覚えた」

 打てば響く鐘の音。剣呑な言葉にも飄々と返すの顔は、皆守よりは童顔かと思えば、よく見ると中々に大人らしい。顔のつくり云々よりは表情だろう。余 裕 綽々、いかにも遊んでいますという風情が悪戯に輝く瞳を裏切っている。
 対して、大人らしいと思っていた皆守の、何とも年相応な素顔といったら。普段の持って生まれたような余裕が、上面に張り付いて浮いている。引き攣った口 元 を見る限り遊ばれているのは察しているらしい。
 八千穂は無邪気ではあるが馬鹿ではない。その人と仲良くなるにはその人を良く知る必要があることはわかっていた。なので八千穂は。
 (皆守クンのことも、それなりに見てたつもりだったんだけどなァ)
 「ミナモリ。モリー」
 「少しは訂正する努力を見せろッ」
 「頚椎がいたい!」
 の後頭部に容赦ない張り手を食らわすその態度は、知っている姿とはあまりにも異なっていて。つまりそれだけ、彼は周りに壁を作って生きてきて。
 (ちょっとショック)

 「ミナモリは酷い奴だねえ」
 「そうだねェ」
 だから、涙目になって向けられた言葉に、乗じて深く頷いた。

 酷いのはお前らだ、という低い声は、聞かなかったことにした。







九龍妖魔学園紀Ylno irxxar
「だれもみんな(だれひとりとして)」前編







 今日も一日慌しい。とことん『学園』という場所はにとって安息になれない縁のようで、走り回ることにも諦めを覚えるようになったのはいつだっただろ う。少なくとも真神学園在学中にはマスターしたスキルだった筈だ。そう思うと、どこまでも自分は妙な星の下に生まれてしまったのだなと息を吐かざるを得な い。
 2度目でも駄目かと思うべきか、2度目だから余計にと思うべきか。
 本日の騒ぎは、手だけ干からびた女子生徒の発見から始まって。

 「やあ、トッテ、おはよう」
 「あ、くん・・・お、おはよう」
 皆守に少女を負わせて保健室に向かう途中、見掛けた姿に声を掛けた。昨日音楽室で話した男子生徒、取手鎌治。顔色が悪く、常軌を逸して手が長い。背中を 丸 めて歩く様子は人一倍強く重力の影響を受けているような印象を受ける。
 先日と同じように口籠りながら、それでも彼は挨拶を返した。その青白さに眉を顰める。明らかに異常な顔色は今にも倒れそうで怖い。
 縦には長いが横には細く。何と言うか、彼は、儚い。

 「顔色悪いね。こないだは暗かったからかと思ってたけど、それだけでもないみたい。体調不良?足取りはしっかりしてそうだったけど・・・大丈夫?」
 「体調は悪くないよ、大丈夫」
 言葉少なに答える取手の返事を信用できるかと言えば・・・否だ。身体を巡る生命力が思った以上に足りていない。言い方を変えるなら「《氣》が満ちていな い」。6年前に始まった一年間の戦いで鍛えられた感覚が、彼の危険を訴えていた。ついでに言えば、彼の気はどこか、不快。
 「・・・本人が大丈夫ってんなら信じるけどね。行き倒れならないように気を付けなよ」
 けれど、彼にそれを指摘したところで理解できないだろう。
 (きっと認めないだろうな)
 ふ、とわからない程度で溜息を吐く。健康に無頓着な人間は見ていて怖い。
 彼はちらりと、距離を置いての後方で待つ皆守に視線を投げた。
 「じゃあ・・・僕はこれで」
 「ああ、ばいばい、またねー」

 身を低くして去っていく長身を和やかに見送る。足取りは重く、均衡を保っていない。その姿が角に吸い込まれるまでを見詰め。
 「一番目のピアノ」
 苦く顔を歪めた。
 「それはいやだなあ」
 「、何してるんだ、行くぞ!」
 「ミナモリってばせっかちさーん」
 女生徒を抱えた皆守の苛立った声。彼は存外よく怒鳴る。───怒鳴らせているのは勿論であって、実のところ以外の前では見た目通り声を張り上げ る ことなど稀であるが、そんなことは知る由もない。
 「お前、取手と知り合いだったのか」
 「昨日ちょっとね。あ、やだなあ、そんなに顔険しくして、ジェラつくなよモリ」
 からかうと、すぐさま頬を引き攣らせて言い返される。意外といえば、こちらの言葉を受け流す、という技術を持っていなかったことも挙げられるだろうか。 突っ込み体質。ついでに世話焼き症。
 「あいつは不安定だからな・・・妙なこと吹き込むなよ」
 には最初から見せた顕著な反応に、クラスメイトが驚いていたのがこちらには不思議で仕方がないのだけれど。

 「・・・と、保健室だ。お前は来たことはないんだったか。俺はよくサボリ場所に使ってるんだが、いい加減保険医が煩くてな」
 お荷物を背負い直してす皆守に先立って扉に手を掛ける。と、指先にパチンと電流が走ったような感覚。驚いて手を引っ込めた。
 「瑞麗は職務に忠実なのかどうかわかりゃしない───どうした?」
 「何か・・・や、ううん、なんでもない。るいりーって、保険医さん、中国の人?名字は?」
 もう一度、恐る恐る触れる。今度は何も起こらなかった。静電気・・・ではないだろう。あの感覚は、多分結界の一種だと思う。
 では、結界を張れるような人物が?
 「本人に聞け」
 さらりと返された言葉に、じゃあそうする、と口を尖らせて。戸を開ける。
 清涼な保健室に違和感はなかった。一歩退いて皆守を先に入れる。勝手知ったるなんとやら、迷うこともなく白く整えられたベッドに女生徒を下ろし、手際良 く 掛け布団を引き出し被せる。
 (根っからの世話焼き症なんだな)
 感心するやら微笑ましいやら。思わず零れる笑みを容認して、戸の四隅を確認。何もないことを認めるとようやく領域に足を踏み入れ───。

 今度こそ全身に走った衝撃に一瞬息を詰めて、咄嗟に粘膜をやられないよう目と口を閉じた。
 「───ッ!?」
 衝撃は一瞬。身体を確かめると、攻撃を受けた痕跡はない。痛くもない、痒くもない。
 素早く保健室の壁に背を付けて領域を見回す。学生服の裾の下。巧妙に隠されている短刀に手を掛ける。思わぬ失態に舌を打った。指先に感じた痛みは警告。 入 るのではなかったのではないか。
 「、どうした。さっきから不審極まりないぞ」
 言葉通りに胡散臭い物を見る目を向けられて曖昧に笑う。どうもこうも、状況がわからなければ答えようもない。
 「ミナモリ、保険医って、どんな人?あと名字」
 保健室には誰もいなかった。カーテンに遮られた向こう側にも人の気配はない。それでも慎重に隅々まで気を探る。
 そして気付いたことが一つ。はあからさまに顔色を変えた。
 「どんなって・・・まあ、きつい奴だ。カウンセリングもしてるらしいがな、俺はごめんだね。ずけずけと入られるのは好きじゃない」
 「名字は?」
 「やけに気にするな」
 「いいから!」

 この室内に強く残る気は、ひどく知ったものだった。
 声を荒げたに驚き、皆守は一瞬目を見張る。笑顔を消して険しい顔で周囲を警戒する姿は、転校後初めて見せたもの。確かに珍しいだろう。
 困惑しながら口を開きかけた皆守の声を逃がさないように注意しつつ、誰もいないことに一先ず安堵して壁から背を離した。
 刹那。

 「劉。劉瑞麗だ」
 至近距離で開け放たれた扉、涼やかな声で答えられた名前に、警戒も忘れて硬直する。ぎし、と硬質が擦れる幻聴が耳に届く程、その硬直具合はとても石に似 て いた。
 「名前の公開を強要することはあまりスマートとは言えないな。君は・・・転校生か」
 「瑞麗、急患だ」
 「ふむ、少し待て」
 それでも精一杯に首を回して斜め後ろに視線をやると、きつい顔立ちの美人がを、まるで睨むように見詰めていた。皆守から見えない位置で腰の辺りに手 を 当てられてぞっとする。
 発剄。中国武術では身体の加重移動を利用した攻撃法として知られるそれは、普通の打撃のように身体から離して構える必要がない。接近戦ではもよく利 用 するものである。当てられた手は、つまり動けば攻撃すると・・・そういった意味だろう。

 まして、それが「劉」ならば。

 だけに届く声量、冷静な声が鼓膜を震わせる。
 「君は───転校生か。結界に反応したな。何者だ。何が目的でこの学園に来た。場合によっては私は」
 「たんま」
 連ねられる殺気混じりの音に、眉を落として困惑の笑みを浮かべた。皆守の目が痛い。緊急事態に何をしているのかという冷たい目。それはまだ良いが、何よ り 今は、この質問が皆守に聞こえることが困る。
 「あの結界・・・邪気に反応すんの?だったら俺に反応したんじゃなくて、こびりついたモノだ。俺は人間だよ」
 万が一ということもある。早口に、唇の動きから言葉を読み取られないように捲くし立てた。
 「まして、『劉』と敵対なんかするもんか」
 強調してそう言うと、瑞麗は動揺に身を震わせた。その隙に皆守の傍まで駆け寄る。さっと皆守の背後に隠れると、怪訝そうにちらりとを見て、続いて瑞 麗 に目をやった。

 瑞麗の長い黒髪が揺れる。眉間に寄った皺が怖い。美人が怒ると迫力があるものだ。彼女はをじっと見詰めて、やがて白衣を翻して乱暴に椅子に腰掛け た。
 「・・・君には存分に語って貰うことがあるようだ」
 「やだなあ劉・・・ええと、瑞麗先生。美人さんはニッコリ笑ってた方がお得ですよう」
 「あのな、お前ら」
 瑞麗は秀麗なかんばせを歪んだ笑みで飾り、威圧する。は顔を引き攣らせて皆守を盾に、誤魔化す。
 皆守は、進まない話に苛立って、アロマに火を点けた。
 「もう一度言うが、急患だ」








 結論から言えば、結局、何か知っている様子で追い返された。勿論また絶対に保健室に来いと釘を刺された上で。
 げっそりと肩を落とす姿を照らす夕日を忌まわしく思い、は落ちていたサッカーボールを思い切り蹴り付ける。猛然と飛んで行った球は、練習に励むサッ カー部の横を通過して、太陽により近い、高い位置で金網を揺らした。
 「ああくそ・・・まさか最初からこう来るとは・・・」
 先を考えると頭が痛くなる。
 午後の授業など受けている筈もなし。頭痛という大義名分の下、屋上で午後の2時間を昼寝して過ごした。皆守の姿が見えなかったのは、素直に授業に出たの か、はたまた───保健室に出戻ったか。
 大きく弾むモノクロの球を見ることもなく歩を進めた。こういう日は、ストレス発散に出掛けるに限る。早く寮に帰りたい。部屋からいつもの荷物を引きずり 出 して。
 「おい、
 思考が次の日まで進んでまた頭痛を引き起こす。そのため、声にすぐには反応できなかった。

 「荒れてるな、珍しいことだ。・・・お前、瑞麗と知り合いだったのか?」
 「知り合いではないけど・・・知り合いの関係者、かなあ。何にしても今は会いたくなかった人だね」
 は今、苦虫を噛み潰した顔を如実に体現していることだろう。よくもまあ、皆守は声を掛けて来たものだ。眉間に山脈、細まる目、鋭く歪む眼光。自分が 皆 守の立場なら、多分近寄らない───でもない。自分の性格上、面白がって茶化しまくる可能性が高い。なんだ、そう考えるとこいつ意外と好奇心旺盛じゃない か。
 「劉、瑞麗、かあ。・・・ん?でも待てよ」
 まさかこんなに早く。そう思っていたが、いや、もしかしたら別に時期は関係ないんじゃなかろうか。彼女と会うのが遅くとも、事実自体は変わるわけでもな し。
 そう、そして、知られたくない事実、の性別やら年齢やらを彼女が知っているとも限らないわけで。
 「そうか・・・もしかしたらそうかも。アイツもあれから実家帰ったのかどうか知らないし、そもそも瑞麗先生が中国じゃなくずっとここにいたならアイツと も 会ってないかもわからんね。だとしたら俺、問題ないんじゃないか?いつか会う予定があるならその前に口封じすりゃいい訳だ。そうだそうだそうしよう。喉下 に刃物突き付けりゃおとなしく従ってくれるだろう」
 「何を一人でブツブツと物騒に。誰のことだ?」
 「企業秘密」
 「ほお」

 一人希望に目を輝かせる腐った大人に、皆守は意味ありげに相槌を打った。怪訝に思い伏せていた顔を上げる。
 「その企業ってのは」
 皆守はチラリと視線を流して、嫌らしく笑った。
 「宝探し屋のことか」
 笑顔に、無言でニッコリと笑い返す。双方立ち止まり沈黙を守る。ヒュウ、と吹く風は、夕闇の中少々寒い。

 「あー、クーン!今帰りッ?」
 振り向けば、掛けて来る姿に先日をデジャビュ。
 目の前に立った八千穂に、笑顔のままで手を伸ばした。不思議そうに、やはり笑顔のまま小首を傾ぐ様を微笑ましく思いながら目線を合わせる。
 「?」
 「八千穂ちゃん」
 わっしと2つの団子を握り込んで。
 「内緒、って、言わなかったっけ、俺は?」
 「きゃーあー!?ごごごめんごめんごめ、お団子引っ張らないでーッ!」
 横に。痛くない程度に引っ張り伸ばした。盛大に慌てての手を押さえる、少し硬い手の平。意にも介さず満面の笑顔決して崩さずに穏やかに語る。
 「八千穂ちゃんてば、ははは、嫌だなあ、そんな青褪めちゃって。別に怒ってる訳じゃないんだよ。ただちょっと、言い忘れてたかな、と思っただけで」
 「だって、だって、皆守クンがいつになく問い詰めてきて、誤魔化せなくて!クン、笑顔が怖い、穏やかさが怖いー!」
 我関せずとアロマを吹かす傍らの無気力人間にちらと視線をやった。視線に気付いた皆守が喉で笑う。小さく息を吐くと、は団子から未練なく手を離し た。

 ふふ、と笑う。
 「まあ、実際、内緒とか一言も言ってないんだけどね」
 「ひどいッ!?」
 喧々囂々たる非難を浴びせる八千穂を宥めることもなく歩き出そうと踵を返す。
 「今後は内密にお願いしますってことで───ん」

 本日二度目の遭遇。足を縺れさせて、不安定に駆けてくる男子生徒は。
 「トッテ?」
 「取手の名前まで活用形かオイ」
 呆れを前面に押し出した声はシカト対象として。
 よろよろとグラウンドを横切る長身。声を掛けるつもりではなかったのだが、口から漏れた呟きは、どうやら彼に届いたらしい。ふと虚ろな瞳をこちらに向け た。不味いところを見られた。そんな表情だった。

 「・・・君。もう、生徒は帰らなければいけない時間だよ・・・早く帰るといい」
 視線をあからさまに逸らして地面を凝視する。昨日の様子とは打って変わった、人に怯える態度に眉を寄せた。酷く不安定で、昼間より格段に弱った気が揺れ る。
 「今帰るところだけどさ。トッテ大丈夫?送ろうか・・・つっても行く先結局、一緒なんだけど」
 何気ない様を装って笑いかけるに、取手はやはり怯えた目を伏せ続けた。
 「あんまり調子悪いなら、ルイ先生呼んでこようか・・・?」
 「・・・いや、いらないよ」
 八千穂の問いかけに、意を決したように顔を上げる。明確な拒絶。それは保険医を呼ぶ行為に対してではなく、心配に対する拒絶だった。
 丸めた背中を些か伸ばしこちらを見下ろす。20cm程の身長差があってなお威圧感を感じないのは、果たしての図太い神経故か、取手の気の薄さ故か、 は たまた・・・両方か。
 非難を含めた視線が、の静かな視線に絡まった。飽和する感情はどこまでも複雑で、つい眉尻を下げる。虚無を湛える瞳は輝きを失って。
 (悲しいことだね)
 ゆっくりと口を開く取手に、心の中で呟いた。

 「君は、墓地に行ったかい」
 確信めいた口調。は数秒迷い、素直に頷く。どうせそこからか情報を仕入れた上で言っているんだろう。曖昧に誤魔化すことは容易かったが、意味のない こ とをしても疲れるだけだ。
 肯定に、彼は非難の色を濃くして眉を吊った。
 「墓地は───とても危険だ。行かない方が・・・いや、行ってはいけない。君、君が、この学園で生きていくつもりがあるならば。《執行委員》に目を 付 けられないように」
 先程までの気弱な様子が消える。宣言した彼は、墓の中に入った上で言っているのか。少なくともある程度の事情は知っているようだった。
 ゆらりとまたも気を不安定に揺らめかせた取手に、皆守の表情が強張る。
 「・・・取手?お前、何か知って」
 「ミナモリ」
 妨げに苦く表情を曇らせた。何を止めるんだと睨まれても、は取手から視線を逸らさない。黙って続きを促した。
 「君が墓地に入るなら、僕は・・・」
 それきり彼は口を閉じる。どれだけ待っても貝のように。いや、熱で炙ったところで口を開きはしないだろう。

 継続を諦めて方向を転換した。
 「どうして音楽が支柱になったんだろうね」
 唐突な言葉に、彼は肩を揺らして動揺をあらわにする。
 「誰がトッテにそれを教えてくれたんだろう」
 独り言めいた囁き。それは先日残した彼への・・・課題。
 「わからない?」
 勢いよく項垂れた首を伸ばして目を見開いた。色素の薄い唇が益々色を失って痛々しい。蒼白な顔を強張らせてを見詰める。

 「ねえ、それで、トッテは───幸せ?」
 思いがけない言葉を掛けられたというよりは───許せない言葉を掛けられたという風な。
 この問いには取手だけでなく皆守と八千穂も驚いたようで、両名共にあんぐりと口を開いてを異星人を見る目で凝視した。そんなに隙だらけだと、口に虫 で も突っ込みたくなるから止めて欲しい。
 「答えて欲しいな」
 控えめに微笑んでも取手の表情は硬いまま。信じられないものを目の前にした少年は、ただ唇を噛み締めてを見続けた。
 1分。誰もが沈黙を破ることを恐れるように黙り込んで。やがて取手の震える唇が、朱色を滲ませて開く。

 血を吐くような一言が。
 「僕は───幸せだ」
 冷めた空気を震わせた。

 取手は逃げるように青褪めたまま早足に歩き出す。方向は同じながら、気まずい空気を引き連れて帰る気はない。追う気は更々なかった。
 「そうは見えないけどね」
 の皮肉げな一言は、取手にどう響いたのだろう。 





 予想以上に保健室が出張ってオラおっでれえたぞ!
 前後編になるとは思いもしませんでした
 展開どうしようかオロオロしたシリアスな第二話前編



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