東京魔人学園外法帖
  
人には言えない秘密の一端@


 「あ、御神槌。お勤めご苦労様」
 「さ んもラーメン堂潜り、ご苦労様です」
 「・・・わかるの?水浴びてきたのに」
 「龍斗師が潜らせたとふれ回ってましたものですから」
 「・・・・・ふぅん」


 現代で言う午後11時、共に黒系の服を纏った二人は偶然にも九角屋敷の門で遭遇した。
  屋敷に居候しているが 此処に入るのは当然として、住まいはあくまで教会の御神槌が此処に居るのには少々不自然な時間である。(自分設定<勝手 に)
 訊 けば明日別に仕事があるのだとかで、は もう一度ご苦労様、と呟いた。どうせろくな仕事ではないのだろうが。
 「方向同じだし、一緒に行く?」
  ニッコリと笑う整った面差しは、何時もと比べて疲労の色が濃い。それでも人に疲れを見せるのを嫌がって無理に強がるに、 御神槌はそっと苦笑した。彼 女は心配や同情も嫌いなのだ。
 「龍斗師に怒られそうですが・・・そうですね、荷物持ちになって下さるなら、喜んでご一緒させて頂きますよ」
 「じゃあ私はこれで」
 「あ、冗談だったのに持って下さるんですか。いやあ有難う」
 「押し付けんな腹黒神父!」
 一般にシスコンと呼ばれる部類のの 兄、龍斗。彼は妹が夜に男に近付くのを極端に嫌っていた。們天丸はそのせいで、3度程三途の川の畔に立っている。
 恋愛感情は持たなくとも、害虫は害虫なのだった。




 鬼道衆たる者、ウグイス張りの廊下でさえ足音を立てて歩いてはいけない。・・・という訳ではないが、二人はくそ長い廊下を音も無く飄々と歩いていた。

 実際下忍の足音のでかさは如何よ、とか思ったから。

 強引グマイウェイの異名を持つ彼等と言えど、いくらなんでも夜中に無神経に騒ぎ立てるような無法はしない。双方無言で目的地へ向かっていた。
  と、が ああそうだ、と唐突に口を開いた。
 「私、髪切ろうかと思うんだ」
 腰まではある、ざんばらに切られた黒髪の一房を指に絡めて「アリンコの巣、滅殺してくる」とでもいう感じで、にこやかに御神槌を見やる。神父は微妙に顔 を顰めた。
 「何でまた」
 「いやね、血が付いたりするとどうせ傷むし、洗うの時間かかるし。なんてったって邪魔だし」


 作者が切ったら存外楽だったモンだから、やらせてみようかと思って。


 「・・・龍斗師は反対しました?」
 「・・・・・・切っちゃえばこっちのモンだし」
 つまり反対されたのか。
  笑うの 頬に伝う一筋の汗をみとめ、帽子を目深に引き寄せる御神槌。彼女が兄の命令を聞かざるを得ないのは、いわば公然の秘密で ある。99%切る事は 無いだろう。
 「楽なんでしょ?」
 「まあ楽ですけどね。御屋形様みたいにモッサリするよりは切った方がいいでしょうが」
 頭目に向かってなんて事を、とは今更言わない。
 何故って御神槌だから。無駄だから。そして何より真実だから。
 「・・・で、切るにあたってふと思ったんだけどさ」
  明るかったの 瞳が急に真剣さを帯びる。足を止めて高い位置にある細い目を凝視した。
 ゴクリと唾を飲み込む音。
 一瞬不安げに手を口元に遣って目を閉じ、眉をはの字にして見上げる。
 そして一言。



 「九桐の剃髪って、如何なってんの?」



 「・・・・・・・・・・はぁ?」



 此方は此方でつられて真剣になっていた御神槌は、彼らしからぬはずした音を咽の奥から搾り出した。散々引っ張っておいて、言うに事欠いてそんな事かと怒 りさえ覚える。
 「・・・・・・如何、とは?」
 「剃髪ってその名の通り『髪を剃る』だよな」
 「そうですね」
 「普通髪剃ったら、普通は龍閃組の醍醐みたく、青々とした剃り跡が残るもんだよな」
 「・・・そう、ですね」
 ああ大体言いたい事はわかってきた。小さく目を逸らしてコホンと小さく席をする。ここの位置は話の種の───即ち、九桐の部屋の前だった筈。
 しかし勿論彼女はそんな事お構いない。いっそ掴みかからんばかりに顔だけは柔和な神父に詰め寄っていた。
 「何でアイツそれが無いの?」
 ストレートな質問には容赦も無ければ逃げ道も無い。彼女はあくまで真剣なままだから性質が悪い。
 なまじ正解を知っている身であるが故、今度はしっかりと目を逸らし口元をキツく押さえた。言わないため・・・ではなく、笑いそうになる其処を宥める為。 否、言わない為でもあるのか。
 彼女には美味し過ぎるネタだから。
 「・・・ええとですね・・・」
 「何」
  少し経って口を開いた御神槌に、の 琥珀の瞳が期待に輝く。まだ笑う口元を、気合で何時ものアルカイクスマイルに変換した。
 「・・・ハゲは病気なんですよ?」
 「え、九桐ヤバイ病気だったの!?」
 「・・・・・ッ・・・・・はい。ですから、この事は御内密に」
 「わ、わかった!・・・そうかあ、道理で言動が壊れてると思ったよ・・・そうかそうか・・・」
 ・・・此処にもし常人及び九桐がいたら、「アンタにだけは言われたくない」と全 力での給っていただろう程、言葉は使われる相手を間違っていた。御神槌 はもう、笑いを噴出しない事で精一杯だ。頬がハムスターの様に膨らんでいる。僅かに開眼している上に、涙すら浮かんでいる有様である。
 そっと横目で九桐の部屋を盗み見ると、微妙に部屋主のシルエットが浮かんでいた。頭の辺りでせっせと動く腕までも感じ取れて───耐え切れなくて口いっ ぱいの空気を勢い良く吐き出した。
 「・・・御神槌?」
 声は出していないとはいえ爆笑する彼は4年に一度のワールドカップより珍しい。
 怪訝そうにまじまじと観察する視線に笑いの発作を触発されながら無理やりに言葉を紡ぐ、本当は怖い神父様。
  「ふ、ほ、ほら・・・ッ、さ んの、お部屋ですっ。は、早く戻らない、と、龍斗師に、お、おこ、怒られてし、まいます、よッ!」
 「・・・・・・うん、そうだね。戻るけど・・・大丈夫?」
 「勿論で、すッ。ほら、素早く、アナタの嫌いな蜘蛛の様、に、カサカサと、か、えりなさい」
 「うっせえ・・・・・・・・・・・・・・・・じゃあまた明日」
  思い切り不審がるだっ たが、どうせ答えが返ってくる事はないだろうと早々に判断し、不機嫌に踵を返した。そのまま振り返りもせずに部屋に 引っ込む。
 それからも、御神槌は腹を抱えたまま、必死で声を殺し続けていた。





 ぷちん。
 ぷちん。
 痛ッ。
 ・・・ぷちん。
 一枚の薄い隔ての向こうで、九桐は一心不乱に頭の毛を抜いていた。
 現代で女子が腕や足の毛を抜くように、丹念に一本ずつ、慎重に一本ずつ。
 「・・・最近やっと抜くのが少しになってきたな・・・」
 毛根から抜けば、その内生えなくなってくる。それは頭も同じ事で。
 嬉しげに満足げに、九桐は笑いながら大きくひとつ頷いた。
 そして地道な努力を再開する。
 ハゲと言われようと、頭から髪の毛を完全撤去する為に。





  その夜、が 就寝した直後に誰かが大爆笑して皆から不興を買った。
 石田ヴォイスが枯れ果てるまで、声は途切れる事も無く。



 朝、力尽きた神父が破戒僧の部屋の前で倒れていたのを発見されたという事実は─────
 龍閃組には絶対に秘密だったとか。




 そうか腹が黒いヤツが書きやすいのか
 だから壬生くんとかミカちゃんの出現率が異常に高いんだな
 ・・・あ、でも美里とか書きにけェや・・・


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