最近私、緋勇 、 悔しい事に気付いてしまいました。
東京魔人学園下法帖
恋に程遠いジェラシー
チュンチュンと小鳥が五月蝿く泣き喚く、五月の暖かな陽気。
心地良い日差しを避けるように、私は木陰でゆったりと、忙しく動く少年を見物していた。こうも暖かくては寝てしまうのも時間の問題だと、わざわざ場所を 移動したのだ。多少座り心地は悪かったが、おかげで欠伸は減った・・・と、思う。
いやホラ連日の兄その他によるイジメで寝不足だし。
「、 水取ってくれよ」
「あいよ〜」
少年───風祭に声をかけられ、脇にあった竹筒を投げ渡す。
栓を取って美味そうに嚥下する風祭に、私は思う存分視線を注ぎまくった。
「何だよ?」
「いや、頑張ってるなぁ、と感心をね」
別に嘘じゃないのよ?実際よくやるなとは思ってる訳で。
ニッコリ笑って誤魔化すと、彼は唇を尖らせながらも一応納得したようだった。
・・・・・・ああ・・・・・・。
風祭がいつもザッと残りの水を頭から被るのは、修行で火照った己の身体の熱を無理矢理冷ます為だ。
それでも。
ポタリ、と。
滴る雫は冷ますに留まらず、服に染み込み身体を急速に冷やしていく。
「風邪ひくよ」
そんな言葉にも耳は貸されない。水分は只管自然乾燥で放置される。
だから私が見る時は、必ず拭き布を用意しておくのが常になった。
「カザ、座って、ホラ」
前までは「放っとけ」とか「そんなヤワじゃない」とか連れないお言葉が返ってきていた私の呼びかけに素直に座る風祭は・・・気にしてんだろうなぁ。
散々言っといて見事に大熱出した失態。
龍斗に鼻で笑われ、桔梗にからかわれ、九桐に馬鹿笑いされて。
私も死ぬほど馬鹿にしたけど。
そんな事があってからだ。私に頭を拭われるのに抵抗しなくなったのは。
また話を持ち出されるのを恐れているに違いない(何度かやった)。
「身体は自分で拭いとけヨ〜」
「当たり前だッ!」
軽いジョークも流せず怒鳴る、お子様精神バリバリな風祭。いい加減慣れろ、とは龍斗の弁だが、そろそろ私もそう思う。
まあ何にしても、最近こいつの頭を拭くのは私の日課(っても週に二、三回)だ。
近頃は風呂上りにも無言でせがまれる事もあったりなかったり。
結構、悦。
「・・・お前、手、冷たくねェ?」
頬の緩みを必死で留めて物思いに耽っていた私を現在に引き戻したのは、怪訝というか心配というか・・・何となく無邪気な感じの素の声だった。
「(・・・・・・うあ。)そう?日陰にいたから冷えたかな」
「うわ、マジ冷てぇじゃん!俺のが暖かい位だぜ」
───そりゃ、君が子供体温だからさ。
素直な口からポロッと転げそうになった言葉は胸に仕舞っておこう。私もともと体温低いのさ。そんな当たり障りのないモノでフォローしとこう。
風祭は私の両手を握り、暖めようと苦心している。
細かく言えば頭を拭いていた布を被ったまま、全体印象より多少大きめの、でも子供特有のプニプニが僅かに残る両手で、一心に私の両手をたどたどしく擦っ て。
・・・時折ハァー、と暖かな息まで吹きかけてくれちゃったりなんかして。
・・・・・・・・・・・・いやだからさカザ。
「手、ちゃんと動くのか?こんな冷たくて。痛くねぇ?」
上目遣いに。
心配そうに。
・・・チョット唇尖らせてみちゃったり。
何て言うかさ。
かわいこぶってんな。
かわいこぶってんな。
似合ってんじゃねぇ!
「・・・・・・だ、大丈夫、天然みたいなモンだし」
「そうか?・・・気を付けろよ、お前だって、その・・・だ、大事な、仲間な訳だからな!」
赤い顔で友情を捲し立てる風祭に、私は目を逸らしてうんうんと頷く事しか出来なかった。
ガシガシと乱暴に髪を拭き、ん、と布を突っ返す彼。
最近私、緋勇 、 悔しい事に気付いてしまいました。
花も盛りの十六歳。
それなりに自分は可愛いの部類だろうと自負していた今日この頃。
一番とは決していいませんが。
そこまで自惚れてはいませんが。
上には上がいるモノで。
・・・・・・お母様、私、男にバチコン負けるとは思っても見ませんでした。
何でこんなん書き出したかよく覚えてないんですけど・・・何かカザに向ける執念でも発生してたのかなぁ・・・?
友人に「ほのぼの」と言われたのが新鮮で、他の友人に「ねえ初めてほのぼのだって言われた!」とか言ったら・・・おもくそ馬鹿にした目で「・・・は?」 とか言われました
ギャグにしか見えんとか言うなッ!クソクソ!
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