先に言っておくが俺はれっきとした女だ。
 まあ確かに男装しているし、ばらしてただで済む軽い立場でもない。

 ただ。

 ・・・こういう状況は、ちょっと困る。



東京魔人学園剣風帖
  青春☆小道



ああ だって 耳を澄ませてみてよ





 ミンミンと響き渡る不快な鳴き声。
 これを夏の風物詩とか言う酔狂な輩も世の中には多々いるようだが、生憎俺は苛立ちを覚えるだけだ。
 夏服規定の薄手のシャツは幾らなんでも下着が透けるので、俺はこの季節、下に厚めのTシャツを着込んでいる。つまり、夏でも秋服のような物。
 暑い。
 脱水症状を起こしてのたれ死んでも可笑しくない位、くそ暑い。
 誇張でもなく、マジで、暑い。
 ───日当たり悪い場所で良かった・・・ッ!
 でなければ本気で倒れていただろう。高子センセの所へ一直線だ。
 今、俺は人に呼び出されていた。
 呼び出しスポットNO.1、校舎裏。
 目の前でモジモジと己の指を絡ませているのは、勿論男ではなく。
 華奢で。
 可憐で。
 フワフワの天パーが微笑ましい。
 ・・・正真正銘、女の子だった。




 「 先 輩、好きです、付き合って下さい!」
 必死な形相で『告白』されたのは、ほんの1分かそこら前。
 気弱そうな雰囲気を纏った2年と思わしき少女にいきなり抱き付かれた俺は、慌てて彼女を引っぺがし、そのまま気まずい雰囲気突入───それからずっと至 近距離で2人、固まっている。
 告白は全く自慢ではないが、転校してきてから何度かあった。
 大体同学年の女子か、年下ギャル。それから認めたくはないが・・・体育会系ムキムキむさ苦しい筋肉男数人(修羅場1回遭遇)。
 後で龍麻達にしこたま笑われたが(龍麻と女子以外は真剣にキッチリ半分殺したが)、今ではまあ思い出の一部だ。最近鬼共のせいでいそがしかったから、告 白なんて受ける時間もなかったのだ。
 ・・・だから、純情少女の告白など、俺は知らない。今にも泣き出しそうで、本当どうしていいかわからない。
 ギャルなら少し位突き放しても罵られるだけで済む。
 けれど。
 (や、やばい、泣いてる・・・ッ)
 目を逸らして空を見上げていた俺が視線をチラリと落とすと、恥ずかしげに俯いている顔から一粒の滴が流れているのを見付けてしまった。
 いい加減、はっきりしなければ本気で傷つけてしまうだろう。



 必死で考えて、浮かんだ答えは1つだった。
 王道、セオリー。嫌いじゃないけどゴメンナサイ、には、この台詞が一番だ。
 ・・・ていうか嫌いも何も、知らない人だし。
 そっと少女から身を離し、視線を合わす。
 俺の覚悟が見えたのか、彼女は大きな瞳をひとつ瞬いて、唇を引き結ぶ。彼女の芯の強さが見えたようだった。
 「ええとね・・・」
 ここからは少々の演技だ。嘘だとわかったら、彼女はきっと更に傷付く。
 俺は極力意識して、僅かに困ったような笑みを浮かべた。




ここから暫くは、少女視点でお送り致します。




 彼は私と視線を合わせると、困ったような笑いを浮かべた。
 ああ、見込みはないのだな。
 直感したが、それでも彼の言葉を聞きたい。いつも遠くから眺めているしか出来なかった愛しい人の言葉だから、どんな拒絶でも留めておきたいと思った。
 胸の辺りをキュッと掴み、合わせていた瞳を───優しい彼は今、決して目を逸らす事をしないでくれたまま───僅かに伏せた。
 跳ねた黒髪が汗を吸って頬に張り付いている。周りの男の子とは明らかに違う細い首にも黒い色彩は纏わり付いていて、重力に逆らい流れるその様は酷く色っ ぽい。多くの人間が大々的に肌を晒す中黒いTシャツを着込む姿はストイックでいつも綺麗だと思っていた。暑さに弱いのだと、美里先輩から聞いた事がある。  それなのに何故とは思うのだが、彼はいつもその姿だ。
 暑さに茹だり、瞳が湿り気を増していた。ともすればきつい印象を与えてしまいそうな意志の強い瞳。彼に惹かれる人間は、ほぼ100%瞳に絡めとられる。 学校にいる間、大体の時にそれは優しく輝いているのだ。琥珀色の宝石は、男女に問わず魅了してしまうらしい。
 ただ、今潤むそれは、何となく暑さ以外のものにやられている気がした。
 例えばそう・・・今の自分。つまり。
 ───恋する人間。
 「あの、さ・・・俺、好きな人、いるから・・・ごめん」
 本気で申し訳なさそうな心のこもった優しい声に、やっぱり、と思った。
 腹は全く立たない。
 頬を上気させ瞳を潤ませて恥ずかしげに俯くその姿は本当に───。





 ・・・やばい、はずした?
 精一杯の「恋する人」を演じたつもりだったのだが、彼女は俯いて動かない。
 胸元で硬く組まれた両手が痛々しい気がして手を伸ばしかけ・・・駄目だっつの。 断りたいんだろーが、俺。
 「えっと・・・」
 どうしようどうしようと苦悩する俺の耳に、小さな可愛らしい、控えめな声が届く。彼女だ。上目遣いにこちらを見ている。
 「・・・ゴメンね?」
 「いえ・・・あの、頑張って下さいね、応援・・・してます」
 小さい姿に居た堪れなくなってもう一度謝罪を繰り返すと、彼女はなんと、笑顔すら見せてそんな事を言ってくれた。
 ああ、可愛い、妹に欲しい・・・!つーか男だったらOKするッ!
 思わずいい子いい子してしまいそうに愛らしい。仲間のキャラが濃い事もあって、素朴で純真なこんな子にはとっても惹かれるモノがある。
 ・・・決して邪な思考からではなく。
 「きっと格好良い人なんですねッ」
 「・・・へ?」
 迷いを断ち切るかのようにエヘヘと明るく笑った彼女は口元に手を当てて・・・じゃなく、今何つったの、この娘?
 何か相応しくない言葉を聞いた気がして、間抜けにも呆然とした。
 格好良い・・・?
 「 先 輩が好きになる人ですもんね、きっと優しくて、背が高くて」
 俺の困惑も何のその。彼女は何故だか瞳をキラキラ輝かせて。
 「声何かも良いといいな!年上で包容力があって、安心して身を任せられる感じの、「愛に性別なんて」って心の広い人で、ずっと先輩だけを見詰めてくれる 一途な人ッ!ああ、そんな人だったら私、先輩の事笑って諦められます。お幸せに!」


・・・・・・。


 虚脱。それが今の俺に一番正しい。
 言いたい事だけマシンガンに放って去っていった少女の後ろ姿をぼんやり見つつ、俺は不思議な感覚に捕らわれた。背筋が凍りついたと言い換えてもいい。
 今、対象、明らかに男だった・・・。
 確かに俺、女だけど、知らない筈だし。




 ───俺、周りからどう思われてんだろ。




 同人娘などという言葉、俺は全く知らなかったもので。
 悲しい気分でその場を後にする俺に、暑さなど関係なかった。
 心に響く北極の如き寒さは、きっと暫く残ることだろう。
 少女よ、あなたは強かった・・・。




あ あ だって 天国だって見える





 異様にウケてくれた友人が一人。スランプ脱出の為のリハビリ小説に笑って貰えてホッとした覚えが御座います
 つーかいくらリハビリだからって、魔人キャラ一人も出さないってぇのは如何だ
 灰色部分はCOCCOの青春なんとかより(違ったかな?)


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