東京魔人学園剣風帖
  ドラ○もん行進曲



 「も、持ち物検査───ッ!?」
 その日のホームルーム時間、響き渡ったその声は、屋上の雀達を容赦なく吹き飛ばした。



  「・・・、 煩いぞ」
  机を引っ繰り返して立ち上がったに 冷たい視線を向けるのは、何故か担任マリアではなく陰険狼犬神杜人。が 八つ当たり気味に視線を遣った時には既 に、生徒の卓上に出された持ち物を見遣っていた。
 「・・・・・・・・・・・」
 ブツブツ文句を言うかと思われた彼女だが、意外に素直に机から教科書などを取り出す。
 「緋勇、持ち物を出せ」
 妹の行動をニヤニヤと見守っていた龍麻の机には、何も置かれていない。声をかけると視線だけを犬神に寄越した。
 「無い」
 「そうか」
 愛想も無い一言に、犬神は一つ小さく頷いて次の机へ。
 (・・・いいんだ・・・)
 教室全体が一つになった瞬間だった。





 「・・・これも没収だな」
 名も無き男子生徒の机から出てきた流行のカードゲーム(遊○王)の束をゴミ袋に放り込む。いつか返せと涙ぐむ少年に軽く嘲笑を浴びせ、袋の上からそれを 握り潰した。
 「鬼─────ツ!?」
 聞こーえなーい。
 叫びからフ、と目を逸らす。と、そこで俯いて机を握り締めている不審な生徒が視界に飛び込んでくる。
 「漫画が二冊・・・後は教科書の類か。・・・・・・椅子ごと退け」
  言われるままにガタガタと椅子を遠ざける生徒───もとい、。 何時の間にか教室は、二人から漂わされる妙な緊張感に支配されていた。
 遠慮なく犬神は机の中を覗き込む。中には押し潰されたプリントが数枚、ゴミと化している。一つを引っ張り出して広げれば、94、と大きく書かれた数学の テスト用紙だった。それから、縁に寄せられた・・・。
 「・・・・・・黒板消し?」
 「スイマセン、盗みました」
 (・・・・・・何で・・・・・・?)
  身体を僅かにビクつかせて謝罪を告げるに 集まる、言いようも無い視線。
 当然無視される。
 「これだけか?」
 「・・・ふぁい」
 緊張が解けたのだろうか、小さく欠伸を噛み殺しつつ、頭を縦に振る。 犬神は暫しそれを無表情に見詰め続け───。



 フン。



 「!?」
 唐突に机の横に引っ掛けてあった学校指定の黒カバンを奪い取った。
 顔に浮かぶのは、これ以上無い程の、嘲笑。
 「か、返せドロボウ!」
  椅子から完全に腰を離して教師に掴みかかる。必死に手を伸ばすを 押さえ付けるのは簡単だった。
 「・・・ってェ!?」
 片手で頭を机に押し付け、足で身体を固定する。片手は開いているのでカバンは探れるし、手も足も動かせないよう固めたので、抵抗らしい抵抗もされない。 犬神だからこそ出来る早業に、龍麻は小さく口笛を吹いた。
 例えその光景が、男子生徒を襲う教師にしか見えないとしても。
 「放せ〜放せッ!S教師―ッ!!」
 「誰がSだ」
 言いながら、器用に片手でカバンを開く。ゴチャゴチャとかさばった中身を見て、犬神は顔を顰める。
 ───こんなにモノが入る鞄だったか・・・?
 机の上にカバンを置いて取り敢えず表面に出ているモノから物色を開始した。
 「・・・ゲームボーイ・・・漫画(○ャンプ)・・・メリケンサック・・・これは、握り鮨、か?」
 「ああああああぁぁぁああ、俺の間食、ゴミにすんな!」
  喚き暴れるの 口に、パックに入って出てきた鮨を放り込む。一瞬驚いた顔をしたが、すぐに歯でパックを抉じ開け中身を食べ出した。
 器用である。
  その間もどんどん引っ張り出されるの 私物。




 「・・・印籠?」
 「お爺ちゃんの形見です」
 嘘です。
 「・・・・・・工具セット」
 「自転車が朝、大破しまして」
 徒歩通学ですが。
 「・・・・・・500mlペットボトル二本」
 「行き倒れの熱射病患者に飲ませて差し上げようという、何て心優しい俺の生き様・・・」
 「メダカが泳いでいるように見えるが」
 「INカルシウム」




 そんなこんなでカバンを漁る事十数分。出された荷物は床に山積みとなって、今にも雪崩を起こすかという高さにまで達していた。これだけのモノがあの薄っ ぺらいカバンの中に、一体どうやってしまわれていたというのか。
 「・・・まだあるのか・・・?」
 「ああぁぁぁあぁぁあ俺の秘密のコレクションズが!人目にさらされて行くうぅぅ・・・!」
 「まだ、あるのか・・・」
  拘束をとかれ、オ〜イオイオイと私物の山に伏して泣き崩れる(ふりをする)に よってついに崩れる、私物山。忌々しげに見詰める犬神をキッパリと無視 している。
 もうこれで最後にしよう、とため息をついてカバンに手を突っ込む。表面的にはもう何も無いように見えるのだが───。
 「・・・ん?」
 ヌルリ、と、何かが手に触れた。
 そう、例えるならそれは、巨大な蛇皮の手触りで。



 ズルリ。



 思い切って引っ張ってみる犬神先生の根性に乾杯。
 半ばまで出現したそれは、太さ20cmはあろうかという、ひどく巨大な。
 
 


 清姫☆



 
 ・・・の、尻尾。
  「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・おい、
 「は、はい?」
  ペチンペチン、と滑る尾っぽで頬を叩かれ、引き攣った笑いに引き攣った笑いを返す。 右手をギリギリと強制握手で締められている。
 「これは・・・何だ?」
 「く、黒服のオジサン達が、高く買ってくれるって言うから」
 「・・・ほぉう・・・」
 眇められた肉食獣の瞳に心底怯えつつも、ガンつけに負けるものかと視線は外さない。
 数分間の睨み合いの末、凶暴な光はやがてフッと掻き消え、変わりに気持ち悪い程の爽やかな笑みが。
 「・・・い、犬神ちゃ〜ん?」
 気弱に見上げる琥珀の瞳。締めていた右手を開放し、ゆっくりと頭に手を置いた。
 そして。





 「来い」
 「い、いやああぁぁあッ許して助けてひいぃぃいいぃいぃぃいぃぃ・・・・・・ッ!!?」



 完璧なフェイドアウト。
 ガラガラ、と閉められた古ぼけたドアを見守る教室中の視線には、呆れではなく困惑がありありと浮かんでいる。
 全員の視線はやがて、教室隅のゴミ箱へと移動することだろう。

 そう。


 ガタンガタンと壊れそうに動きまくる。




 ───可哀想な清姫の捨てられた、いつか倒壊するであろうプラスチック製ゴミ箱へと───。


 

 スラスラ書けた。オチ決まってると書きやすいモノですねぇ
 いつもは書きながら考えるから遅いのか。そうか



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