強くなりたい
そう思わない事なんて一時もありはしなかった
強くなりたい
誰も彼もを守れる、そんな都合の良い強さじゃなくてもいい
ただ
自分を守れるだけの強さを─────
東京魔人学園剣風帖
信念この者かくありき
「さ んッ!」
衝撃と共に。
「比良坂ちゃ─────」
俺の目の前で貫かれた彼女の肢体。
小さな身体を目一杯に開いて、彼女が守ったのは・・・俺。
夥しい量の血が流れる傷口を見開いた琥珀の瞳で見詰め、倒れ来る四肢を未だ完全には感覚が戻らない両手で無意識のまま支える。
なんて軽い身体だろう。
自分を『守った』この人間は。
何故こんなにも軽いんだろう。
「・・・比良坂ちゃん?」
呆然とした俺に、体重が軽いのはもともとだ、とか血が流れ出ているせいだ、とか、そんな理屈は思い浮かばなかった。ただ、彼女が息をする度ヒュウと鳴る 咽喉もとに、死ぬのか、と漠然と感じて背筋が震える。
俺を庇ったせいで。
「さ ん、平気ですか・・・?」
「怪我、は、ないよ。・・・平気・・・」
平気。
違う、と思う。このグチャグチャの精神状態を平気と呼ぶのだろうか。多分、平気ではないのだ。
「平気」
それでも彼女は平気を望んでいたから。
硬直した顔面の筋肉を、必死で動かして、笑った。
力を
ただ、自分を守れる、確立した力を
激昂するのは稀なことだ。
でもその時俺にはそうするしかなかったから。
「足掻いても───おまえらは死ぬんだよッ!」
俺が殺すのだから。
拾った角材を気色悪い『敵』の心臓に突き刺して、壁に押し付ける。口から吐き出された大量の青い血が顔にかかるのも別に気にならない。目にさえ入らなけ ればいいのだ。
「」
龍麻の声にそのままの体勢で振り向く。投げ渡されたのは昔からの相棒、銀色に輝く爪甲。
心置きなく。
ザン、と光が敵の首を薙いだ。頭部は放物線を描いて地に降り立ち、そこから下は暫くの痙攣の後、崩れ落ちる。
「やりすぎるなよ。・・・後のことを考える余裕があるならな」
「ないよ」
血に塗れた自分。
仲間達の奇異を見るような視線を感じた。
恐れを抱くなら抱けば良い。本当に、そう思った。
俺を非道と言うならば。
嬉々として鬼を狩りに行くお前達は何?
そちらが厭うならもういらない。
後なんていらない。
イラナイ。
爪の装着部をしっかりと確認して、俺は再び地を蹴った。
殺すべき愚か者は、まだ大量に存在しているのだ。
他人が自分を守る
そんな事実はいらないから
炎に呑み込まれていく彼女を呼び止めなかったのは、それが彼女自身の意思であることを理解したから。
何故止めないんだと仲間に非難されても。
止める権利はないし、本当は止めたかったのかと問われてもYESと胸を張って答えられない。
呼び止めなかったのはきっと。
「」
「・・・うん」
ガラガラと音を立てて崩れる洋館。
もうすぐ警察が到着するだろう。見守ることも出来ず、立ち去ることしか出来ない。
自分はどれ程に無力かを思い知る。
『もう一度』
会えたら。
「死なないで」
生きていて。
呟きは、巨大な塊が落ちたその音でかき消された。
「・・・行こっか」
偽者の笑いを多少引き攣った完成度で浮かべ、踵を返す。
怪訝そうに、けれど何も言わないでいる仲間が、今は救いだった。
強くなりたい
そう思わない事なんて一時もありはしなかった
強くなりたい
誰も彼もを守れる、そんな都合の良い強さじゃなくてもいい
ただ
けれど
出来ることなら
Give me force or give me death
突発で書きたくなった珍しいシリアスです
っ て確か偽名があったようなとか思いつつ、何となく本名で
最後のは (ア タイ?)の造語『我に力を与えよ しからずんば死を与えよ』が日本語訳。本当は力でなくて自由なんですけど。原型は私の座右の銘その2(聞いてない)
間違ってたら笑えますなあ。forceか?
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