ぐああ、と高い断末魔が空気を切り裂く。天に向かう金髪がスローモーションで地に落ちるのを見て京一は顔を青ざめさせた。
「雨紋、しっかりしろ!」
駆け寄って握った手はまだ仄かに温かい。空気に奪われた熱とこれからひいていくのであろう血を想像して、必死に身体を揺す振った。ノロノロとその手が京
一の手を握り返す。
「お、オレ・・・様は・・・もう・・・」
「そんなことねェ!た、確か、薬があった筈だッ!」
立ち上がりかけた肩に、静かに、だが強い力を籠めて手が置かれた。
邪魔するな、と怒鳴り付けて振り向き、京一はぐっと息を呑んだ。
「諦めろよ、京一。所詮それが運命ってことだ」
タチの悪い邪悪な笑みを浮かべて立っているのは、世界を救った中心人物であり京一の親友である龍麻。・・・いや、この瞬間は既に親友とは呼べない。 次
に彼の手で葬られるのは───自分だ。
「運命なんて言葉・・・ひーちゃんが一番嫌いだったじゃねえか!」
「俺もね」
もう一人の共謀者がクスクスと笑う。凍てつく琥珀色の瞳を心底嬉しそうに細める人物の名は、神楽。龍麻の義理の妹、男装の悪魔の化身だ。
神楽の隣に座る如月も俺の隣に座る壬生も、一様に顔から血をひかせて僅かに震えていた。
「でもまあ、一人だけ助かるのも卑怯じゃない?だから、ほら、京一」
恐怖に無理矢理にでも立ち上がろうとする。視界に無念の内に倒れた醍醐の姿が入り、自ずと力も倍増した。死にたくない。その思いが、許されないとでも言
うのか!
「次はお前だ」
悪魔の宣言に力を振り絞りつつ、遠い意識の中京一は己の咆哮を聞いた。
「お、鬼―、悪魔―ッ!いつからお前ら鬼道衆に魂を売ったーッ!!」
「ビッグバンによって宇宙が構成された瞬間だな」
「やだなあ龍麻ってば。そんな矮小なモンと一緒にすんなって言ってやれよ」
羽交締めにされた京一は絶望を目の前にして騒ぎ立てる。実に楽しそうな兄妹には抵抗など無意味で。
目の前には長い箸に摘まれた、形容し難い色と形の「何か」。はい、あーん、と微笑む神楽の空気がやたら暖かいのが更に恐怖を煽った。
食い縛った歯の合間を奇跡のような手腕で潜り抜けさせられた「何か」が口中に広がり悶絶する。
想像出来る限りの生臭さとしつこさと舌触りの悪さと味覚の限界。そんなものは天国だと世界中の人間に教えてやりたいと思った。
今日は闇鍋パーティー。
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