繰り広げられる乱痴気騒ぎ。
 無数に転がる酒瓶。
 へべれけに狂った有象無象を、一体どうしたら良いのだろう。






東京魔人学園剣風帖
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 緋勇家、草木も眠る丑三つ時。
 やっぱりちゃんぽんにしたのがいけなかったのか。
 返される沈静を促す声も狂った酔っ払いどもに届く幸運はなく、更にその不幸者を巻き込んで騒ぎは拡大するばかりである。

 「・・・どうしよ・・・」
  仮にも世界を救ったという経歴を持つ高校生達が、前後不覚に陥る程べろんべろんに酔っ払っているその脇で、は 心底途方に暮れていた。

 酒に強いとは言えない京一が、体育座りにひっそりと涙を拭いつつ般若心経を呟いている。それはいつもの事だ、どうでもいい。
 だが慣れている筈の村雨や、自己セーブが命の如月。彼らが押入れにギッチリ詰まって大笑いしながら前世からの友人のごとく仲良さげに語り合っているのは 何故だ。忍者よ、その片手のお玉を手放せ。お前のうちの物じゃない。

 酔っ払い衆は総勢8人。
 前に挙げた3人にプラスして、ヨヨヨとハンカチにアイロンを掛ける乙女醍醐雄矢、素ですら迷惑極まりないのに更にパワーアップして剣をぶん回す霧島諸 羽、中国語で人形に虚ろな目を向け何かを捲くし立る劉弦月、何が作用したのか毒状態に陥った上でドッペルゲンガーと友情を交わす紫暮兵庫、そして。


  の 顎に指をかけ、柔らかに上を向かせて視線を合わせる壬生紅葉。


 はは、と乾いた笑いを漏らす自分は、鳴滝に言わせて見れば「修行が足りない」のだろう。どうしろと言うのだ、この状況で。
 この無駄に熱い視線を誰か出来ることなら今すぐに消して欲しい。潤んだ目を刳り抜いてやって欲しい。陶磁器のような肌の上、薔薇色に染まった頬にビンタ の一撃でも見舞ってやって欲しい。

 兄は、龍麻はどこへ行ったのだ。ツマミを買ってくると出て行って。2時間は軽く過ぎて、妹はこうして健気に酔わぬよう頑張っているのに!


 ─────逃げたに決まっていた。








  「・・・」
 陶酔した声音で名前を呼ばれ、全身に隈なくサブイボが出来上がる。
 声は良い。本人の声自体は低く響く良い声だとは思うのだが、いかんせん普段の言動との凄まじいギャップがそれを精神的ダメージに換算させてしまうのだ。
 「あの、壬生くん」

  ここで頬を染めてうっとりとでもすれば、もしかして奇跡的にラブシーンにでも見えるのだろうか。ふと下らないことを思い付いて、の 頬は一段と引き 攣った。
顔から血がひいているのは自分でもわかっている。退いた身体が仇となり、軽く伸し掛かられて奇声を発しそうになった。
 「頼むから離れてくれないかなあ、そんなに酔ってないっしょ?」
 「酔ってるよ・・・君の魅力にね」
  また一歩顔を近付けて恍惚と囁く。顎にあった手が頬に移動したことに、は 気付かない。

 ・・・何というか、いっそ傍から見て可哀相になる位怯えていて。
 「あ、ありえないから!そっちの酔っ払い沈めないといけないから、どいて?」
 ね、と控えめに指させば。

  「ー! 大衆の前でイカガワシイ行為をするような子に育てた覚えはないぞーッ!」
 「きょういちセンパイのみならず手を出すなんて、最悪です!」

 うおおんと男泣きに伏す醍醐が視界の端に見えた。ついでにこちらに向かってサーベルを突き出す霧島も。

  シピピピッ、との 身体から1センチ弱を離れた位置ばかり攻撃してくるのは、果たしてわざとだろうか。酔っているにしては恐ろしく正確な剣 捌きであ る。勿論、壬生にもヒットしてはしない。
 「うお、こら危ねえ!?」
 「ふ、よけるなんて、さすがでふね!」
  微妙に舌足らずなのは言うまでもなく酔いのせいだ。ふらふらと千鳥足で踏み込んで、ついにの 上着を貫く。

 「いいから寝てろ酔っ払い!」
  いい加減に危険だと判断を下し、相変わらず壬生を纏わりつかせたままに鋭い足払いをかける。小気味良い音を立ててぶつかった霧島の足は、アルコールに 弱っていた。カクンと膝が折れ、続いてに 比べればでかい図体が崩れ落ちる。
 顔面から突っ伏した霧島は、その後あっけなく動きを止めた。

 「・・・酔っ払いはこれだから」
 「おめェもだ、離れろ」
 体勢を変えてデロリと真顔で腰にぶら下がった壬生。その姿が非常に見苦しいという事実は、彼が酔っ払いであるが故に進言しないでおいてやろう。背筋が寒 くなるようなセリフを吐かないでいてくれるなら、もう今日は何も突っ込まないでおいてやるから。








 「ほら、醍醐も、あっちで寝な?」
 「うう・・・いい子に育って・・・」
 「はいはいお母さん」
 「義母さん、娘さんを僕にください!」
 「ペッ、だれがお前なんかに大事なむすめをやるかよ!」
 「うるさいよ京一」

 比較的扱い易い醍醐を客間の隅に追いやって毛布を掛ける。ついでについてきた京一を手刀の一撃で沈没させて、醍醐から少し距離を開けて転がした。
 寝ていても煩く寝相の悪い京一と慎ましやかな醍醐を一緒にするなど、可哀相だ。どちらへのかは考えるべくもない。

  「〜・・・」
 「あーはいはい。いいからこれ持って、大人しくしてろ」
 未だ縋り付く壬生に一升瓶を抱かせたら、無言で飲み下し始めた。これ以上酔われるのも困るが・・・中途半端に戻ってさっきのように言い寄られるのは本気 で勘弁して欲しい。酔うなら最高まで逝って、潰れてしまえ。





 「・・・さて」
  部屋の惨状に目を逸らしたくなるのを必死に堪えて、は 小さく溜息を吐いた。

 まず、押入れにブスブス穴が開いているのは、如月と村雨がガキンチョのように北斗の拳ごっこを始めたせいだろう。早々に落とさなければ。
 押入れから出てきていた分、そうと決まれば対処は早い。

 童心に返った2人の名前を呼べば振り返る。気を抜いた瞬間に両手で同時に目を潰す。ぎゃああ、と悲鳴を上げて転がる2人を容赦なく蹴り上げて、気絶させ た。
 流れるような連続技。パチパチと背後から聞こえた拍手はきっと、壬生のものだ。

 (フスマ、かえないとなあ・・・)
 取り敢えず始末した二人の襟首を掴み、引き摺って客間へと移す。
 リビングにはあと2・・・いや、3・・・2人。
 「劉くん、は・・・なんか放っといてよさそうかな」
 隅っこで人形に喋り続ける姿は不気味ではあるが、片付けに邪魔という程でもない。逆に邪魔したら呪われそうだし、と適当に理由を付けて放置を決定した。

 という訳で残り1人・・・と、ドッペル。
 「「唸れ上腕二等筋!」」
 いつの間にか腕相撲を始めた2人・・・1人・・・いいよもう2人で。
 むう、と顔を赤くして力む姿を暫し見守る。どれだけ頑張っても、やはり同一人物であるのだから決着はつかない。今後ろから狙撃しても構わない気はするの だが、なんとなく真剣な姿に気がひけた。
  ギリギリと力を込め続ける2人を見守ること3分。そろそろ疲れてきたのか息を乱す2人に、は やっと声を掛けた。

 「紫暮・・・やめない?」
 「「うむ、そう思い始めていた所だ。茶をくれんか?」」
 「あげたら寝る?」
 「「応ッ!」」


 ───以外にあっさり収拾が付いて、安心した。









 「終わったね」
 「ああ、壬生くんまだ寝てなかったの」
  酒瓶とゴミの始末だけを済ませて部屋に引っ込もうとしたは 眉を寄せた。まだ酔ってんのかなこいつ。是だとするともう相手にはしたくなかった。
 「実は今から仕事なんだ」
 「・・・今から?だいじょうぶ?」
 「酔ってないからね」
 飄と言う壬生に更に顔を顰める。先程の失態を考えて、まさか大丈夫とは思えまい。止めた方がいいよ、と進言すると、見下したように笑われた。

 よれていた服はきちんとしたものだし、顔色も普通。言動は・・・いつもわからないからわからない。視線はいつもと同じく冷たく、足取りも・・・。

 「・・・ちょっと」
 ふと、思い付く。
 酔ってないからね。現在進行形である。酔っていないのは、まあ、わかる。これなら仕事も平気そうだと思われる。


 ・・・あの状態から、この短時間で回復するものだろうか。


 「今更気付いたのかい?」
 「まさかああくるとは思わんよ!ああ畜生、やっぱ蹴ってやればよかったッ!」
 「食らうとでも」
 酔ってなど、初めからいなかったのだ、こいつは!

 嫌がらせ。足の引っ張り。イラつかせようと─────そんなことでプライドかなぐり捨ててまで演技するようなキャラだとは思わんじゃないか。怯え損、気 の使い損だ。冗談じゃない。





  普通に悔しがり地団太を踏むに 嘲笑を浴びせ、壬生は身を翻した。
 見栄えより攻撃力に選んだローファーを靴箱から引きずり出し、靴すら優雅な動作で履く。チェーンと鍵を外し扉を静かに開けるその憎らしい姿といったら。
  颯爽と玄関を後にするその後姿を睨み付けることしか出来ず、ひたすらに歯を食いしばり、は 決意した。




 ───もう絶対、うちでは飲み会開くもんか。




 出て行け、と言えない辺り、まだまだ甘いものである。




久しぶりの魔人部屋更新
実はココ用に書いてたや つを頑張って30題に当てはめて移動させてたせいです。これもどうにか何かに当てはまらないかと悩んだのは、ナイショ
霧島のシリアスが書きたいなあと思いつつ書きました。・・・何故・・・
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