修行場から少し距離を置いた、荒野で。
「あいつ昔、ピッコロ大魔王って呼ばれてたんだぜ」
ヤムチャの声に神楽は上空を見上げた。
見えるのは悟飯と過激な修行を繰り広げるピッコロの姿。その素早い動きに目が追い付くようになったのは最近である。ポットからコップにお茶を移し、吹き
冷
ます。
「だいまおう?」
「地球を征服しようとしていたんだ」
こちらは天津飯の言葉で、そうそう、とヤムチャも頷いた。
「凶悪で、容赦なくて───今もだけど───本当『大魔王』って感じだったよな」
陰惨だった当時を思い顔を顰めても、少女の反応は見られない。二人が神楽を覗き込むと、何やら思案顔で上を見続けていた。首を傾げて真剣に。
顔を見合わせつられて見上げる。
「「・・・あ」」
抱き着いた悟飯を必死に剥がそうとする、間の抜けた彼女の師がそこに居た。
「う、嘘じゃないからな!」
「別にいいですけど・・・」
あれではどう考えても「大魔王」の姿とは思えないな。言外にそう述べた神楽に向かい、ヤムチャは焦って弁解する。
「まあ・・・大魔王だったから忌むとかもないですし」
「ほう?」
やっと飲めるまでに冷めた茶を啜る少女を見遣り、天津飯は目を見張った。
神楽は凶悪、という言葉の裏に「殺し」を連想出来ない人間ではない。普通の人間ならば嫌悪を顕にするだろう事実を知っても、顔色一つ変えないのは無神経
な
のか、はたまた余程根性が座っているのか。
理由はどちらでもなかった。
確かに昔は知りませんけど、とワンクッション置いて。
「今のピッコロさんは、悟飯くんが望まないことを出来るような甲斐性ないですから」
だから今は無害でしょう?
あっさりと述べた少女に、呆然とするより早く、畏怖すら覚える。言ってはいけない本質を。女が怖いのか神楽が恐ろしいのかは定かではなかった。
「年はとりたくないですねえ」
ほのぼのと呟く。年じゃないだろ、と突っ込みを入れる気力はすでにない。
今は無き「ピッコロ大魔王」を見せてやりたいと思った。
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