(いつだったかのTOP絵より)
上質極まりない天蓋付きベッドで、神楽は深く眠っていた。修行に行く気は一応あったのだろう、懐かしいオレンジ色の胴着を纏ったままに無防備に。気を使
うでもなく悟飯はベッドに乗り上がる。ギ、と音を立ててスプリングが身を縮めた。
「神楽さん」
傍らに座り込んで名を呼んでも彼女は目覚めない。昨日の修行はそんなにきつかったかな?考えてもどうせわかる筈もなかった。何故なら悟飯は人間外。基本
からして体力が桁外れに違うのだから、神楽の疲れなど予想も出来ない。
「神楽さーん」
健やかに曲線を描く眉がピクリと揺れた。けれど反応はそれだけで、身体本体は動きもしない。殴り起こしたら逆に永眠するかな。物騒な思いを胸に、眉を寄
せて少女の顔を見詰める。
彼女の顔をこうも間近に観察するのは初めてな気がする。こうして大人しく眠りこける顔は意外に整っていた。絶世の、とは到底言えないが、それでも確実に
「標準」よりは上の容姿をしているのだろう。
形の良い眉。それと目と鼻と口がバランス良く配備されている。髪は日に焼けもせず、出会った当初のままに漆黒に艶めき、シーツのクリーム色と調和してい
た。触ってみると柔らかく、指を絡めるとサラリと逃げる。
視線を横に流す。何も上に掛けず寝ている神楽の、伸びやかな肢体が横たわっていた。この間「乳が小さい」とか何とか言っていた気もしないでもないが、均
整のとれた身体は綺麗だと思う。───決してやましい気持ちは入っていない。
見た目は結構に綺麗だけれど、それでも悟飯には物足りない。つまらない。だから、今日はピッコロがいないのだからこのまま寝かせておいても良いのだけれ
ど、起こさずにはいられなかった。
「神楽さんってば、起きて下さい」
瞳が見えない。
神楽を象徴する、優しく、厳しく、柔らかく、鋭く、全てを飽和する光を湛えた、琥珀玉が。
あの瞳が好きだった。あれがなければ神楽ではない、とまで思っている。鮮烈に表情を彩り、くるくると良く動く強い瞳。性根を表すような深さで相手を威圧
し、笑うと優しく光彩を揺らして他人を安心させる。
その存在感を思うなら、琥珀を隠した神楽はまるで人形とさえ見紛うものだ。
「もう。気配で起きるくらい、して下さいよ」
う〜、と唸りを上げて神楽の手が動く。起きるか、と期待したけれど、ただ位置が変わっただけだった。
ふと気紛れに少女の眼前に手を翳す。起きたときに顔に日の光が当たっていたのなら、きっと彼女は起床をさらに愚図るだろう。
「・・・早く起きないと魔閃光ですよ」
囁いて、焦がれる乙女のような己の思考に気付き、悟飯は思わず憮然となった。
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