たまにこういうことがある。
悟飯が勉強面でわからないことがあり、神楽もわからなかったとき。あるいはトランクスやら悟天やらの勉強を教えるために教材が必要になったとき。 今回は前者であり、状況としては落ち着いたものだ。なんせ、後者であったならば何故だか付いて着たがるガキ共を大人しくさせることに尽力を注がなければいけないから。 そういうわけで、図書館。
「神楽さん、見付かりましたー?」 レポート用の資料が必要なんだそうだ。こいつは神楽が聞いたこともない事象を名前だけで探せとか無茶を言うから困る。大雑把な内容くらい知っとけ。ジャンルでも探せないし、細やかなことに過ぎて検索もヒットしない。 「ないよ。ないない。帰っていい?」 「手伝って下さいよ。夕飯でも奢りますから」
「いらなーい。夕飯を奢って貰えるってのは、年下、高齢者、あとは凄く綺麗なオネーサマかオジョーサマの特権だと思ってるから」 「僕、神楽さんのそういう身を弁えたところ大好きです」
「ありがとう。帰っていい?」
「手伝って下さいよ。夕飯でも奢りますから」
司書の目を憚りながら軽口を叩いて退屈を紛らわす。何だかんだと言いながら結局手伝っちゃう自分が嫌い。
本を取っては開き、目を通しては戻す。半日かけて図書館を回っても掠りもしない単調な作業にはもう飽き飽きで、手にした本を元の場所に突っ込んでから次の本を取るまでに随分と間が空いた。 無意味に本の背表紙に指を滑らせて。
手が重なる。
「あ・・・」
「あ、ご、ごめんなさい・・・!」
弾かれたようにお互いが手を引いた。反射的に見合わせた赤い顔をすぐさま逸らす。そわそわとした態度のまま作業に戻った2人の空気は、どことなく浮いていた。 段の続きの本を取り上げて、紙面に目を落とすより先にガタガタと鳴った物音を横目で見遣る。上段の本に手を出すんだろう。ここは良い図書館ではあるが、生憎と書架が高すぎて脚立なしには上3段には届かない。それは神楽よりも背が高くなった悟飯も同じことで。 「わ・・・!」
ふと視界の端で動くものがあって顔を上げる。
倒れてくる脚立、一緒に落ちて来る数冊の本と───悟飯。
「う、わ」
手にした本を放り投げ、脚立を足蹴に遠くへやって手を伸ばした。なす術もなく乙女のように落下する悟飯の身に手を掛けて、思い切り引っ張る。腕の中に納まった悟飯を庇うように手を翳し、降り注ぐハードカバーを払い除けた。 「・・・大丈夫?」
暫しの葛藤の末、胸に抱き締めた悟飯に声を掛ける。わっと勢いよく腕を回して抱き着いて来た身体をどうにか受け止めた。 「神楽さん・・・僕・・・僕、怖かった・・・!」
「悟飯くんの顔に傷がなくて何よりだったよ。今度から気を付けなさい」
優しく立たせて埃を払う。散らばった本を拾い集める神楽を、悟飯はうっとりとした瞳で見詰めていた。脚立を戻して登り、本を適当に書架に突っ込んで。
「・・・図書館満喫したところで、悟飯くん余裕そうだから帰っていい?」
「だって神楽さんがノリいいから」
王道は経験しとかないと、という悟飯の頭に、一際分厚い本を落としてやった。
正直楽しかったことは認める。
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