SSS
 

 「わ、わ、わッ」
 わたわたと暗雲を突き抜ける。塞いでいたとはいえ、それなりに近くで響いた雷の怒号を受けた耳が痛い。
 震えのくるような不快感。多大な水気を含んだ服を肌から引き剥がすと、少しはそれを軽減出来た。
 「うえー、いきなし降ってくんなよなー」
 梅雨だから、といったらそれまでだ。口中で不満を漏らしつつ、勝手知ったる何とやら。神の住処に土足を下ろし、長時間発動し続けた舞空術を解く。水から 上がった時のような身体の重さに顔を顰めた。ふるり、と頭を大きく振り、髪に纏わりつく水を雑把に落とす。
 「・・・さぶ・・・」
 服の裾をやはり適当に絞り、大股に神殿内部へ。ここも何となく湿気が高い。
 「デンデー、いるー?」
 奥へ奥へと足を運びながら声を上げる。遠くの方から返事が響いた。
 半ば駆け足に近付き、一室の中をヒョイと覗き込み。
 「悪いんだけどさ、タオルちょうだ・・・」
 思わず“それ”を凝視した。

 「・・・どしたの、それ」
 「外の花壇にいたんです。可愛いでしょう?」
 「か、可愛い・・・ねえ・・・」
 やけに嬉しそうなデンデの頭部をそれとなく注視。視線をぎこちなくスライドさせて、花壇にいたとかいう拾われ生物を見る。

 ─────カタツムリ。

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 心の底から湧き上がるむず痒い感情に、何とも言えなくなった。微妙に微笑ましいとも思う。
 でも。
 「あ、何するんですか!?返して下さいよ!」
 無造作に殻を摘み上げた。慌てて手を伸ばすデンデから遠ざける為、手を高く掲げて。
 目の前でピョンコピョンコ揺れる触角から、痛烈な「何か」を堪えるよう固く目を閉じた。

 (・・・親子みたいとはさすがに言えない)
 腹筋の引き攣りを必死で押さえ口を噛み締める。
 心置きなく爆笑するにはデンデはあんまり純真だから、ちょっと我慢しておこう。

 帰って来たピッコロに、やっぱり容赦なく殴られた。


   
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