例えばの話。ふと不安になって、僕はゆっくりと考えた。
そう、本当に下らない、例えばの話。
「例えば、願いを10個叶えられる神龍を創れるような人がいたとしたら、神楽さんはやっぱりその人が神になるべきだと思いますか?」
「・・・あん?」
吐息のような囁きにたっぷりとした沈黙が返った。果てしなく怪訝そうな顔で、口元に近付けたカップに息を吹きかけた体勢のまま硬直する神楽さんに、僕は
再び問いかける。
「僕より神として優秀な人がいたら、僕はやっぱり帰るべきでしょうか」
更に沈黙。盛大に眉根を寄せて紅茶を一口神妙に啜る。
小首を傾げて。
「帰るっていうと、ナメックさん達の住処か」
「ですね」
コクンと頷くと、彼女は口を尖らせて不服そうに低く呻いた。
「・・・帰んの?」
「いえ、だから、帰るべきですか、と」
陶器のカップがソ−サーと擦れる音が静寂に波紋を落とす。だらしなく、浅く椅子に腰掛けていた神楽さんが、座りなおすついでのように心持ち身を乗り出し
た。
「神ってさ、今んとこ、ドラゴンボール創って維持してるだけだよね」
情けないことに。口に出すのも恥ずかしかったので、再び控えめに頷く。すると彼女はまただらしない姿勢に戻るべく、全身からだらりと力を抜いたようだっ
た。カップの取っ手を弄ぶ。
開いた口は、どうということもないように意見を述べた。
「なら、交代しても害はないよね。多分」
ドキリと心臓が跳ねた。事もなげに響いた一言に、想像以上に動揺する。袖に隠れた小さな手を無意識に握り締めた。
目を伏せて、少しでも動揺が隠れることを期待する。鋭い彼女に対しては無駄だろうけれど。平静を装ってなお言葉を募る。
「じゃあ僕は」
「デンデ帰りたいの?」
「え」
帰るべきですね、と口にする前に遮られた。問いに、首を大きく横に振る。
「でも、そしたら僕がここにいる意味が」
「地球は好きだよね」
またしても遮られる。今度は疑問形ですらなく断定。それでも今度は縦に、何度も、しつこいくらいにブンブンと振りたくった。そう、と一つ満足気に頷い
て、神楽さんはニッコリと笑う。
「なら帰ることないよ。交代したってデンデに帰らないといけない義務はないんだし、ずっとここにいればいいさ。ついでに私はデンデ好きだから、いてくれ
ると私は嬉しい」
シンプルな言葉に胸が張り裂けそうだった。
ゆったりと子供に言い聞かせるような調子で言った後、かなり冷めた紅茶をまた啜る。少ない中身を一息に飲み干して、おかわり、と、カップを差し出した。
何気ない顔をしつつも少しだけ頬が赤い。好き、と流した言葉を真剣に嬉しがられ、今更ながらに照れたようだった。
クスクスと笑いながら席を立つ。自分のものもついでに取って、二つのカップを手に扉を開け─────
「─────デンデが神であることとデンデがいる意味の関連性は、思っているほど強くはないよ」
風のように届いた言葉に、僕は心からの笑みを浮かべた。
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デンデ、ドラゴンボール復
活の為だけに地球に連れてこられたようだったものだと気付いちゃったので、ちょっと自分内救済話 |
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