SSS
 

 わーお、と歓声を上げる神楽を、彼らは珍獣を見るような失礼な目をして睨み付けた。どうということもなく、こちらこそただ珍しいなあと思っただけなの に。
 「坊ちゃんよう…今の状況わかってて笑ってんのかい?」
 「わお」
 強面というには迫力の足りない1人のチンピラが腰を折ってこちらに近付きながら上目遣いに凄む。それが×5人。実に迫力がないなあと感じるのは、きっと 普段周囲を固めるメンツの目付きの悪さゆえだろう。
 「ありきたりー」
 だからというか当然怖くない。わははとあからさまに笑ってやると、こめかみをヒクつかせて懐を探り出した。再び同じセリフを繰り返すと同時、取り出され た手には、薄暗い路地でなお輝く───ナイフ。
 街をブラついていたら5人の男に路地裏に引っ張り込まれた。暇だったから抵抗するでもなく用件を伺ったら、案の定、いわゆる「カツアゲ」のためだとい う。神楽は今までにカツアゲにあった体験はないが、ドラマなどで見るワンシーンに非常に酷似したこの一連の流れは、とてつもなくありきたりだという認識が あった。
 敵意だけでなく殺気までもを醸し出し始めた男たち。それを前にして笑顔を見せる神楽もまた、ある意味ではオリジナリティのないセイギノミカタ演出ではな かろうかとか。思わず苦笑して呟く。
 「ナントカの一つ覚えじゃないんだから、もうちょっとオリジナリティってものをさあ」
 「てめえ…」
 「うん?」
 ざわりと増した殺気の束に瞠目した。囲んだ5人が5人とも、鋭い刃物を腰に構えている。口を開けて数秒、ようやく自嘲を己に向けられたものと勘違いした のだと理解した。
 「え、違うって。別にあんたらに言ったわけじゃないよ」
 「白々しいぜ坊ちゃんよ、いいからさっさと財布出しな!大人しく出したらボコるだけで済ませてやらあ!」
 絶対それじゃ済まないと思う。
 随分とハイテンションになった男たちを困惑と共に眺める。交渉は決裂(そもそも交渉する機会すら与えられなかったけど)、宥めるのは不可能。
 ならば神楽がすることは。

 「…しかたないよねえ」
 唇に人差し指を当てた思案の結果、神楽はふっと笑って口を開いた。
 「目には目を、歯には歯をってことでひとつ」
 「は?」
 拳を固める。半身を引いて突撃の構え。右手右足を引いて、左手をゆるりと前に差し伸べた。動作の一つ一つを律儀に見守るチンピラ衆には愛しさすら覚えそ うだった。
 闘う意思を見せた神楽を呆然と傍観した彼らの意識が、中途半端に空を彷徨う左手に集中した。
 目を細めてニタリと笑う。
 「君らのサイフは、そのすくなーい脳みそ低度の重量はあるのかな?」
 形作られた下卑た笑みと嘲りの言葉。そして中指だけ残して折り曲げられた指での下品なジェスチャー。神楽の示した真っ向からの挑発を理解するのには時間 がかかったようだった。
 沈黙が数秒。
 「く」
 硬質が擦れる音。歯軋りと呼ばれるまたまたわかりやすいリアクションを過ぎ。

 「クソがきがあああああああああああああああああああッ!」
 「はっはー!比べる対象が軽すぎるかなごめんねー!」

 茹でタコの出来上がるまでの時間は、存外心踊るものだった。
 その後の結果は別として。



 「神楽さん、どうしたんですか?シケた顔して」
 「予想以上に成果がなくてさあ…財布じゃなくてポッケに直入れって邪道だよね。今度はもっと持ってそうなの自分から狙ってみようかな」
 適当に芽生えた新たな趣味。
 後の「元祖グレートサイヤマン」という屈辱のあだ名を付けられる一つの由縁である。


   
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