SSS
 

(拍手リク:ピッコロと神楽でラブが見たい)

 さらりと手を動かす。羽が掠めるような弱さで頬を撫でられた感触に僅かに顔を顰め、またすぐに穏やかな眠りに落ちる。神楽は目を細めて笑った。
 暖かな日が差す部屋で、ベッドも、椅子もあるというのに床に座って寝こけるピッコロ。重たげなマントも外さずに眠りについたのは、何も周囲を警戒してい る表れではないだろう。外す小さな手間よりも眠ることを選んでしまうほどに眠気が強かった証だ。
 想像の中の微笑ましさにまた小さく笑って、掌を移動させた。緑の肌に触れるか触れないか。そんなもどかしい距離を保ちながら輪郭を辿り───大きな手に 触れた。

 口の端に名を乗せる。馴染みの響きは、まるで幼い頃から傍らにあり呼び続けていたように自然に空気を震わせた。しかし起きることなく健やかな寝息を立て る彼に、神楽は瑣末な寂しさを滲ませた。
 二度、呼ぶ。どうしようもない気持ちを込めて。
 返事はなく、目も開かない。少しだけ眉を寄せて、触れた大きな手をそっと握った。
 冷たそうに見える肌は、実はそうでもなく意外に温かい。胸に生まれた複雑な思いに、手を放───そうとした。
 「・・・神楽・・・」
 握り返された手と呼ばれた名前に驚愕して顔を上げる。彼は起きてはいなかった。ぐっすりと夢の中に意識を預けたまま、ムニャムニャと口元を動かす。
 「神楽・・・」
 再び呼ばれた自分の名前に思わず頬を染めた。色を変えたそこに暇な手をやって、堪えきれずに顔を歪ませる。
 唇を噛んでしばし硬直した。困った。ふらりと行き場のない視線を泳がせて、流し、戻す。

 彼は、ぐっすりと、眠っていて。
 神楽は意を決して、震える唇をそっと彼に寄せた。
 「ピッコロ、さん」
 高鳴る鼓動にいくつもの言い訳をしつつ───。



 「うわ───!もうダメ、マジだめ!これ以上はホント勘弁して下さいブルマさんッ!」
 「なによだらしないわねー。接触チューくらいガッツリいっちゃいなさいよ」
 超至近距離から響き渡ったお馴染みの声で、ピッコロは眠気に抗う間もなく飛び起きた。
 赤と青の顔色を器用にも交互に操りながら頭を抱えて喚く神楽。距離は異常に近い。扉の陰から上半身を出してこちらをニヤニヤと眺めるブルマ。遠い。
 あまりにも状況が把握できなくて、寝ぼけ顔のまま固まることしかできなかった。

 「ブルマさんならまあベロチューするにやぶさかでないけど」
 「じゃあ私だと思って」
 「緑のブルマさんは愛せない!」
 えー、とベジータの妻が不満の声を上げる。さっぱりわからない。
 「罰ゲームならせめて悟飯くんでお願いしますよ!ちょっとこれはボーダーが高すぎる・・・」
 「嫌よつまんない。じゃあポポね」
 「そんなら悟飯くんよりいいや」
 「ほんとに・・・!?」

 「───何の話だ」
 頭上を行き交う理解不能語に苛立って、我慢の末呻くように声を上げた。普段の攻撃対象が、殴ってくれと言わんばかりに目の前で無防備に膝をついているこ の事態。よく手が出なかったものだと我ながら感心する。
 声を聞いた瞬間、弾かれたような勢いで、それこそ不意打ちの攻撃をあわや食らうかという勢いで二番弟子がこちらを向いた。
 「・・・・・・!」
 琥珀の瞳が見開かれる。開いた口が塞がらない、だらしがない姿に眉を顰め。

 「・・・まずは口を閉じろ」
 「──────ッ!?」
 見苦しさに親切心から手を伸ばして口を塞いでやると、神楽の顔が真紅に染まった。掌に、一文字に引き締められた唇の感触。訝しく思って表情の変化を見守 る、と。
 じわり、と目尻に浮かんだ水の珠にぎょっとした───せいで対応が遅れた。
 横面に、状況が状況ならば褒めてやりたいほどの強烈な一撃。神楽の膝が飛んだのだと理解した次の瞬間には、流れるような第二撃が脳天にヒットした。同じ 足の膝と甲。それでこれだけの威力が出せるのだという事実は新発見だ。見事なバランス感覚とピンポイントに標的を狙える命中率の高さを誇る神楽だからこそ できる芸当だろう。
 傾いだ頭で考える。たかが人間とはいえ、自分たちから修行を受けた者からの頭部へ激烈な攻撃は響く。
 「古典的療法により記憶を失え───ッ!」
 うわああん!と泣き声を連れて逃げた背に反撃できなかったのは、ピッコロにとってあまりにも。

 「ちくしょー屈辱だー!」

 俺がだ。
 遠くから聞こえた一言に反撃の狼煙を上げるべく、ゆうらりと立ち上がった。
 ブルマはとうに消えていた。

 突っ込むべき表現に突っ込むこともできない小説はもう二度と書かないことを誓います。

   

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