あ、とか声がしたから振り向いた。だって、誰もいなかった空間に誰か来たら、普通気に
なるじゃないか。
扉を開けたまま呆然と佇んでいる悟飯の姿に思わず顔を顰める。出来れば今は入って来て欲しくなかった。まずどう対応しようか。迷った結果、とりあえず手
に
取ったティッシュを先にどうにかしようと詰まった鼻を解消して捨てる。少しスッキリした。ついでにもう一枚取り上げて、目尻を拭う。
「か、神楽さん、どうしたんですか!?」
どうしたもこうしたも、見た通りだ。泣いてるんだよ。お前相変わらずタイミング悪いな。
どうして人間、泣くと一緒に鼻水垂れてくるんだろう。人体って時々無駄に連動するから不思議だ。すん、とまたしても早速詰まってきた鼻を啜る。
「タマネギ切ってたら、涙出てきちゃって」
「泣いてまでそんな嘘吐いて・・・本当はどうしたんです」
いや、本当だよ、本当なの。
いつもだったら痛いなあで終わるのに、本日はどうも目が疲れていたのか誰かの呪いが発動したのか、涙腺がぶっ壊れたみたいに涙が溢れて止まらなかった。
辛
いと言えば辛いが、しかしそれだけの話。そんな真剣な顔をして詰め寄られる覚えは毛頭ない。
だから悟飯くん、肩を掴んだその手をちょっと放してくれないか。痛いし顔も近いし。
「体調でも悪いんですか?だったら遠慮なく言って下さいよ。わかってたらご飯作って何て無理言わなかったのに・・・」
いたって良好だから、こっちが罪悪感覚えるような居た堪れない顔をしないで欲しい。日頃の爛漫さが顔から抜け落ちて、ハの字の眉が心底神楽を心配してい
る
のがよくわかる。いつもその良心を持ち合わせておけとは言わないから、とにかく話を聞け。
「だからね、悟飯くん、タマネギが」
「それとも誰かに何か言われたとか!心ない発言したのは誰ですか?いくら鋼の心臓を持つ神楽さんだって、傷付くときももしかしたらあるかもしれないの
に!」
今お前の発言に傷付いたよ。いいから話を聞け。
「これは・・・!何の天変地異の前触れだ!?」
また厄介なのがやって来た。嫌々戸口を見れば、お馴染みピッコロの緑色が目に優しい。疲れてても師匠の肌を凝視することはないから、特に出番はないよ。
帰
れ。
「ピッコロさん、神楽さんが!」
「な、何があった、まさか修行が辛かったのか!?ああ明日の修行は腕立て伏せ1000回で許してやるから、その目から垂れる不気味な液体を早く止め
ろ!」
それも嫌だし不気味な液体発言に傷付いたし。止めたいのか溢れさせたいのかどっちかはっきりしろ。
「・・・いや、タマネギがね」
「タマネギ?タマネギとはどいつだ!?待っていろ、跡形もなく消滅させてきてやる!」
「タマネギに中傷されたんですね!?安心して下さい、僕ちょっと行って殲滅してきます!」
言うが早いか、我先にと窓から飛び出して行く二人を胡乱に見送る。あいつらは一体何を敵として想定したんだろう。タマネギか。ユリ科ネギ属の多年草、硫
化
アリルが主婦の敵のタマネギなのか。農家の皆さん襲撃食らったらごめんなさい。私のせいじゃないよ。
馬鹿じゃねェのあいつら。
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