パキリと軽快な音を立てて砕けた欠片を咀嚼する。甘すぎることもなく、苦すぎることもない。それは自分の口には物凄く合ったものだったけれど、イマイチ
しっくりこないのは、やはり前年の例があるからだろうか。
微妙な表情を浮かべて、そっけない様子で新聞を捲くる少女を見る。すぐに気付いて琥珀の目を向けた神楽が、なんでもない顔をして首を傾げた。
「ん、何、おいしくない?」
「・・・いえ、すごーくおいしいんですけど・・・」
そりゃ良かった。さらっと言ってまた記事に目を落とす。本当にどうも思っていないようで、それがまた微妙だった。
2月14日。今日は彼女の世界ではバレンタインだとかいうイベントの日なんだそうだ。去年そう言って、大量のチョコレートを生産して、こっちにはそんな
習
慣がないんだと知って、無駄足踏んだと落ち込んでいたことをしっかり覚えているから間違いない。あのときには変な凝り性を遺憾なく発揮して、見事なトリュ
フをご馳走してくれたものだ。
そして今年の2月14日。二度の無駄手間を働く彼女ではないから、悟飯と、特に未知のイベントにご満悦だった子供二人とで頼み込んでチョコを作って貰っ
た
のだけれど。
「その、一つ聞いていいですか」
「リクエストの通りちゃんとめんどくさくも手作りだよ」
「・・・質問がわかってるなら、何でわざわざこんな形なんですか。わざわざ作らせるなとか、そういう抗議を込めた嫌がらせですか」
最後の一欠けらを口に運び、噛み砕いて飲み込む。もうひとつ、と手を伸ばす先にあるのは、一見ただの───板チョコ。
「失礼な、そんな遠まわしな意思表示しません。嫌なら嫌だとちゃんとわかるように、食物に相応しくない材料投入するさ」
「頼むから言語による伝達の努力をして下さい」
「そんな」
つまんない、という音にされなかった言葉は、不思議と確かに悟飯の耳に届いた。思わず顔を引き攣らせた自分にはきっと罪などないはずだ。
何とか感情を押し殺して板チョコのブロックをひと齧り。
「・・・それで」
「ああ、うん」
新聞に注がれる視線を動かすこともなく板チョコに手を伸ばし齧る神楽。1口2口と齧って、ふいに顔を歪めて茶色い物体を置いた。慌てた様子で並々注がれ
て
いた渋めの紅茶を一息に飲み干す。
まさか、と気付いてチョコを手放した。
「ロシアンブロック・・・!」
「単なるハバネロ大量投入チョコだから、人知を超えて辛いだけだよ」
十分ですよ!と叫んだ声は、背後から響き渡った年少2人の雄叫びによってかき消された。
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