12月。
「神楽さん、クリスマスに欲しい物とかありますか?」
身体を折って呼吸を整える少女に、悟飯は息も乱さず尋ねた。
質問の意図が攫めないらしい表情。寒い中汗を垂らし訝しげな視線を送る神楽に、悟飯もが眉を顰める。
「クリスマスって、知らない・・・ことは無いですよね」
過去、共通の師匠をからかったときに彼女の口から聞いた覚えがあった。
「それは、知ってる、けど」
ふー、と長く息を吐いてリズムを調節した。袖で汗を拭い、身体を伸ばす。随分と慣れたものだ。修行の初めの頃は立ち上がることすら困難な様子だったの
に。
「何でまた急に?」
上着を取って首を傾げる神楽は、どうやら本当にわかっていないようだった。説明に困って頬をかく。神楽も身形を軽く整えつつも帰る気はまだないようで、
岩に背を預けて待っている。
「何かあげるべきかな、と思って」
「敢えて言うなら平和が欲しい」
「それ前も言ってたじゃないですか」
更に困って言った。あげられる物ではないのだ。それはピッコロに直接言って欲しい。
「そんだけ切実なんだってば」
はは、と笑って口にする言葉に神楽をまじまじと見る。
そこらじゅうに拵えた傷の殆どは師匠が付けたものだが、その一部は自分が付けたものである。色白という訳でもないのにやけに目立つ傷は痛々しく、何だか
気まずく感じた。
それでも避けるのが上手いのか、それが小さなものばかりであるのが救いと言えば救いだ。
「・・・善処します」
「あ?」
「進言してみときますよ・・・期待しないで下さいね」
目を見開いて、間の抜けた声を漏らす。そのよく動く口が次に紡いだ言葉は、それなりに本気だったが故に少々ショックだった。
「ばァか」
明らかな呆れ声に口元がひくり、と引き攣る。殴ってやろうかこのアマ。実行しなかったのは、瞳が思いもよらず優しく細まっていたせいだ。
「巨大魚でも捕って来てよ。したらご馳走作ってあげるから」
「ご馳走」という一言につられ、反射的に頷いた。
(悟飯くんとピコさんで修行してくれてれば、一応私は平和なんだけどな)
いくら神楽でも、純粋な好意の前には言えない一言があったとは、無論秘密である。
|
|
|