まじまじと見ない限り男の子にしか見えないような少女が先導している。
跳ねた黒髪に優しく目を遣って、ブルマは一つの買い物袋を掴みなおした。少女───神楽は両手に大量の袋を持っているに係わらず、歩みは足が地に付いて
いないかのように軽い。
時折振り返って叩く軽口は仕事に疲れた精神を癒してくれた。
「神楽ちゃん、重くない?」
「平気ですよ。少なくとも、修行と称して着させられるピッコロさんのマントよりは軽いです」
へら、と笑って言うその光景を思い浮かべることは簡単だった。重力室での我が夫との修行(程度は落としているようだが)に何とか耐えられるようになった
彼女だから、それでもきっとギリギリで耐え切れているのだろう。
思い出したのか眉尻が情けなく下がる。つい笑ってしまった。
「や、笑い事じゃ・・・あ」
ふいに神楽の視線が動く。裏路地一つ分向こうの通りに、ピタリと固定。探るように目を細め、数秒後、道の脇に荷物を置いて、ブルマに向き直った。帽子を
目深に被って笑う。
「ちょっと待ってて下さいね」
「・・・ねえ、トランクスくん」
幼い声に振り向くと、脇を歩いていた悟天が立ち止まって一点を見ていた。駆け足にそこまで戻る。
視線を同じ方へ向ける。人垣に隠れてよく見えなかったのだが、声から判断するにどうやら刃傷沙汰らしい。ぎゃあ、とか、わあ、とか聞こえてくる悲鳴に、
不謹慎だけれど瞳を輝かせた。
「行こうぜ!」
「うん!」
小さい身体が役に立つのはこんな時だ。大人の股を潜り、狭い空間をわけもなく通り抜ける。輪になった野次馬のゴミ地帯を抜けると、その瞬間、視界の端に
影が過ぎった。
「・・・ん?」
認識と同時に影が地を蹴る。印象が強かったのはまず真っ黒な野球帽で、続いて同色の長いコート。これはマントのようにも見えた。空を舞う身体が、勢い良
く「騒ぎの原因」に突っ込む。
「天下の往来で良い度胸だ、天・誅ッ!!」
ドカァ、と鈍いのか鋭いのか形容し難い音を立てて、その足が「原因」の顔面に突き刺さった。見事な飛び蹴り。格闘技のチャンピオン大会でさえこれ程綺麗
には決まらない。
「警官さん、後は宜しく!」
言って、弧を描いて着地したと同時、さっさと裏路地に退散してしまった。
その人物には酷く見覚えがある。
「神楽・・・だよな」
「だよねえ・・・」
展開に追い付けず見守るに終わった二人は、呆けたままに漢らしい背を見送った。
数年後、「元祖グレートサイヤマン」という屈辱のあだ名を付けられることを神楽はまだ知らない。
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